『みじょかもんの祈り ー 心の貧しい人は幸い? ー』

04. 「先生、死にたかとよ。」

エピソードの総文字数=1,916文字

Bさんは、部屋で寝たきりの100歳を越す女性であった。

テレビのスイッチは入っているのだが、見ているのかどうか、分からない。
顔は、そっちの方に向いている。

思いついたように体を起こし、棚から、カタッと音を立てて、ゆっくりクシを取って、そっと髪をとかすのだった。

私は、彼女の横に座り、「お話しさせていただいても、よろしいですか?」と尋ねる。

コミュニケーションにおいて、「ソーラー」というものを授業で習った。
SOLERとは、
S(Squarely)‥ 向かい合うこと
O(Open)‥ 開いた姿勢
L(Lean)‥ 相手へ少し体を傾ける
E(Eye contact)‥ 視線を合わせる
R(Relaxed)‥ リラックスして話を聞く
また、バイスティックの七原則というテクニックというのもある。
(バイスティックの七原則も、コミュニケーションで、とても役に立つので、お調べいただくと良いと思います。オススメです。)

学校で習ったものを、頭から引き出し、ご婦人に向かい合った。

Bさんは、色んな話をしてくれた。
自分の好きなこと、
住んでいた場所のこと、
昔の長崎について、か細い声だが、笑顔を見せて下さった。
質問もしてくれた。

「先生は、学生さんね? どこに住んどるとね?」

Bさんは、職員に対して「先生」と呼ぶ。
私のような実習生にも「先生」と呼んでくれた。

しかし、急に顔色が変わり、哀しげな顔になった。
細い顔に、一筋の涙が流れ落ちる。

「先生、死にたかー・・・・。」
「どうしたんです?」
「先生、死にたかとよ・・。もう、知っとる人は、みんな死んでしもうた。
主人も・・子供も・・寂しかとよぉ・・・先生、死にたかぁ・・・死にたかとよ。先生・・・」

後で、職員の方に聞いた話だが、Bさんは、
第二次世界大戦を経験し、原子爆弾投下の時も長崎にいらっしゃった。
孫やひ孫の方々は、たくさんいらっしゃるらしい。
しかし、自分に近い親類は、亡くなってしまっていた。
面会に来る人も、ほとんどいないそうだ。
彼女は、認知症で、昔の記憶を思い出しては、死にたいと口にするそうだ。

高齢者の現実を初めて目にした。
「長生きが幸せか?」という問いを聞いたことがある。
言葉が見つからなかった。

人は「先のことは、考えても仕方ないから、目を瞑っておこう」というのが、一般的な姿勢だろう。
確かに仕方ないことなのだろうが。。

普段、目にしていなかっただけで、このような境遇の方は、世界にたくさんいる。
自分も、いずれは、そうなっていくのだろう・・・。
元気なうちに何ができるのか。
後悔しない人生とは何か。

そんなことを、Cさんの隣に座りながら考え込んでいた。
Cさんは、80歳くらいのご婦人である。
実習生は、利用者の方に、午後のおやつを配ることは許されていたので、Cさんにもプリンを持って行った。

プリンのフタを開け、スプーンを手に持たせる。
すると、スプーンでプリンをグリグリこねる。
そして、隣で考え事をしていた私の髪の毛を鷲掴みにして来た。

「イタタタタ・・・・っ」
何という怪力。

「んばんばんば・・・」
言葉にならない声を発しながら、プリンを口にする。
目の焦点は定まっておらす、天井を見つめていた。

Cさんは、隣にいると大変だ。
いつも、なぜか髪の毛を引っ張るのだ。

介護において「話す時は、横に同じ高さになって」というのが基本なのだが、
ただでさえ年々無くなっていく自分の髪の毛。
だから、Cさんのといる時は、真ん前に座ることにした。

話しかけても、「んまんまんま、、」と言ったり、「たかし、、、」と息子さんの名前を呼んだりしていた。
Cさんには、面会に来てくださる息子さんがいる。
実習中にお会いすることもあった。
息子さんと接している時の、Cさんの目の輝きは全然違っていた。
家族とは、こういう存在なのかと思った。

そうこうしていくうちに、2週間の第1段階は終わる。
職員はもちろん、利用者の方々に挨拶して回る。
ほとんどの方が寝ていらっしゃったり、私のことは覚えてらっしゃらない。

隣に座る機会の多かったCさんに、いつものように正面から挨拶をした。

すると彼女は、私を見て、こう言った。

「あ、、ありがとさん。。」小さな声で私に話した。

「、、!?、、、、え?」

おいおい、今までのは、演技だったのか? Cさん・・・。

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