勇者の武器屋

第十話 法律は金持ちのために?

エピソードの総文字数=3,377文字

戦士が契約書を読み込んでいるのを、ほかの3人が取り囲んでいる。
武器屋と銀行の間で結んでいる契約書がきつすぎる……。
魔王が予想外に強すぎて勝てる気がしないんだけど。
返済不能となった場合、肝臓を売却する条文までしっかり入っているな。
ひっ!?
やっぱり私の身体、切り刻まれることになってしまうんでしょうか……。
まぁ心配すんな。肝臓って2つあって、1つは売っぱらったところで死にゃしないんだろ?
こうなった以上、細かいことを気にするのは程々にしなさい。生命維持だけでいいなら、私の魔法力で、幾つかの臓器を摘出しても何とかなるから。
なんせうちの僧侶は、ゾンビ30体を同時に使役できる魔神のごとき魔力を持ってるからな。王国兵が100人束になったって勝てないんじゃね? 勇者の一人くらいなら生命維持を引き受けてくれるさ。
同じゾンビを1ヶ月も使役すれば、さすがに形が崩れてくるけどね。
少しも慰めになっていないんだが……。むしろ脅しているとしか。
ううううううう……。
ほら、怯えてるじゃないか。あんまり怖がらせてやるなよ。怖い話とか、お化けとか、勇者がとにかく苦手としてるの知ってるだろ。
だってしょうがねぇだろ。これだけガチガチに契約を固められていたら、下手に慰めたってどうしようもないじゃねーか。
いやでも、お金を返せないのなら、破産すればいいだけじゃない?
破産は一つの方法だけど、それですべての義務から即座に逃げられるわけじゃない。
王国商業法247条、『裁判所に破産を申請した者には、債権者が指定する10年間の労役義務を課すことで債務を免除するものとする。また契約時に、破産した際の取り決めを結んでいる場合には、その内容が優先される』
つまりどう転んでも、10年間は奴隷労働して返せってことか?
……法律ってのはつくづく恐ろしいねぇ。まさに金持ちのためのもの……。
ていうか、アンタ何でそんな細かい条文なんて記憶してるのよ。
もともと俺は法律家志望だったからな。田舎から王都に上京して、苦労しながらコツコツ勉強してた時期があるんだよ。生活費を稼ごうと冒険者ギルドで戦士のバイトを探していたら、たまたま居合わせたお前ら3人パーティーに拾われたってわけだ。こんな立派な装備を与えられても、戦士として何の役にも立ってないのが逆にすごいと自分でも思ってる。
役に立ってないって言ってるわりには、落ち込んでる風でもないよな。
お前らが強すぎて、パーティーのピンチって大してなかったからな。落ち込むヒマもなかったよ。
分かりました。破産申請することにします。
皆さんに迷惑は掛けられません。魔王さんに騙されて、こんな契約を結んでしまった私が悪かったんです。
なに満面の笑みで言ってるのよ。
10年間も魔王の奴隷になるってことよ? そんなの死んだほうがマシなくらいかも……。
実際、返済に追い詰められて、死んじゃおうかなって思って覚悟もしました。だから、いいんです。魔王さんの言いつけに従って奴隷でも何でもしようって思います。私にとっては、皆さんに嫌な思いをさせてしまうのは死ぬより辛いです。
…………。
マジかよ……。
…………。
僧侶さん、今までいろんな戦いで主軸となってもらい、本当に助けてもらってばかりでした。僧侶さんがいなかったら、ここまで早く魔王さんの軍を追い詰めることはできなかったと思います。もしものことがあっても、うちの僧侶さんさえいれば、人間界の平和は保たれるんだって思います。
遺言みたいな話はヤメなさいよ……。
魔法使いさん、魔界に出発するときの最初のメンバーとして参加してもらってから、ずっと一緒にいてもらいましたね。すっかり一緒にいるのが当たり前の関係になってしまって、今では家族のように思っています。私がいなくなっても、時々でいいので私のことを思い出してくれると嬉しいです。私はいつも魔法使いさんのことを想っています。それから、ギャンブルだけは程ほどにしてくださいね。
待て待て、早まらないでくれっての……。
戦士さん、ご自身は役に立ってないって言いますけど……モンスターさんに急襲を受けたときとか、必ずパーティーメンバーの前に立ちはだかってくれていたこと、私、知ってます。陰でいつも私たちをサポートしようとして一生懸命でした。たしかに戦闘は弱いかもしれないですけど、バイト代のためじゃなくて、本当に私たちのためを考えてくれているんだなって、私たちはみんなわかってましたよ。だから最後まで同行してもらったんです。いつも冷静な視点で、右往左往する私たちに適切なアドバイスを与えてくれたこと、とっても感謝しています。自信を持ってくださいね。
うっ……まさかそんな風に……。
……そこまで優しい言葉を掛けられて、こっちが諦めると思ったら間違いだ。勇者が魔王にハメられたのだって、もともと俺たちのためを考えすぎたせいだろ。だったら次は、俺たちの番だ。なぁそうだろ、僧侶、魔法使いさんよ。
あぁ、そういうことだな。魔王に全面降伏するのはまだ早い。だってさ、『ドリームアームズ』の借入金が返せないって、まだ決まったわけじゃないじゃねーか。
なるほど、それもそうよね。むしろ武器屋を成功させて、私たちが大金持ちになっちゃう道もあるわけだ。
やりましょうよ、こんなところで魔王ごときに負けるわけにはいかないわ。
で、ですが、どう頑張ったって『ドリームアームズ』は、もう返せないくらいの借入金の山で溢れちゃってて――
だからそんなの、やってみなくちゃわからないだろ。それが人生の醍醐味、ギャンブルの醍醐味なんじゃねーの。
半か丁か、人生ってやつは丸ごとギャンブルみたいなものなんだぜ?
法律の勉強をしているころなんか、俺みたいな中途半端なバイト戦士が、まさか魔王を追い詰めるパーティーの一員になるなんて想像すらしちゃいなかったよ。それがこんな成り行きになっちまって、お前らに振り回されながらもしがみつき、なんだか面白い人生になっちまってる。そしてまた武器屋で大借金を背負って経営に乗り出そうとしてるわけだ。考えてみりゃ、こんな楽しいことってあるか?
そうそう。
未来のことなんて、どうなるかわからないのが人生だ。明日は明日の風が吹くのなら、その風を、アタシたちで吹かせてやろうぜって寸法よ。
そしていずれは資本力で魔王を飲み込んで、私たちが大銀行や王国政府や教皇庁なんか吹き飛ばすほどの地位と権力を手に入れてみせましょう。そして私が世界一の存在――大帝か教皇か、まぁ何でもいいけれど――持って生まれたこの美貌も、世界中の富も、ありとあらゆるものを凌駕する権力も、すべて私の元に集まってしまうわけ。才能がありすぎるってのも困りものよね。どうすれば庶民の気持ちがわかるのかしら。
結局、自分個人の望み丸出しかい。
み、みなさん……。
うううっ……。
泣くこたぁないだろ。アタシら、伊達にパーティー組んでる仲間じゃないんだからな。背中を預け合うのは当たり前の日常さ。
やってやりましょう。
魔王との新たな戦いに勝てば、とんでもない未来が手に入りそうな気がするじゃない?
ううっ……私、なんて言っていいか……あうあうっ……。
お前らに拾われたおかげで、こんな風になっちまうなんて。
人生最高――俺は声を大にしてそう叫びたいね。もしも神がいるのなら、俺は一生感謝しよう。
……ところで神っているのか?
たぶんきっと、30%くらいの確率でいるんじゃないのー。アンタの心の中にね。
まぁ、いてもいなくてもどっちでもいいけど、いたほうがマネーが無尽蔵に稼げるでしょう? だったらやっぱり、いるわけよ。神さまありがとう。
ダメだこの聖職者……どす黒すぎて濁ってやがる……。
びなさん……ばりがとうございばず……。ばだじなんかのだめに……。
ほら、鼻かめって。なに言ってるかわからねーからさ。
魔王、覚悟しなさい。武器屋で儲けてきっちりお金を返した上で、次こそ1000億Gを問答無用でもぎ取ってやるわ。フフフ、いよいよ私の時代……。
これこそ一世一代のギャンブルってヤツだ。カジノに行ってる場合じゃねーぜ。我がギャンブル人生に幸あれ。
俺たちが武器屋『ドリームアームズ』を成功させた暁には、そのときこそ世界に真の平和がもたらされるってわけだな。楽しみじゃないか。一丁、行くところまで行ってやろう。

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