フェンリル娘と始める異世界生活

後見人ガラム

エピソードの総文字数=4,616文字

まず最初に先頭を走るシューマと騎士甲冑の中心人物の男が高速ですれ違った。


すみませんお願いしますッッ!!!
シューマはもうそう言うしかなかった。
任せておけ!
シューマを安心させるようにニヒルに笑い、騎士剣を持たない左手でサムズアップを送ってくる。

そして、兜のフェイスガードを降ろした。

(めっちゃいい人や。惚れてまうやろ)
おおおおおおおおおお!
そのままシューマの横を4人の騎士甲冑が騒音を上げながら通り過ぎ、5人は15体ヴァンディットウルフとぶつかった。
グルウウウウウウアアアアアアアア!!
ウウウウウウウウウウウウアアアアアアアアア!!
先に仕掛けたのはオオカミモドキ。

先頭にいた5体が地面を蹴り跳躍する。

大口をあけすべてを噛み砕くような鋭い牙をぎらつかせ、噛み付いてきた。

構えーーーーー放てッ!!

構えた5人の騎士甲冑が長剣をシュッと音をたたせながら振りかぶり、かぶりつこうと大口開けて跳躍してきた5体のハイエナの口に合わせて迎撃した。



バッターボックスに入った野球選手がホームランを打ったような光景だった。

シューマは思わず立ち止まり、その光景を眺めていた。
ずぱっしゅ!
次の瞬間冗談のような音とともに、騎士甲冑たちはオオカミモドキの口から下と上にキレイに真っ二つにしていた。

騎士剣が脂でぬめり、皮が引っかかり、ビリビリめくれた頭の上だけが騎士の前にべちょっと落ち、胴体はシューマの目前までスライディング土下座的にずざーっと飛んできた。

つ、強っええええええろろろろろろ!?

ずしゃああああっと土煙を上げながらスライディング土下座してきたオオカミモドキの死体(口から上なしあっかんべーver)を目の当たりにしたシューマはSAN値チェック。失敗。オート嘔吐の症状。



シューマは騎士たちの強さに驚きながら、目を見開きながらマーライオンしてしまう。本物よりも豪快に吹き出す



5人の騎士はその間にもう5体を切り裂いていた。つえ。

(手応えがない?それとも俺達が強くなったのか?)

騎士隊長に疑問が浮かぶ。

本来ヴァンディットウルフ討伐には開拓者ランクD以上が必要な開拓者の登竜門と呼ばれる魔物だ。

騎士たちからするとまだ優しい方の魔物だが、もちろん気を抜けるほどではない。

しかし、今回の討伐はまったくと言っていいほど危険を感じなかった。

山賊狼のすべての動きが感じ取れるほど自らが鋭敏化しているのを感じていた。

それに力があふれていることも。

さらに敵、山賊狼の攻撃が精彩を欠いているということだ。

気を抜けば腕を持っていかれる速さも今は感じられない。

それも後ろの若い民間らしき男が何事かを叫んでからだ。

しまっーーー!
騎士のひとりが苦悶の呻きを漏らす。

それは騎士全員とシューマに状況の悪化を予想させた。

バキン!!

その騎士の剣が山賊狼の歯に当たったのだ。

山賊狼の歯は、それだけで狩人の武器になるような超硬質の素材だった。

並みの剣では歯が立たず、硬いことが取り柄の騎士剣も押し負け欠けるほどだ。

山賊狼の狩り方で絶対に守らないといけないのは歯に武器を当てないことなのだ。

(ーーーな!!)

バキンバキンバキン!!

先程の音は騎士剣が折れた音だと思った。

しかし、視界に入ったのは軒並みある山賊狼の牙を次々に叩き折っている騎士剣の姿だった。

そのまま頭上半分を切りわける。

す、すごい……。俺……強くなってる?
疑問は後だ!先に残りを殲滅しろ!!
ギャウン!
何事も終わらせてからでないと始まらない。

ハプニングはあったものの、苦戦らしい苦戦もなく、15体のヴァンディットウルフの殲滅に成功した。


一息ついた5人は、後ろでゲーゲーやっている民間人らしき若い男に近づいた。


俺たちは前線都市グランフロントの防衛騎士≪シュバリエガード≫だ。

俺は東部防衛基点、防衛隊長のガラムだ。

定期巡回しているときに、キミを見つけた。

キミは何をしていてここに?

ヒーヒー。はひ。

僕の名前はシューマ。

人がいそうなほうに行きたかったのですが、途中オオカミモドキに襲われまして、ほうほうのていで逃げてきたんです。

よかったら街まで連れて行ってください。見捨てられたら死んでしまいます。

もちろん街まで案内するよ。

聞きたいこともいっぱいあるしね。

それじゃあ、都市入場証明書を出してくれないか?

兜を脱いで顔をさらしたイケメン。ハリウッドの映画で主役を張るような金髪短髪がいい感じだ。顔も精悍。いい経験してるんだろうなという面構えである。現実世界の日本にやってきたら女性ファンが一瞬にしてできそう。
そして彼の口から聞き捨てならない言葉を聞いた。
え゛っ……!そんなの持っていないんですが……。
街に入るのに何かが必要な感じだ。やばい。そんなの一つも持ってない。
そんなバカな。だったらどうやって前の都市から出て来れたんだ……?
剣呑な顔をし始めるガラムさん。

あっ、待ってゆっくり兜をかぶり直さないで。

他の人も柄に手を添えないでっ!

(ここは正直に言っておこう!)
自分のことを魔女って呼べって言ってた女の子にワープさせられたんですっ!

だから何も持ってないんですよ!

信じてくださいっ!

ーーーー魔女……?
過剰に反応するガラムにシューマはまたやっちゃったかと焦る。
魔女って言ったら……
ですね……
ざわざわする騎士さんたち。

これは地雷ふんじゃったか?

いや、まさかな。あの方は男を遠ざけていたはず。ここ100年は工房にこもり男と関わることがなかったと聞く。
そうですね。……なら何らかの「スペクトル現象」ですかね?
わからないな。でも……確実に言えるのは彼はさっき確かにスペクトル能力を使っていた。
やはり……あれは……
(すぺくとる現象ってなんですかっ!)
専門用語を交えて話さないでほしい。できればその都度説明お願いします。と異世界からやってきた新人シューマが独りごちる。

(というかよく考えたら言語通じてよかったな。話せるだけで全然違う。



この世界のこといろいろ知りたい。生き残るためにも。でも今質問するのは自殺行為なので静かにしています。今は流れるままにが一番いい。余計なことは言わないでおこう)

俺も感じました。あの時俺たちは確かに”強く”なった。
それに剣の切れ味も上がっていました。見てください隊長。あのヴァンディットウルフの牙が真っ二つですよ。


真剣な顔で騎士の1人が剣と真っ二つの牙を提出し申告する
……すごいな。剣のほうも歯こぼれひとつしていない。

ーーーーちなみに牙に剣を当てたお前は後でペナルティーな。

そんなぁぁあああ!
騎士さんの真剣な顔が残念顔に早変わりした。
そういえばこのヴァンディットウルフ、他の個体よりも弱くなかったですか?
遅かったし、鈍かったな。……もしかしたらそれも彼が関係しているかもしれない。
そんなの、スペクトル現象でも聞いたことがありません。

味方を強化して敵を弱体化するなんてスペクトル能力……。

そんなスペクトルなら都市にかなりの貢献ができそうだな
どうします……?
ここは俺が後見人になろう。
防衛隊長自らですか!!
驚くのも無理は無い。

防衛隊長ガラムは、個人の戦闘能力といえばそこまで輝かしいものはないが、彼の真価は後継の育成にある。

彼が後見人をした、あるいは教育した人間はそのほとんどが大成している。

ちょうどいい。都市を守ることでしか貢献できない俺だ
ご謙遜を。
それに有能なりうる人間の教育は得意な方だ
(そんなに見つめられても何も返せないですぜ。へへへ。)


話を聞いてもわからないしすることがないので卑屈ごっこをしていたシューマ。

そこに話し終えたガラムがやってくる。

話が決まった。君は俺が後見人をする。それでいいかい?
ありがどうございます!
脊髄反射で返事をした。どうぞよしなにといったようなものだ。

どうにか助かったような気がする。

その代わり俺は君を鍛えることにした。

君を一端の開拓者にしてみせる。

ついて来てくれよ。

こっちはもう強制みたいだ。

なんにせよ犯罪者として首を切られるとかじゃない限りどうなってもいい

生きているだけで丸儲け。丸儲け。

……いやでもさっきみたいな狼もどきと戦わなくっちゃいけないとかだったらやばいかも。

僕剣とか握った事ないんだけど。

シューマはちょっと将来に不安を覚え始めた。

ちなみに君お金持ってる?
もってないです~。
30歳にもなってお金を持っていないと宣言するのは恥ずかしい。

でも事実だから仕方がない。

うん?本当?さっき君が走ってきたときにチャリチャリと硬貨が当たる音が聞こえたけど?
えっ!まさか!
ここで100円とか10円とかが出てきたら泣けそう。

しかしポケットをまさぐるとでてきたのはずっしりと重みが感じられる金色の硬貨が10枚ほど入っていた。

全然気づかなかった。

……!? 金貨持ってるじゃないか!それでもっていないとか悪い冗談だよ。
い、いえ!これもいつの間にか入っていたんで!
いやいや金貨がいつの間にか入っているってどんな状況なんだ?

しかもなんで金貨をポケットに素入れなんだい!?怖くないのかい?

ほら、これに入れて!

ありがとうございます!
イケメンから小さな麻袋をもらった。なんて優しいお方。魂までイケメンやね。
君前線都市の中に入ったら一瞬でスられそうだね……。
残念な子を見るような目で見られる
(というかこの人何歳だろう?)
つかぬことをお聞きますが、ガラムさんはおいくつですか?
これからは俺は後見人になるんだ。そんなにかしこまらなくてもいいよシューマ。

そうだね、俺は今年で30になったよ。

(お な い だ と !)
あくまで肉体年齢は下がっているが精神年齢は目の前のガラムと同じ30歳。

どうみても勝てるところが見つからないほどの圧倒的な経験の差を感じる。

風格と威圧感、精悍な顔つき鋼のような肉体(予想)どれをとっても強者にしか見えない。

自分と天と地の差のある男を見てだいぶショックを受ける。

片や部下を最低でも5人を持っている守護隊長。

片や5年たってもろくに仕事ができない凡人以下の平社員。

これが現実。悲しいなぁ。

ちなみにシューマは何歳なんだい?10代後半くらいだと思うんだけど。

成人はしてるよね。

18歳です(精神年齢は30歳です)
嘘だと思われないようにシューマはあくまで冷静に答える。

召喚されたときに若返ったなんて言っても信じてもらえないだろう。

そうかそうか。18ならこれからだね。頑張っていこう!

……しかし物腰の低さから貴族らしくもないし商人みたいに狡猾そうでもない。危機管理的にも開拓者でもなさそうだ。

やっぱりシューマは変わっているな。今までどこで何してたんだ?

すみません……いろいろと……
会社員と言っても伝わらないしなんて言えばいいのかシューマにはわからなかった

ところで開拓者って何か聞いていいですか?聴けないけど。

なんでそんなことも知らんのかと言われたら死ねるし。

隙を見てまた聴こう。

謝らなくていいよ。人にはそれぞれ事情があるってものだ。

俺は悪いことに関わってなかったら目をつぶる方だから。


改めて聴くけど本当に俺が後見人で良かった?

もちろんです!

命を助けていただいて、後見人までなっていただいてとても感謝しています!

そうか、ならいいんだ。
最後にガラムがふっと表情を緩めた。

シューマも気分が楽になった。

(そうして僕はガラムさんに後見人になってもらい前線都市「グランフロント」へ向かうことになったのだ)

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