地球革命アイドル学部

ビッグバンプロジェクト(5)

エピソードの総文字数=1,896文字

 校長室。

 俺と一華はすべての受け持ちの授業が終わったあと、校長に呼び出されて向かい合っていた。

ビッグバン計画の進展はどうだ?
 校長はさも重々しく、一華に向けて確認した。俺のことはまるで期待していないようだった。
わ、私に聞かれましても……。宇宙方面の成果はどうですか、ビッグバン?
 一華が俺を向いて切々と聞いてきた。
ノー、ビッグバン。
 俺は肩をすくめたが、今度は校長が俺を睨みつけるようにして問い質してくる。
ビッグバン?
 責任がたらい回しされてくる状況で、残念ながら俺には次にたらいを回す相手がいなかった。
おおう……ビッグバン……。

 なんとか適当にはぐらかせないかと言葉を濁してみたのだが、校長は表情険しく追及してくる。

ビックバーン?
……ま、まずは人の確保が先決ということで早速動いています。そこがなくては何も始まりませんからね。
ほほう……。どの生徒が移籍することに同意してくれたんだ?
まだ誰も……。
何だと、どういうことなんだ?
一応すぐにアイドルとして通用しそうな子に声をかけていますが……誰も興味がないようです。
バカな!? アイドルになりたくないはずがない!
いやいやいやいや。
 お約束の合いの手を入れた俺に、一華が続く。

校長先生、アイドルを神聖視してませんか……? それ、たぶん昭和の発想ですよ~。

急いでくれ、もたもたしているヒマなどないのだ。学生たちが来年の入試の願書を出すときまでに、なんとしても我が校のアイドルの華やかな雰囲気を壮大に演出しておく必要がある。

 そんなタイトすぎるスケジュールじゃ無理にも程があるというものだが、熱くなっている校長を説得しようとしても難しいタイミングであろう。

 学生たちは遅くとも秋くらいまでには志願校を決めるものだ。今は春。夏を超えて、その時期を迎えるのはあっという間である。学科や学部を新設して軌道に乗せて、ましてやそれを広告的に成功させるなんてどだい無理筋な話だ。

うちの生徒たちばかりに声を掛けるのではなく、外から相応しい女子を引っ張ってきてくれてもいいのだぞ。何なら、もう売れているアイドルをスカウトしてきてくれないか。特待生として優遇させてもらうだけでなく、高校から特別給付金も出そう。

実績どころか実態もないところに来てくれる売れてるアイドルなんているわけないですよ。

 一華の話にはうなずくばかりだった。

 とはいえ、無理だ無理だと駄々ばかりこねているのは建設的な姿勢ではないだろう。現に最前線で仕事をしているのは俺しかいないのだから。

ご提案よろしいですか。
ビッグバン?

イエス、ビッグバン。いっそここは、猛獣よりも強いと話題の空手部主将を、アイドルとして仕立て上げるのは如何ですか?

何を言っているのだ宗形くんは……。この壮大無比なプロジェクトは、強大なブラックホールをうやむやに消し飛ばすため、ビッグバンを巻き起こすという計画なのだぞ。

空手部の九道姉妹なら、すでに雑誌でも幾度も取り上げられる日本武道界のホープですし、去年はテレビニュースにも女子武道家としてちょっと顔を出す機会すらありました。高校として、これを利用しない手はありませんよ。

冗談ではない……。九道姉妹のあの無双の強さ、アレはもう人間ではない。そしてあの強靭な精神力や心構え……。そもそもあんな存在が、女子高生であっていいはずがない。

いや、その姉妹を特待生に決めたのは校長だったのでは……?

む、むうう……。私は高校の星となるべき存在をスカウトしてきたつもりだった……。だがその星が勝手に超新星爆発を起こし、ブラックホールに転化してしまうとは予想外……。

宗形先生の案、なかなか良いかもしれませんよ。私、初めてこの無茶なプロジェクトにもほんの少しだけ可能性を感じました。もし九道姉妹が前向きに乗ってくれて、ちゃんと自分たちを売り出していく意思が持てるなら、ですが。あの子たちすごく可愛いと思いますし。

ありえん……。そんなバカなことがありえるはずがない……。
毒を喰らわば皿までというお言葉をご存知ですか?
 俺は、生徒会長――桜丈菜月の受け売りを言ってみた。

九道姉妹は毒などではない。生物化学兵器だ。その正体は、私を殺しに来た暗殺者だったのだよ……。

そんなバカな……。

事実、私は夜もうなされ、命も奪われそうなほど苦しんでいる……。あんなモンスターを人類が生み出してしまったなんて、ありえん……。

 校長の話は支離滅裂になっているようだった。完全にノイローゼである。

 俺と一華は困った風に顔を見合わせ、適度なところで話を切り上げて校長室をそそくさと後にした。付き合ってはいられないというやつだ。

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