神さまとクソゲーと説明書

三、寿命をお金に変換しよう

エピソードの総文字数=2,495文字

---------------------------

 時間経過と共に減少していくリソースは二つあります。一つは先に挙げた「寿命」で、もう一つは「お金」です。ゲームを始めてからしばらくの間は(大抵の場合)「お金」リソースは減少しません。あなたの「家族」があなたの代わりに「お金」リソースを消費してくれるからです。

---------------------------
---------------------------

「お金」は一般的には「寿命」を消費することで入手できます。あなたの「クラス(職業)」により、「寿命」を「お金」に変換する際の変換効率が変わってきます。一時間の「寿命」を千円にしか変えれない人もいれば、五千円や一万円に変えることのできる人もいます。

---------------------------
---------------------------

 できるだけ変換効率の高い「クラス(職業)」に着くのが一般的な〝巧いプレイング〟となります。ただし、変換効率の高いクラスほど、要求されるスキルや名声、トロフィーなどの条件が厳しくなります。

---------------------------
「この『寿命リソース』→『お金リソース』の変換がゲームの基本となります。……って、こんなこと、書かなくてもみんな分かってると思うけどなあ」
「いやいや、キミ。説明書は親切すぎるくらい親切でいいんだよ。ところで、寿命リソースが尽きるとゲームオーバーだとしてだ。このお金リソースが減少すると、どういう悪いことがあるのかね」
上司が素朴すぎる問いを投げかけてきた。
このクソは以前にログインした時、初期ボーナスポイントをいじって王族としてゲームスタートしやがったので、カネに困るような経験をしていない。だから、そのへんのことが何も分かってないのだ。
まったく、なんてやつだ。運営がチートを使ってプレイするとか、あるまじき所業だ。おれが以前にいちプレイヤーとしてログインした時は大工の小倅だったというのに……。
「……ええっと。お金リソースが減少すると選択できるコマンドが限定されるんですよ。新スキルを得にくくなるし、『出会い』『結婚』イベントなども発生しづらくなります。基本的にはお金リソースが多いほど、幸福点は稼ぎやすいです」
「ふむ……。じゃあ、お金リソースがゼロになったら?」
「「寿命」リソースが急激に減少してすぐにゲームオーバーになります」
いわゆる餓死というやつで、サービス開始直後からつい最近まで頻繁に発生していたが、一部の地域ではようやくこれが解決され始めている。
「『寿命』がなくなってもゲームオーバーだし、『お金』がなくなってもゲームオーバーなのに、『お金』は『寿命』から作らなきゃならないのかい? なんて窮屈なゲームだ。そりゃあクソゲー呼ばわりされるわけだよ」
「ちょ……なんてこと言うんですか!」
またワケの分からない事を言いだした! おれはコイツにゲームの初歩から説明してやらなければならないのか!?
「いいですか、部長! ゲームにはジレンマが絶対必要なんですよ!! あれも大事、これも大事、でもどちらかを選ばなきゃいけない。その選択と判断にプレイングが絡んでくるんです!」
「フーン……」
「『寿命』は長くゲームをプレイして幸福点を稼ぐために絶対必要ですけど、『お金』もあった方が幸福点を稼ぎやすい。けど『お金』に変換しすぎても、今度は『寿命』リソースが足りなくなって、結果として『幸福点』を稼ぎにくくなる。そういうジレンマの中で良い塩梅を見つけて、ハイスコアを狙うのがこのゲームの醍醐味なんですよ!」
「あのさあ、キミさ」
「はい」
「そもそもこの『寿命』って要素、必要なの?」
「はい?」
「別に強制ゲームオーバーにしなくても、飽きるまでずっと遊ばせてやればいいじゃないの。そしたらさ、ほら、『子作り』っていうイベントも削れるし、ゲームがグッとシンプルで分かりやすくなるでしょ」
クッ……またこういうことを……。
部長世代のゲーマーは、まだハードが貧弱だったから、複雑なゲームは遊べなかったのだ。そして、その頃の思い出を美化しているので、ゲームはシンプルならシンプルなほど良いと思っていやがるのだ。
「部長、さっきも言いましたけど、ゲームにはジレンマが大事なんです。選択肢がたくさんありすぎて一周プレイじゃとても全部網羅できない……、そういうゲームが今は奥深いとされて歓迎されるんですよ。たこ焼きと同じです。プレイ時間も『ちょっと足りない』くらいが一番いいんです。実際にゲームオーバー後のプレイヤーの過半数が再プレイを望んでるんですから」
「ジレンマねぇ……」
おれの説得力溢れる返答にもかかわらず、ボケ上司は首を傾げながら言った。
「ジレンマとか、そういうの本当に要るのかなぁ。ユーザーは延々とスコアを稼ぎたいって思ってるんじゃないかなあ」
やはり上司には分からんのだろう。おれの提案する奥深いゲーム性が。リソースが限定されているからこそ生まれる喜びや悲しみがあって、それがゲーム体験をドラマチックにするのではないか。
上司の作った『銀河』なんて、えんえんと、えんえんと、えんえんとポチポチ、ポチポチ、クリックし続けるだけで、まるでドラマ性というものがない。あんなものを延々と遊び続けてるやつらのことが全く理解できない。ただただ宇宙を再現なく膨張させるだけのゲームの何が楽しいんだ。
悲しみがあるからこそ喜びも生まれるのだ!
有限だからこそ選択する自由があるのだ!
まあ……確かに、「最低限のお金リソースを確保するために寿命リソースを使いすぎてて、ゲームの爽快感がまるでない」と訴えるプレイヤーたちもいる。結構いる。それは否めない。
自動減少するリソースの確保だけでゲームが終わってたら、そりゃあ自由度も低すぎるしクソゲーに感じるかもしれないが、でもそれは、個人のプレイングミスとか、ホモ・サピエンス全体のプレイングミスとかの結果であって、おれのゲームデザインに問題があるわけでは断じてないぞ。うん。
(続く)

ページトップへ