退魔天使は聖夜に踊る ~復讐の乙女~

【6】地獄の門より出でし者 2

エピソードの総文字数=1,876文字

 ガチャン、と錠前とチェーンが外れる音がした。
 振り返ると、シスターがギギギと門を開けている。
 俺は念のため、腰から銃を引き抜いた。
 シスターも同様に銃の用意をしながら、俺に話しかけた。

「朝っぱらからケモノが沸くことは基本的にはないのだが、この街は今イレギュラーな状態に置かれている。何があってもおかしくはないのだから警戒は怠るな、勝利」
「了解。もうしてる」
「よろしい」
 彼女はふふ、と鼻で笑うと雪交じりの枯れ葉を踏みながら奥へと歩き出し、俺も後をついていった。


 門からてくてくと豪勢なアプローチを数分歩くと、一カ所目のゲートに到着した。
 そこはとても古い洋館の裏庭だった。
 結構大きい屋敷だけど昔は誰かの別荘だったんだろう。

 ゲートは、見た目には分かりづらいのだが、たしかに気配は感じるし、よくよく目をこらせば、人が通れるくらいの時空のゆらぎが分かる。
 でもそんなに一生懸命探さなくても、観察者にも分かりやすいよう、ゲートであることを示すポールが最初から立っている。

 ここは、薙沙さんの残した観察資料によると「沸かない」エリアのはじっこだったせいか、小物の異界獣が数匹、日光を避けて物陰で惰眠を貪っていた。
 甲殻を背負ったモルモットのようなそいつらは、本来黒っぽい色のはずだが亜種なのか色が着いていた。

「ヘンだなあ……。最近カラバリでも増えたのか?」

 この異界獣は、ハンターの中にはペットにしている奴もいるくらい、外に出さえしなければ害もない種類だ。
 つまんでゲートに放り込んでやるのも一興だけど、戻してもすぐまたこちらにやってきてしまうので意味がなく、別の強い奴の餌食にでもなれば、そいつを強化してしまう。
 ちなみに、こいつは食ってもあまり美味くはない。

 というわけで、可愛そうだが処分することにした。

「ここはもういい。次に行くぞ」
 何枚か写真を撮ったあと、シスターが言った。

「何か分かった?」
「ふむ……ただ発生する量が少ないだけのようだが、はっきりとは分からない」
「そう……」
「お前の方はどうだ。何か感じることはないのか?」
「……微かにゲートの詩が聞こえる」
「他には?」
「いや。だけど、初めて聞く詩だ……」

 俺はポケットからメモ帳大の五線紙ノートを取り出して、ゲートから漏れ聞こえてくる不思議な音を記録した。


 この「ゲートの詩」というのは、俺が命名した現象のことだ。
 まれにゲートから不思議な音楽のようなものが聞こえてくることがある。

 この音楽は人間には聞こえない周波数だが、何故か俺には聞こえるんだ。
 きっと動物には聞こえるのかもしれない。

 ゲートによって音楽の種類が違うんだけど、俺は新しい詩が聞こえる度にノートに記録して、これまで結構な数の詩を収集してきた。

 不謹慎かもしれないけど、新しい詩が聞こえると何だかトクした気分になるんだ。まあ、俺の趣味みたいなもんだな。

 こうやって収集した詩を、時々楽器で演奏して人に聞かせている。
 どの曲も俺は気に入ってるんだけど、みんなにウケる詩は案外少ない。
 ちょっと残念だな。

 新しいゲートの詩を写し取り、俺達は無人の洋館を後にして次のゲートへと向かった。


     ☆ ☆ ☆


 俺や弓槻には両親がいない。
 二人とも保護者は教団ってことになっている。

 俺は赤ん坊の頃、教団に捨てられていたのを拾われ、弓槻姉妹はガキの頃に両親を異界獣に奪われた。

 異界獣がらみの孤児は昔っから教団が引き取るってことになってるから、弓槻姉妹にもそれが適用されて今日に至っている。

 両親を失ったのが原因で、薙沙さんはあの仕事をすることになったんだが、正確に言えば、生まれ故郷をケモノから守りたいってのが半分、残り半分は弓槻が将来、教団に頼らずに自立するための資金が欲しかったからだそうだ。

 高校を卒業後、薙沙さんは教団で監視員の資格を取り駐在監視員として任務についた。

 ――その矢先にあの不幸だ。

 きっとすごく無念だったに違いない。
 もしも俺に妹がいて、同じような立場だったら、死んでも死にきれない。
 だって、弓槻はもう、天涯孤独になってしまったんだから。

 弓槻のことは、教団の孤児院で育てられた俺にとって、とても人ごとには思えない。
 でも、彼女を孤独にしてしまった原因の一端は俺にもあって……、どう言っていいのか分からないけど、その、とにかく、いろいろ許せない。

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