神と大統領と弾道ミサイル(仮)

神の協定

エピソードの総文字数=2,603文字

 天馬は、敵が残した装備を確認してきたところだった。

 軍用トラック16台、迫撃砲、そのほかAK47からM16までバラエティに富む自動小銃などなど……。軍用トラックなどは相当使い込まれてあるし、迫撃砲は明らかにアメリカが廃棄したようなものをそのまま引き継いでいるだけだし、自動小銃もとても軍とは思えぬほど統一感がない。民兵集団が、アメリカから無理やり指導を受けてとりあえず体制だけ作ったような軍だから、やむを得ないのかもしれない。

 また、特別高価なものはないが、だからこそ奪っておいても損にはならないオーソドックスな装備の数々だ。慣れた兵士が渡されれば、即座に使えることが重要だ。

 天馬が倉庫からRC造の中央の建物に足を運ぶと、入り口で警戒していたアスタリア兵が報告してくる。

【アスタリア兵】

基地に残っていた捕虜60人を確保しています。武装解除させ、1階の広間に集めています。

こちらの損害は?

【アスタリア兵】

ユースフが、敵が撤退時に投げてきた手りゅう弾に巻き込まれ死亡しました。ほか6人が負傷し、医療室で治療をしています。
戦死はユースフ・テムルだな?

31歳の石造工、10以上の戦闘に従軍してきた熟練兵だ。奪った軍用トラックで、遺体は丁重にアスタリアに運んでやれ。

【アスタリア兵】

よくそんなことまで……。
この俺は、すべての国民のデータベースを把握している。大統領とはそういうものだ。

【アスタリア兵】

は、はい!
敵の損害は?

【アスタリア兵】

敵の遺体は14確認しています。

 アスタリア側の戦死者は1人、負傷者6名。

 対する政府軍の戦死者は14人、捕虜60名、そして負傷者はおそらく数十名と見ていいだろう。

 奇襲成功の成果としてはまずまずだ。

 大広間に向かうと、エリカが捕虜と向かい合っていた。アスタリア兵が10人ほど、自動小銃を抱えていた。

 エリカが近づいてきて口にする。

予定通りこの基地を打ち捨てて、今すぐザリスへの転進を進言するわ。こちらの陥落を伝えれば、プラトたちも山を下りてザリスを攻撃するでしょう。
いや、基地を打ち捨てる前に、政府軍と交渉してみよう。
時間がもったいないわ。イリーズみたいに一気にザリスを落とすためには、一秒でも早いほうがいい。
20分で済む。捕虜のなかで、政府軍の上層部にわたりを付けられそうな人間はいるか?
奥にいる少佐かしら。基地の責任者だったけど、逃げ遅れたみたいね。

 エリカの言葉に天馬はうなずき、重々しい足取りで少佐の前に歩いていく。雰囲気で何かを感じ取ったのだろう、少佐は顔を引きつらせ天馬を見やっていた。

 天馬は少佐を睥睨するように立ち、事務的に聞く。

アスタリアの攻撃計画を予定していたな?

【政府軍少佐】

私じゃありません! 中将が……!
 懸命に少佐が言い訳を始めた。
案ずるな。

貴様たちは全員無傷で釈放してやる。中将とコンタクトしたい。

 天馬の言葉に、少佐は何度も激しくうなずいた。

 それから天馬はアスタリア兵に少佐を連行させ、基地の指令室へと向かった。指令室に入ると少佐に電話を掛けさせ、指定のウェブ会議にすぐ応答しろと、政府軍の中将に伝言するよう命じた。少佐は電話口にしがみつき、電話の相手にわめきたて、泣きつき、必死で説得を重ねたようだった。そして数分ののち、政府軍の中将が画面に姿を現した。

 それから少佐を指令室の外に出し、天馬はモニタを通して、サシで中将と向かい合う。

この俺がアスタリア帝国の大統領、不動天馬だ。
【政府軍中将】

だ、大統領……?

 PCモニタに映し出された中将は、軍人とも思えぬほど太っていた。とてもこの身体で戦場に出られるとも思えない。偉くなって太ったのか、それとも何らかのコネを通して軍上層部に入り込んだのかはわからない。戦乱が続き、他国の軍まで首都に居座っているような国である、何でもありというのが実際のところなのだろう。中将の、制服の胸に身に付ける数々の勲章だけがきらびやかに輝いていた。
アスタリアへの攻撃を予定していたな?

【政府軍中将】

…………。
 中将は視線をそらした。わかりやすい男である。やはり鍛え上げられた軍人というタイプではないのだろう。
先のアスタリア侵攻を決めたのも貴様だ。その戦争で無惨に大敗し、その責任を取らされるのを回避するために、アスタリアへの再侵攻を急ぎ準備していたと捕虜たちから聞いたぞ。

【政府軍中将】

……だからどうしたというのだ。お前たちのような反政府軍が優位に立てると思ったら間違いだ。

 中将は強気に声を絞り出したが、その声は少し震えているようでさえあった。

 天馬は意味深に話を持ち掛ける。

貴様の立場を、救ってやってもいい。

【政府軍中将】

どういう、ことだ?
アスタリアが奪取したこのイリーズ基地を、そのまま返還してやる。基地の倉庫にある武器のいくつかは適当に見繕って拝借するが、捕虜たちも、そのまま釈放だ。貴様はこう言えばいい、イリーズ基地をアスタリア軍に奇襲されたが、自分の作戦によって即座に撃退したとな。アスタリア側はその発表に対し一切の反論もせず、沈黙を貫いてやる。

【政府軍中将】

…………。
 中将の眉がぴくりと動いた。
さすれば一勝一敗、責任を取らされることもないだろう。でなければ、貴様は二戦二敗。アスタリアも、今回の結果をオーレス全土に喧伝することになるぞ。

【政府軍中将】

……条件は何だ?
ザリスの監視台を譲り渡すこと。互いの勢力圏の確定。そして2か月間の停戦協定の合意だ。

【政府軍中将】

ザリスをそのまま明け渡せだと!? ならばイリーズを返還されてもフィフティフィフティ、お前たちに都合のよすぎる提案だ!
そうかな?

冷静に思考しろ。この交渉が決裂すれば、アスタリア軍は即座にザリスに転進する。中継地点のイリーズを落とされた今、ザリスを守れるなどと思ったら間違いだ。イリーズに置いてある武器類も、そのまますべて持ち去ってザリス攻撃に投入することになろう。守備兵はすぐさま降伏を選択してくるかもしれんぞ。そして貴様は、三戦三敗だ。

【政府軍中将】

くっ……。
自分の無能を棚に上げ、あまつさえ戦闘を現場任せにした自らの怠惰を恨むんだな。

【政府軍中将】

……互いの勢力圏は、オーレス政府軍がザリスを奪う前の段階ということで、いいのだな?
 早くも中将は保身に走ってきた。腐敗が日常化した政府や軍上層に居座るためには、そうするしかないのだ。

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