放蕩鬼ヂンガイオー

13「ヂンガイオー! 合体、承ぉぉぉ――認ッ!」

エピソードの総文字数=1,861文字

「燦太郎くん! シャンプーハットです!」
『はァ? 戦いのさなかに、何の話ですノ』

 コソが首をかしげている。
 普通に聞けば意味不明の発言だが、これは――

「ッ! そうか!」

 ヂンガイの肩をたたいて方向修正する。

「ヂンガイ、叩き割れ!」
「これくらい、LAEが少なくたってぇッ!」

 ヂンガイが金棒を振りおろす。少量ながらもありったけのLAEを注ぎ込んだ一撃が――ステンドグラスを叩き割った。

 そう、シャンプーハットは先ほどヒーローごっこで使っていた小道具。表現していたのはライオンのたてがみだ。くまりはそれを暗号に使って意思を伝えてきたのだ。

 ライオンの怪人、シシドクロを模したステンドグラスが粉々に砕け散る。

『何をッ、やっているノ!』

 コソが跳ねる。
 次の瞬間、燦太郎とコソの――鼻同士が触れ合っていた。

「なっ!?」

 コソに、いつの間にか眼前まで肉薄されたのだ。尋常なスピードではない。

『ヒヒ……』

 コソが、ゆっくりと抱きついてきた。
 感じたのは人肌ではない。壮絶な冷気が燦太郎の全身を焼く。

「うおわ熱っぢぃっ!?」

 思わず熱いと表現したが、条件反射で口から出ただけだった。
 寒いという感覚と痛いという感覚を一瞬で通り越して、ただただ神経に与えられた強烈な刺激だけが脳へと届いていた。

『人間ごときが、ふざけたことを企んでんじゃないわヨ。このまま氷漬けにしてあげるワ』

 コソが、のしかかるようにして全身を押し付けてくる。

「うあがあああああああああッッッ!」

 心臓ヂグソーの加護がなければ即ショック死してもおかしくない。

 耐えろ自分。なぜなら苦しみは一瞬のはず。ステンドグラスを割ったのだから、すこし凌げばヂンガイがLAEを集めてコソを倒してくれるはず。

 横目で隣にいるヂンガイを見やる。

 ヂンガイは――呆然と立ち尽くしていた。

「だめ……なのだ」
「お、おまえ!? なにやってんだよ!」

 声を枯らして叫ぶ。

 ヂンガイは確かにステンドグラスを破壊して……破壊したのだが――その割れたガラスの向こう側、『ただ広がる暗闇』に視線を泳がせていた。

「な……に……?」

 窓の外の光景は、外界ではなかった。

 ただただ光を通さない暗闇だ。『暗い』という感覚とも少し違う。多分に感覚的なものだが、『光がない』という印象が近いだろうか。

 その正体が何なのかはわからなかったが、少なくとも正常な空間でないことだけは理解できた。

 絶望する燦太郎に、コソは愉悦の笑いを漏らした。

『外からLAEを集めるつもりだったノ? 甘いわねェ。ここはヂゲン城、窓は自由気ままにさまざまなヂゲンとつながっているわ。帰りたかったら……そうね、分厚ーい城の壁そのものを壊したほうがいいんじゃなイ?』
「なっ……」

 そんな馬鹿な。手持ちのヂグソーとLAE量でそんなことできるはずがない。

 絶望が痛みを後押しした。今の今まで脳内麻薬でなんとかしていた苦痛に壮絶な現実味が宿る。
 
(ここまでか………っ)

 急速に薄れてゆく意識。

 そのときである。

 どこか、遠くから小さな声が届いた。

「――ありがとうございました、燦太郎くん。おかげで手帳が手に入りました」
『ナニ!?』

 コソと共に視線を投げる。
 そこには瓦礫の上で――手帳を拾い上げて誇らしげな顔をしているくまりがいた。

「……手帳!? 姫荻、ほんとはそっちが本命だったのかよ!?」
「ごめんなさい。吸い込まれたときから、このお城は普通じゃないって思ってました」
「でも、今更ヂグソーが増えたって、LAEがどこにも……」

 くまりは姿勢正しく頭を下げる。

「そんな弱気、燦太郎くんらしくないですよ。囮にさせてもらったことは謝ります。なにせくまりは、AQが役に立つところを見せなければならなかったもので。見せ場、頂いちゃいました」

 言って手帳を振り上げた。

「今だけは、燦太郎くんのヒーローにならせてください」

 くまりの額に大量の汗が浮かぶ。

 頬が上気し、顔色がどんどん赤くなっていった。深呼吸をしている。吸って、吐いて、また吸って。

 ほんの少しだが、彼女に落ち着きが戻ったように見えた。
 よく見るとひざなんて震えているが、それでもくまりは敵に向かって顔を上げた。

「ぢ、ぢぢぢぢ…………ヂンガイオー! 合体、承ぉぉぉ――認ッ! ですッ!」

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