放蕩鬼ヂンガイオー

07「なんだこれ!? 格好いいじゃん!?」

エピソードの総文字数=2,437文字

 逃げ惑う人々をかきわける。

 放射状に散る住民たちの中心に、なんだろう……漆黒の人影が浮かんでいた。

 周囲の道路がクレーター状に抉れており、辺りには何台もの車が破壊されて引っくり返っている。みな吹雪にまみれ、白く染まってしまっていた。

 直近でヂンガイが姿勢を低くして人影を睨みつけている。

「ヂゲン獣ッ! 無法はそこまでだし!」
『待ちかねましたぞ、あなたがこのヂゲンの放蕩鬼でございますか』

 人影が語りかけてくる。
 落ち着いた……しかし少々高めの声色であった。

 真夏だというのに、黒のコートとシルクハット。
 露出の少ないその姿の中で唯一覗いているはずの顔が、見えない。

 そこには、ただただ漆黒の闇が靄を噴出しながら渦巻いていた。

『ワタクシはシャドーマン伯爵。ちょうど、良い塩梅の人間を見つけたところでございます。早速試して差し上げましょう』

 シャドーマンが腕を振り上げる。

 指し示された先にはOL風の女性がいた。
 シャドーマンの姿に脅えているようで、道路に尻を着き、あたり構わずわめき散らしている。「だ、誰か助けて! きっと、きのう噂になってた怪しい化け物よ! 誰か私を救い出して! せっかくだから白馬の王子様を!」

 ことの成り行きを見定め、舌なめずりをするシャドーマン。
 女性が眉を吊り上げて叫んだ。「早く来て、誰か男の人! ――ただし、『ただしイケメンに限る』!」

『さあ、貴様の持つ負の心を我に与えたまえ! ダークブキナイズ!』

 女性がビクッと痙攣し、全身からどす黒いオーラを立ちのぼらせた。

 オーラはゆらゆらとうごめき、シャドーマンの顔面へと集まってゆく。オーラが晴れたとき、シャドーマンの顔は、この世のものとは思えない絶世のイケメン……というか、若干古臭い男性フェロモンむんむんの和製伊達男のそれにすげかわっていた。

『ダークブキナイズ完了。人間はみな見た目で他人を判断をするもの、あなたもよーく身に染みて知っているでしょう、落ちこぼれの放蕩鬼? さあ、このイケメンフェイスの前に、男は絶望し、女はメロメロになってしまうがよいでしょう!』

 シャドーマンがまつげ長すぎな瞳を閉じてばちこーんとウインクをする。

 眼前から真っ黒な星型のエネルギーが生まれて地上の人々に降り注いだ。被害者たちは「や、ちょっと濃すぎてあれは生理的に無理」「白馬の王子様なんて実在しないのね……」「ウインクとんできたとこ早く拭かないと!」などと怨嗟の言葉を吐きながら全身に霜を張らせていく。

 予想とは微妙に違う反応だったがおおむねみな苦しんでいた。

「よ、よし、やるぞヂンガイ!」
「応なのだッ!」

 いったん物陰に隠れるべく二人して背後に駆け出す。
 と、人ごみに見覚えのある姿が見えた。

「なによあれ! あれがうわさのかいじゅうってやつなの!?」

 寿司雁から飛び出してきた凛であった。
 燦太郎はすれ違いざまに凛の肩を軽く叩いた。

「大丈夫だ。ヒーローが守ってくれるから」
「え、そ、そうなの!?」
「おう。だからちゃんと隠れてな、もう絶対に転ばないようにな」

 凛は一瞬ぽかんとしていたが、すぐに気を取り直して瞳に力を取り戻した。

「うんッ!」

   ■   ■   ■

「チェインジッ! ヂン・ガイ・オーッ! なのだ!」

 人通りの無い路地裏を光が照らす。

 同時、割と近所から破壊音が聞こえてきた。
 オレベースの方角である。

 燦太郎が頬を引きつらせて空を見ると、無数のヂグソーが空を駆けて集まってきていた。
 次の瞬間にはその全てがヂンガイに集い、役割を与えられたヂグソーたちの一部は武装に、残りは周囲を高速で旋回し続ける機動オプションとなった。(ちなみに着ていたメイド服は光と化して消えたが別のヂゲンに収納しているらしく、のちほど洗濯のうえ返却という約束になっている)
 本当はこのヂグソー集合シーンから観客にお披露目したいところなのだが、プライバシー保護の観点から今回は見合せとなった。

「じゃあ頑張れよ。俺は顔バレが嫌だから、影ながら応援してるゾ」
「ふざけんなしっ!? ここまできて放ったらかしとかどういう了見なのだッ!? そんなこというなら、これでも喰らうがいいしっ!」

 ヂンガイの周りを高速回転しているヂグソーのうち、十数枚ほどが軌道を離れて燦太郎の顔面に直線距離でかっとんで来た。

「おごォっ!?」

 衝撃で背中から引っくり返る。
 道路を転げまわって悶絶していると、顔に張り付いたヂグソーが液体のように蠢き姿を変えた。

 近場のビルのガラス窓に顔を映してみる。
 ちょうど目から下を隠す形で漆黒のマスクが完成していた。

 もたもたと立ち上がると、更にマスクの首元にあたる部分から噴水さながらに黒い液体金属が噴出し、全身を覆うマントに変化した。

 全身黒ずくめの上、顔面は瞳以外が全て隠されている状態だ。ここまですれば正体はばれにくいだろう。シャドーマンの姿と若干かぶっているのが気がかりだが贅沢も言っていられない。

「ッカァー! なんだこれ!? 格好いいじゃん!?」
「それあげるし。エネルギーシュルツェンで敵の攻撃も防いでくれるのだ」
「エネ……え、バリアってこと!? マジかよ、すげえ!?」
「さあ出撃なのだ!」
「……て、うおわああああああああああっっっ!」

 ヂグソーに引かれて強引に飛翔させられるのは変わらなかった。いや、昨晩はどこの馬の骨とも知れぬヂグソーどもが服に入り込んできて強引に飛ばされたが、今回はヂグソー心臓やマスク・マントなどの私物(?)が浮力を生み出して自分を持ち上げてくれているのだ。

「だからって別に一緒だけどなっっっ!」

 身を翻して颯爽と飛ぶヂンガイを追い、燦太郎はブリッジの姿勢で腹から空へと舞った。

◆作者をワンクリックで応援!

0人が応援しました。

◆コメント欄は未記入でもOK! 公開されないのでお気軽に。

ページトップへ