オーバー・ザ・フェンス~十字架と罪過は誰が為

第二十八章 エゼキエル書三十四章十六説

エピソードの総文字数=1,616文字

『わたしは失われたものを尋ね求め、追われたものを連れ戻し、傷ついたものを包み、弱ったものを強くする。しかし、肥えたものと強いものを滅ぼす。私は公平をもって彼らを養う。』エゼキエル書三十四章十六説


 コナーがキッチンで皿を洗っている間、俺はテーブルクロスを下ろして畳み、椅子を片付けた。その時、聞きなれない着信音が鳴り始めた、顔を巡らせると壁に掛けられている観葉植物の植木鉢にスマホが立てかけられていた。音の発信源はそこだった。
 俺はそれを手に取ってキッチンに赴いた。
「電話だ。仕事の方じゃないか?」
「ああ、ごめん。適当な場所に置いておいて」コナーはこちらをちらっとみてそう言った。
「なら植木鉢以外にしておくよ」と、俺は言った。そして丸テーブルの上に滑らせた。
 コナーがキッチンから戻ってくるとスマホを手に取って画面を眺め、掛け直し始めた。
「もしもし、葛城ちゃん。どうしたのこんな時間に?」コナーはこちらを見て何か言いたげだった。
「琥珀ならすぐ横にいるけど。ええ、そう。じゃあ話してみる。わかったわ、それじゃ代わるわね」
 コナーは俺にスマホを押し付けるように渡してきた。俺が眉をひそめると彼女は首をふった。
「あなた、またスマホを忘れてきたのね」彼女の軽い口調が聞こえてきたが心なしか心配げであった。
「俺だよ。スミカ、出られなくて悪かったな。何かあったのか?」
『あったというか、あるというか……頼みたいことがあって』
「それは?」
『その……ほら前に洗礼式に出るっていったじゃない?それで思ったんだけど、兄さんは洗礼名に何を選んだの?』
「……アッシジのフランシスコだが?」
『その人ってどういう……?』
「堅苦しいことを言えばフランシスコ会の創始者でイタリアの守護聖人の一人だ。だが俺は洗礼の時、そんなの全く知らなかった。知っているのは、彼は描かれた絵の中で多くの小鳥に囲まれているってだけでな。まだガキだった俺は小鳥と仲良くなりたいからってことで洗礼名に選んだに過ぎない。聖フランシスコの祈りなんてずっと後になってから存在を知ったしな」
『なるほど、なるほど……えっと頼みごとなんだけどさ、その……もし私が洗礼式に出る時、代父になってくれない?』
「……代父ね、わかった。いいだろう」俺はしばし考えてから口を開いた。いずれにせよ彼女が洗礼式に参加するとは限らない。しかし、スミカは俺の答えにほっとしたように気の抜けたため息をついた。
『あ~よかった。断られたどうしょうかと』
「どういうことだ?」
『あ、いやいや、なんでも無いの!じゃあコナー姉さんによろしくね!』俺が返事をする前に一方的に葛城は電話を切った。なぜ別れを告げる前に切るのかといぶかりながらもコナーにスマートフォンを返した。
「代父って?」
「ゴッドファーザーになってくれだとさ」俺の返事にコナーは明らかに困惑の色を浮かべていた。今頃頭の中であの名曲が流れているだろう。俺はポール・モーリアの演奏が好きだが。
「マフィアの方じゃないぞ、まあ簡単に言えば証人みたいなものさ。神との契約を見届ける役目で……まあ、そんなものさ。後は信仰生活上での親の役割を担うってことだ」
 コナーは唇に指を当てて考え込み、その指で俺を指した。
「あなたがなの?」
「俺じゃ役不足ってか?」傷ついたと言わんばかりに両手を広げて見せると彼女はふっと笑った。
「勘違いしないで、ほらいつも家族や親とかに否定的な事ばっかり言っているからそれを思い起こさせるもの全部嫌いなのかなって」
「生物学上の親とか家族は大嫌いさ、それは変わらない。だが家族は自分で選ぶことができる。まあ、今回の場合は実際に洗礼式に出るのかわからないがね」
「だからといってわざわざあなたにその時はよろしくって言ったのだから見込みはあるんじゃない?」
「まあ、かもしれないな」俺は肩をすくめて笑った。

◆作者をワンクリックで応援!

0人が応援しました。

◆コメント欄は未記入でもOK! 公開されないのでお気軽に。

ページトップへ