放蕩鬼ヂンガイオー

08「くまりのほうが恥ずかしいやつ多くないですかぁ……」

エピソードの総文字数=4,256文字

「くまり、負けませんから」
「ぷくく。その気概だけは褒めてやるのだ」

 外野の声もうるさく、何の話をしているのか燦太郎まではっきりと伝わってこない。
 
 しかしそれでも感じられる。
 両者の戦意は十分なようである。 

『――そ、それでは! 気を取り直してヂンガイ選手の動きに着目してみましょう!』

 クレーム対応から復帰した雁が改めて進行を再開する。

「よおし! このまま押し切るのだ!」

 ヂンガイは手近にあった岩山に飛び込んだ。
 そして何事もなかったかのように岩陰から飛び出し、雄雄しいポーズをとりながら再登場した。

 同時、ちょうどいいタイミングで彼女の背後で噴水花火が上がる。

「くっ! 戦隊ものの定番、『背景で脈絡のない爆発』か! ホニャララレンジャーの登場シーンが脳裏にありありと浮かぶようだ!」

 こちらも反撃だ、と燦太郎は小道具を投げる。

「姫荻!」
「は、はいぃ……」

 空中でキャッチしたくまりは、それをそのまま顔面に装着した。
 ……シャンプーハットである。

「んっ……です……」
『あれはライオン系の巨大ロボットですね! 元来、ヒーローもので動物モチーフは定番でありますが、中でもライオンの人気はダントツ! それをシャンプーハットで再現と言い張る勇気!』
「な、なんか、くまりのほうが恥ずかしいやつ多くないですかぁ……」

 文句を言いながらも、それっぽくポーズをとってくれるくまり。

 観客の反応は上々だ。
 点数はヂンガイ82に対して、くまり77。
 相手が小技だったこともあってか点差は縮められた。まだまだ気は抜けないが善戦しているほうだろう。

 くまりは先ほど手に入れた入場チケットを取り出し、自分の左手の甲を沿わすようにスライドさせた。

「く…………くまり、はんまー……」

 脱いだばかりのニットの端を持ち、回転させる形で振り回す。
 天甚が目を見張る。

「やるな、これはフォームチェンジか。カード使用型のフォームチェンジで、今まさにクマリンオーはデフォルト形態からフレイル装備の重装備形態へフォームチェンジしやがったわけだ」
『カタギの方のために解説させて頂きますと、トレーディングカードを専用デバイスで読み込むことによりそのカードの種類に応じた特化変形ができるというヒーローものの定番演出になります。なお、ヒーローものでは鎖につながれた鉄球等を振り回すフレイル系の武器全般をなぜかハンマーと呼ぶ風習がありますのでご注意ください』

 ならばこちらも、とヂンガイがプールから這い出し、同じく入場チケットを天にかざした。

 盗品の手帳を取り出し、カバーと端末との間にチケットを挟みこむ。
 くるりとその場で一回転してから、不思議な手振りでダンスをし始めた。

 燦太郎は驚愕に口を全開させられることになった。

「じ、女児向けヒーロー版のフォームチェンジか! ラブキャラでも採用されている人気システムで、カードに描かれた服装に変身し、その格好の持つ特性を体得することが出来るニクい演出だ! 単純に強くなる男児向けのものと違い、オシャレの要素を内包した独特のメカニズムをここで再現するとは!」
『解説させて頂きますと、ヂンガイ選手はダンスの要素を含んだ衣装に変身している設定のようです。お着替え系フォームチェンジの中でもダンス系は特に人気で、作品により世界各国様々な踊りの衣装が取り入れられております』

 電光板に表示された点数はヂンガイ87、くまり82。
 またも敗北であったが、点数自体は上がってきている。ここらで反撃に転じたい。

「姫荻! 次はこれを使え!」

 燦太郎が渡すのは黒のゴミ袋である。
 くまりはおとなしく受け取り、自分の半身に巻きつけた。

『おおっと、これはマントでしょうか! たしかに定番ではありますが、これだけの接戦です、普通のマントで高評価は出しにくい気もしますが……』

 雁の言葉を振り払うかのように、くまりはゴミ袋を巻きつけていないほうの半身……右目に眼帯を装着した。

 天甚と雁、二人は同時に正体に気付いたらしく、身を乗り出して大口を開けた。

「それは――『劇場版主人公』かッ! テレビ放映時点の物語よりも時代の進んだ世界を描くことが多い劇場版で、その間に経た主人公の経歴をダメージで表現するというそりゃあもうシビれる演出だ! たいてい半壊した部分なんかを隠すために体の一部をマントや眼帯で覆ってるんだが、それがまたダークヒーローっぽくて格好いいんだ!」
『あまりポピュラーな演出ではありませんが、確かにこれは素敵です。なお、劇場版主人公というのはおそらく天甚氏の造語であり、実際はテレビ放映のアニメでも放送クールをまたぐ時間経過を表すときなど別のバリエーションで登場することもありますのでご了承ください』

 かなり感触がよさそうだ、これならいけるかもしれない。

 手ごたえを感じているところに、しかし、天甚の目が不敵に輝くのだった。

「そっちがそこまでやるのなら、ワシだって本気でいかせてもらうしかねえな」

 ヂンガイが進み出る。のだが、その半身に白のバスタオルを巻いていた。

 くまりがゴミ袋を左半身に巻いていたのに対し、ヂンガイは全て体の右側に巻いている。

『会場にどよめきが広がっています! これは、天甚チームともあろうものがパクリでしょうか! いや、それとも……あっ、ひょっとして『にせものヒーロー回』に登場する、バッタモン怪人でしょうか!』
「いや……違うな」

 状況を理解していたのは燦太郎だった。
 自分で自分の体を抱き、恐怖からくる震えを押さえていた。

「あの姿は『反転ヒーロー』、最強クラスの敵幹部だ。全身が主人公と似たパーツで構成されていながら、全てにおいて真逆の存在……ライバルの中のライバルだ。これがまた強くて格好良くて、敵でありながら場合によっちゃあ主人公より人気が出ちまうこともあるんだ」
『そ、それは、本当にメジャーでしょうか! カッコ困惑!』
「俺が許す」
『なら仕方ないですよネー! はい、今回は黒に対しての白ですが、実際は聖なる主人公に対してダークな雰囲気を持ったボスキャラが多いでしょうか! にせものヒーローと若干似ている要素もあるのですが、あれはあくまで格下のザコがやる小手先の作戦! それに対し、反転ボスは常に主人公たちの行く手を阻む強力なライバルとして君臨し続ける存在であります!』

 採点が表示される。点数はヂンガイ95、くまり95。

『おおっと! ついに並びました! この勝負、決着はどうなるのか!』

 雁が会場の興奮を煽る。

 正直、いまだにちゃんとした勝敗のルールがよくわからないが、この流れで逆転したらヂンガイだってくまりを認めてくれるかもしれない。

 同じことを思ったのだろうか、くまりは先手を取るべく駆け出した。

「燦太郎くん、つ、次こそは勝ってみせますっ!」
「ま、待て! ここはあせらずに確実に攻めるぞ!」
「……だ、大丈夫です! くまりだって、ちゃんと戦えるところを見て欲しいんです!」

 くまりは燦太郎の制止を振り切って、ウォータースライダーへと続く階段に駆け寄った。
 少々高さがあるスライダーなのだが、そのぶん豪快な滑りが楽しめる人気のアトラクションである。

 螺旋階段を越え、踊り場を越え、放送席の真横を越え、全力疾走で乗り場へとたどり着く。

「見ていなさい、ヂンガイさん…………って、きゃんっ!?」

 焦りすぎたのだろう、くまりは濡れた乗り場に足を滑らせて転倒した。

 転び方が悪かったようで、捕まろうと伸ばした腕が柵をすり抜け、体重を丸ごと宙に投げ出す格好となった。

「えっ!? わっ……困り果てますっ!?」
「姫荻ッ!」

 くまりの落下が始まる。

 燦太郎が駆け出す。
 しかし遠い。駄目だ、間に合わない。

 背筋に冷たい汗が流れたそのとき、プールサイドから何かが飛翔した。

「なに――――やってるのだッ、AQ女ッ!」

 ヂンガイだった。
 ポケットヂグソーを全て腰に集め、浮力を集中させて飛んだようだ。

 くまりが地表に到達する寸前、抱きかかえるようにしてキャッチ。

「ふおわっし!?」

 馬力が足りないのだろう、そのまま重力に抵抗できずに木の陰に落下した。

 燦太郎はあわてて駆け寄り、植え込みをかきわける。

「大成功! なのだ!」

 不意打ちで、植え込みの中から手が伸びてきた。
 ヂンガイのブイサインである。

 隣でくまりが引っくり返っていたが、大きな怪我はないようだ。

「ぢ、ヂンガイさん……、敵方なのに、くまりを……」

 感動した様子のくまりに対し、ヂンガイは誇るでもなく鼻をかいた。

「べ、べつに。ヒーローは、みんなを守るものなだけだし」

 周囲から、どこからともなく拍手と歓声が上がる。
 これは演目ではないのだが、かなり観客を盛り上げたらしい。

 突発で電光掲示板が点灯した。表示はヂンガイ100、くまり計測不能。

『よ、予想外のアクシデントが起こってしまいましたが、午前の部、決着です! 天甚チーム、ヂンガイ選手の圧勝です!』

 こうしてくまりは、午前の部を敗北。
 雁のアナウンスによりお昼の休憩が挟まれることが告げられ、選手、観客ともにいったん解散の運びとなった。

 くまりは目を白黒させながらも、しかしすぐに落ち着きを取り戻していた。

「……あ、ありがとうございました、ヂンガイさん。くまり、嬉しかったです」

 燦太郎の目にはたしかに見えた。くまりの胸からLAEの淡い光が浮かび上がり、きちんとヂンガイの元へと届いていたことを。

 ……と、そこで終わっていれば美談だったのだが。

「ん?」

 不意に、燦太郎の目の前で何かが跳ねた。

 見るとくまりの手帳である。それ自体は特に何の変哲もなかったのだが、ぶつかった拍子にカバーが開き、何かの画像が表示された。

「おい姫荻。大切なもんなんだろ、水に濡れる前に拾っ……て……」
「あ! ちょっと待って! 燦太郎くん! それはダメ! ダメなやつです! 待って!」

 燦太郎が拾い上げてみると、自分の――燦太郎の姿がばっちり写されているフォト画像だった。

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