ハロウィンナイトカフェ

中ほどのテーブル席1「ナイショのおでかけ」東雲飛鶴

エピソードの総文字数=4,669文字

「ナイショのおでかけ」東雲飛鶴
ふ~。

すごいパレードだな……

なんとかお店に入れてよかったよ
近くで見物したかったけど、さすがにこの人手ではなあ
ねえ、なんで窓際の席にしなかったの? 空いてたじゃん
バカ、いくら仮装してるからって、バレないとは限らないんだぞ。

連れ戻されたいのかよ?

やだ~~

 ウェイトレスが両手にディナープレートを持ってやって来た。

お待たせ致しました。ハロウィン限定、ナイトメアプレートとヘルフレイムプレートでございます

ワーオ! やったー!
すごい! すごーい!
デザートは食後でよろしいでしょうか?
あ、はい。食後でお願いします
(こくり)
あ~、やっぱ食事は外のものに限るな。

見てよこの盛り付け! もう芸術だよ。匂いだってもう……

これに比べたら、普段のごはんなんて、ぶっちゃけ残飯だよね……。

あ、なんか涙でてきちゃった……

だよな……(グスン)
あ……どうしよう、このままじゃ食べられないよ
そういえば……。仕方ない、マスク取るか。

店の中にはそれらしいヤツいないし、だいじょぶだろ

よいしょっと……。ふう。あー空気がおいしい
ぷは。たしかに、マスクってゴム臭いもんな。

って、俺だいぶ慣れてきてたけど……

あーやだー、髪の毛にゴム臭移っちゃったよ
ガマンしろ。今それどこじゃないだろ。

さあ、食べようよ

いっただっきまーす☆
……ます!

もぐもぐ……

んぁああ~っ、おぉぉいしぃぃぃ!
しッ、……静かに
え?
マスクかぶれ!
ううう……まだひとくちしか食べてないのに……
スイマセン、トイレどっちですか? マスクでよく見えないんです……
あ、あ、あっちの奥の左側です……
どうもありがとう……
猫の仮装をした客はふらふらしながら去って行った。
ふう、おどかしやがって。

さあ、食べよう

うん。チョー焦ったよ……
この真っ黒なドリア、すっごい美味いぞ。

中に入ってるシーフードも絶品だ……

こっちの赤パプリカの詰め物、見た目スゴイ真っ赤だけどそんな辛くないよ~。

で、チョーおいしい♥

その黒いの何?

多分イカスミだろう。

安心しろ、食えるもので出来ているハズだ。

なんせここはなんだから……

そうだよね。

ここはなんだもんね……

食べ物じゃないものとか、入ってるはずないよね……

ふぉふぉ、それおいしそうですねえ、なんてメニューですかぁ?
ぎゃッ!!
おちつけ、仮装だろ。

えーとこれは……こっちがナイトメアプレートで、あっちがヘルフレイムプレート、です

どうもありがとう……ふぉふぉ……
オバケの仮装をした客は、シーツをずるずると引き摺りながら去っていった。
はあ、はあ……あーびっくりした。

もうなんなのこの店!

おちついて食べられないじゃないの!

おかしいなあ……。

ガイドブックには、落ち着いた雰囲気で地元に愛されるシックな喫茶店……ってあったんだけどな。

きっと今日だけだ。安心しろ。いざとなれば俺が――

ちょ、ヘンなこと考えたらダメ。

脱走がバレただけじゃ済まなくなっちゃうよ。

どんなお仕置きされるか……ううう……

そうだな……。

落ち着かないが、なるべく早く食ってしまおう。

まだデザートだってあるんだからな

そうだね。

まだデザートがあるもんね

この店のデザートこそ、本命だからな。

食わずに帰れるかってんだ

先にデザート頼めばよかったかなあ……
昨日の晩から飲まず食わずで来てるんだ。

先にメシ食ってもバチ当たらないだろ

まーそうだけど
 二人は少々せわしなさを覚えつつ、夕食をかきこんだ。
お客様、デザートをお持ち致しました
 食後のタイミングを見計らって、ウェイトレスが期間限定の特製デザートを運んできた。せっかくだからと二人が高そうなメニューを選んだせいか、いずれも豪華さに酔ってしまいそうな素敵デザートだった。


 世間で言うところの「インスタ映え」というやつなのだろう。……と気付いた少年は、周囲を見回してみると、案の定スマホでスイーツを撮影している客があちこちにいた。

うわあ……此の世のものとは思えない……なんて芸術的なんだ
ああ……来てよかったね!
うめえ……(泣)
うう……おいしいよぉ……(泣)
うまいよお……うまいよお……(泣)
おいしすぎて、このまま溶けちゃいそう……
バカ、めったなこと言うなよ。

お前が溶けて消えちゃったら、俺……

そのぐらいおいしいってことじゃん。

やだなあ、もう

(もぐもぐ……) おおおおおおっ!
(もぐもぐ……) はわわわわわ……っ!
ねえねえ、君たち、よかったらこのケーキ食べないかい?

連れが注文しすぎて食べきれないんだよ~

カボチャ頭の客が、唐突に現れた。

手にした皿にはカボチャのスイーツが載っている。

よく見ると、それはケーキではなく、フレンチトーストのようだ。

うわあ……い、いいんですか!?

あああ、あ、ありがとうございますっ!!

ありがとうございます!

い、いただきます!

ハッピーハロウィン!

よい休日を~

かぼちゃ頭の客は、黒い手袋をした手をひらひらさせて、すっと店内のどこかに消えていった。
これ……メニューにのってた『カボチャのフレンチトースト』ってやつじゃないかな?

これも食べたかったけど、山盛りかぼちゃプリンアラモードの誘惑に勝てなかったのよねえ……(ごくり)

こんなのを注文して食べないなんて、ちょっとどうかしてるよな。

ありがたく頂こう。

はんぶんこにカットしよう

(どきどき……)
はむっ!! …… ~~~~~~~~~~ッ!!
あむっ!! …… ~~~~~~~~~~ッ(泣)
ああ……生きててよかった……。

というか、もう戻りたくない……

そだね……。

でも……私たち、行くとこないよ……

空気が一瞬でお通夜になってしまった。
……やっぱり、俺がなんとかして、生きてく手段を……
ダメだよ。

そんな危ないこと……。

あんた、弱いヤツには強いけど、強いヤツには弱いじゃん。

……めんぼくない。

でも俺だって、気持ちだけは、お前ひとりぐらい養ってやらあってさ……思ってんだよ

バカ言わないでよ。

外でお金稼ぐなら、私の方が向いてるんだから

うう……
すいません……入り口はどっちですか?

トイレに行けたのはいいけど、席に戻れなくて……

うお! あ、ああ……さっきの人か。

入り口はあっちですよ

ありがとう
猫のかぶりものの客はしばらく出口へと進んでいったが、なぜか途中で90度曲がってしまった。当人に気付く気配はない。
あれさあ……かぶりもの取った方がいいんじゃないのかなあ。

ぜったい戻れないよ

俺もそう思う
ところで気になってたんだけど……カップルの席、みょーに深刻そうな顔の人おおくない?
そうなのか? メシに夢中で気がつかなかったぞ
せっかくのハロウィンなのに……なんでかな。

カップルって楽しいもんじゃないのかな……

に住んでるくせに、なんで楽しくないんだろうな。

おかしいだろ?

だよね。にいるくせに。

おかしいよね

お客様? お食事はお気に召されませんでしたか?

それとも、どこか具合でもお悪いのでしょうか。

なにかお困りのことがおありでしたら、お手伝い致します

だ、だいじょうぶです。

お料理もデザートもすごくおいしくて、ケチのつけどころなんかないです。

むしろ一生食べても飽きないぐらいです

わ、わたしもだいじょうぶ、です!

お料理、すっっっっごく、おいしいです!

そうですか。ありがとうございます。お口に合ってよかったです。

ご歓談中のところ、お邪魔をして申し訳ありませんでした。

何かありましたらお声かけください。それではごゆっくりと……

あ、あの!
あ、あの!
はい?
そ、そっちから言えよ……
いいよ、そっちからで……
じゃあ……。


あ、あの、僕らやとってもらえませんか?

倉庫に寝泊まりさせてもらえれば、お金は要りません

あーっ、私の考えてることと同じこと言われたー!


あの……いまお金もってないわけじゃないです。お代は払えます。

だけど……その……。

もう、食べ物じゃないもの、食べさせられるのはイヤ……

――もしかして、虐待されてるの?
いままで営業スマイルだったウェイトレスの表情が険しくなった。
私はただのアルバイトだから、やとってあげられるか分からないけど、児童養護施設なら案内してあげられるわ。

あなたたち、どこから来たの?

えっと……どこから、というと、かなり説明しづらいんですけども……。

なんと言えばいいか……。

今日だから、ここに来られたというか……

そう。

今日、だから来られた……。

私たち、一年前から準備してたの。今日のこの日のために

クックック……。

おまえたち、食事は済んだかい?

(ギクッ!)
(ギクッ!)
食事をする程度なら見逃すけれど、に逃げるなら容赦しないよ……
困ります、お客様。

こちらのお席の方はまだお食事中でございます。

どうぞお席にお戻りを

お、お前は……
……やっぱり見つかってしまったか……。

店員さん、もういいです。ごめんなさい……。

ご迷惑になるから、もう行きます

お待ち下さい、お客様。

まだデザートが残っていますよ?

グダグダうるさい女だな。

こいつらは連れて帰る。ジャマするなら殺すぞ?

だめええ!
どうしたんだい?
困ってる?
助けが必要かね?
誰だい? ハロウィンの夜に子供に悪さをしようとしてるのは――

お前か?


この、魔族め

ウェイトレスは、死神姿の客と少年たちの間に入った連中に驚いたが、店長に言われたことを思い出し、いそいで厨房へと戻っていった。
あなたたちは一体……
そいつらは俺の連れだ。

ジャマをするなら貴様らをこの鎌でひと薙ぎしてやるぞ

困りますねえ、お客様?

他のお客様のご迷惑になりますので、ご退店頂きます

おお、ご主人
人間風情が――あ、ああ? うへ? う、うあああ――――――――――
店長が死神装束の男に手をかざすと、男はしゅーっと店長の手の中に吸い込まれてしまった。
大変お騒がせして、申し訳ありませんお客様。

狼藉者は外に放り出してやりましたので、どうぞご安心下さい

あ、あなたは一体……
ご主人はね、この街の神様なんだよ。

近くに魔界との通路があって、この時期になると亡者と一緒にこちらに出て来てしまうから、わざわざここに留まって街を守って下さっているんだよ

旅をしていたら、たまたまここが気に入っただけだよ
か、神様ってことは……私たち、どうなっちゃうの……?
戻らないと……ダメ、ですよね……
二人は項垂れた。
たしか君たち、仕事を探しているんじゃなかったっけ?
は、はい!

なんでもします!

だから、魔界に送り返すのだけは……どうか許してください!

おねがいします!戻りたくないんです!
ま、みんなそう言うんだよね。

――特に、ウチのデザートを食べた連中はね

マスターはかぼちゃ頭たちを一瞥した。

彼等はふふふ……と意味深な含み笑いをしている。

お察しのとおり、ぼくらも君たち同様、帰りたくない派だよ。

どうだい? ぼくらみたいに、神様の眷属になる気はないか?

神の僕なら、魔界も手出しは出来ないのさ

なーんだ。

さいしょから、バレてたんだ……

だから私たちのそばでウロウロと……


戻らなくて済むなら、眷属でもなんでもします!

いいよね?!

……くやしいけど、今はそうするしかないな。

よ、よろしくお願いします

ようこそ、『エブリシング』へ。

そして、ようこそ、地上へ。


君たちを歓迎するよ

やったあ~~~!!

ありがとう、神さま!!

か、神とか……ちょっと苦手だけど……、

でもお前がそれでいいなら、俺もいいよ。

こんごともよろしく……

二人の幼い魔族たちは、一晩中ハロウィンのお祭りと、エブリシングのデザートを堪能すると、おばけたちに連れられて、新しい家へと帰っていった。


                                    (了)

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