【8/11】 ダンゲロスSS(32)岡田拓也VS米洗ミノル

米洗ミノル

エピソードの総文字数=4,000文字

ここで米洗ミノルさんが執筆するんだってさ!つらたん……。
ほらほら雫、着いたよ!
うん……。
ちょっとテンション低いってばー!

だから大学でもひとりなんだよー。もっと楽しく行こうよ、楽しくさー。

でも、私……
ほらほら、せっかく食べログで★4の店を見つけてあげたんだしさー。


見てよ!

湘南の海が見渡せるカフェ!サイコーじゃない?

あ、この角度いいかも。

インスタインスタ……。

(インスタ……インラインスカートかしら……。でもそれだとインスカ?)
「あー!会話に「」付けるの忘れてた!


 今回から「」スタイルにしようかと思ってたのにー!

 やっぱテンパってるんだね!失敗失敗♪」

「ルナちゃんの独り言、私には不可解……」
「えっと……


『失敗しちゃった私☆ マジぶさいく。つらたん……』


 と。

 これはこれでいいね!がたくさん付くかなー!えへへ」

(落ち着くまで海でも見てよう……)
「何してんの雫ぅ! せっかく誘ってあげたんだから、早くカフェ入るよー」
「それから、会話に「」付けるようにしたんだから、モノローグに()はいらないからね! もう雫ったらドジっこー!」
…………ややこしい。
「こーんにちはー♪


 へー。店内もけっこうイイ感じじゃん。あ、窓辺の席が空いてるよ!


 あそこ行こ!」

「え、う、うん……」
「いらっしゃいませ。ご注文はいかがなさいますか?」
「じゃあパンケーキで! ここのお店のパンケーキ、ちょー可愛いんだよねー」
「ありがとうござます。当店のパティシエが、腕によりをかけて作っておりますので。それでは少々おまちください」
……海がきれい。

私は海を見てため息をつく。

ルナちゃんは、店内の装飾に目を光らせ、スマートフォンでぱしゃぱしゃと撮影を繰り返している。


悪い人じゃないけれど、やっぱり疲れる。


人といるのは……本当に。

人類なんて、半分くらい滅べばいいのに。

「お待たせしましたー。パンケーキでございます」
「きたきたー!これこれ!

 可愛い!むちゃくちゃインスタ映えしそう!


 ああ、この角度かな、やっぱこっちからのほうが……


 店員さん、すみません! 可愛いコースターとかありませんか? 一緒に映すともっとインスタ映えすると思うんです」

「……はい、どうぞ」
…………。


店員さんは笑顔だけれど、心の中ではきっと「んなことしてねーで、さっさと食えよこの腐れビッチが」とか思っているに違いない。


私だってそう思う。

人間なんて所詮、うわべだけを取り繕ってる生き物だ。


裏と表。

建前と本音。


人が多ければ多いほど2つは渦巻く。そんなところに放り込まれたら、私はきっと溺れてしまう……。

「あれ? 外が曇ってきた?


 ……わっ、雨じゃん!


 天気予報は晴れだったのに!


 良純のやつ!あの天パ!撮影に支障がでるでしょーが!!」

……ルナちゃんは気づかない。気づくはずもない。


私が魔人で――


これが、この雨が、私の悲しみが降らせている雨だということに。

「……ルナちゃん、食べないの?」
「うん。インスタに投稿したからもういーや。パンケーキってカロリー高いし、私、糖質制限ダイエットしてるから。こういうの大敵なんだー」
「あ! いいねキタ! わーい♪」
――そのときだった。


私は見た。パンケーキが微かに震えるのを

「はうっ!? あっ、あんっ! な、何か入ってくりゅ……」
「あ、あ、あ、ああああああああ――!
聞く者の魂を凍てつかせるかのような悲鳴。絶叫。


そしてルナちゃんは――

「うへ、うへへへへへ……撮らなきゃ、もっといっぱい撮らなきゃ。


 そしてインスタにアップしなきゃ。いいねもらわなきゃ……! いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、いいね、い、い、いいいいいね!!!」

ぴゅっ、ぴゅっ!
!?


パンケーキが、なにか白いものを飛ばした!!?

「え、え、えええ、とけ、溶けちゃう、私、とけ、ぇえええええええええ――!?」
ルナちゃんは、見るも無惨な姿に……!
「し、しずくぅ……おねがい、私を撮って? ぜったいいいねたくさんもらえると思うの……! ねえ、撮って、撮ってぇえええええええ!」
「ひ、いいいいいいいっ!」
――――――。
ああ! そしてそのとき!


パンケーキが、パン生地のすき間から謎の触手を伸ばして!

どろどろになったルナちゃんを呑み込んでいく!

「ひっ、ぐっ、ぐぅうう……とっ、て……」
「い、いやあぁああああああ!」
私は逃げ出した。


パンケーキに食べられるルナちゃんを置いて、一目散に逃げ出した。


イスを倒して席を倒し、きびすを返したそのとき――うなじに、かすかな痛みを感じて、それでも私はその違和感を深く考える余裕もなく、その修羅場をあとにした……。

・・・数日後・・・・

riceshower_306

――また今日も客が来る。


私を目当てに客が来る。

食べられるのはいい。それは本望だ。パティシエの稲田さんだって、喜んでくれるに違いない。


私は美術品などではなく、食品なのだから。

……でも。


私に手も付けず、無神経に写真だけを撮って帰る人間は大嫌いだ。

だから殺す。だから食べる。


けれど、稲田さんに迷惑をかけるわけにもいかないので、私はきちんと後始末をする。目撃者には私の能力――誘蛾糖の針を刺し、このカフェでの記憶を消し去る。


それで平穏は戻ってくる。


そして今日も、客が来る……。

「うぇーい! 来ちゃった☆」
「いらっしゃいませお客様。お席は――」
「はー? 窓際に決まってんじゃーん♪ 店員さん、そのボケつまんないよ。きゃははははー♪」
……あれは、前にも来た客だ。すっかり性格が変わっている。


そうか……。

あの子は前回、私が食べたあの女のスマホを託されていた。


そこに残った私の画像――おそらく、それを自分のものとしてインスタに投稿したのだろう。私の画像には、どんなに少なくても10万以上のいいねが付く。それがきっと、あの子の性格を来るわせたのだ。


いいねが増えれば、さらに大量のいいねが欲しくなり、ああして――

「うっわ、この店の内装やばすぎーw インスタインスタ♪」
「……お待たせしました。パンケーキです」
   
「まじー!? かわたん、かわたん☆」
この女も、私を食べる気配がない。撮影ばかりしている。


……殺そう。

私は、生クリームを針に変え、女へと放つ。

……が!


「あは、あはははは!」
届かない!?


これは……雨!まるで彼女を覆うように雨が降り注いでいる!店内にもかかわらず!!

「う、うふ……あはははは、楽しいなあ、嬉しいなあ……インスタには、私を認めてくれる人がたくさんいるよぉ」
そうか!

これは涙の雨!!

私はおぞましいことに気づいた……


彼女は、1人で来店しているのだ!

おそらくインスタでバズっても、カフェに伴う友人がいないのだろう!

泣いている!

彼女は涙を流さず、雨を降らせて泣いている……!!

「う、うひ、うひひひひ――いいね、いいね、いいね……!」
くっ、けれどこの雨、パンケーキの私にとっては致命的!


水に濡れて力が出ないのは、パン界の常識だ!

この私がっ……溶かされる!

食べてもらえず溶かされる!

「おのれっ!」
私は生クリームの針を飛ばす!


やられる前にやれ!

食われるまえに死んでたまるか!!

けれど!

あまりの豪雨に、生クリームの針は届かない!


雨のカーテンにふせがれて、彼女に届く前に消えてしまう……!

私はとっさにテーブルの上を確認し――それを見つけた!


本来なら、彼女に手に握られているはずのそれを!

私はそれを彼女に向けて撃つ!


雨のカーテンを切り裂き、

「うっ、うげっ」
彼女の喉に、銀色の槍が突き立った!


そう――それはナイフとフォーク!!


ただしく食事していれば、彼女の手に握られていたはずのもの!!

「げ、げぶっ、ごぼぼぉお――」
彼女は血だまりに沈む。


私はその肉片を溶かし、食べる。

証拠は残さない。


目撃者の記憶も残さない。

――そうして、店内に平穏が戻った。


が。

「うーん」
「あれ? 稲田さん、どうしたんですか? フロアに出てくるなんて珍しいですね」
「はは、いやね……照れくさい話なんだが。実は今日、娘が来るはずなんだ。10年以上前に離婚して、嫁に引き取られていった娘が」
「へえ! それは嬉しいですね! どんな子なんですか?」
「うん。ずっと文通ばかりで、今の顔はわからないんだけどね。なんでも、大学では友達がいっぱいいて、イン……なんとかっていうホームページでは、すごい人気者らしいんだ」
っ――――!?
「雫って言うんだけどね。離婚しちゃったから、元嫁の名字で、『東条雫』。あー、考えるだけで緊張してくるなぁ」
「ふふっ。稲田さんの作ったパンケーキ、気に入ってくれるといいですね」
「そうだね。ふふ、今日は腕によりをかけて最高に美味しいパンケーキを作っちゃうぞぉ!」
「もう、稲田さんてば。今日だけじゃなくて、いつも最高のパンケーキをお願いしますよ~」
「えー、僕の作るパンケーキは、いつだって最高だろ? あはははははは!」
「そうですね。うふふふふ」
あ、あ、あ……
「ああああああああああああああああぁああァーーーーーーーーーーーっ!!!」
私は針を撃った!


ウエイトレスにも、客にも、稲田さんにも――!!

「溶けろ、溶けろ、溶けろぉおおおおおお!!!!!!」
「えっ、あぶっ、あばばばばばばばばばばばば!」
「そ、そんな……! これはいったい!! あ、あぶぶぶぶぅーーっ!」
「し、しずく、しず……」
稲田さん、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……。
「私にはもう、こうするしか――せめて、私のお腹の中で、稲田さんと雫さんを混ぜ合わせて、一緒にしてあげることしか出来ません――!


 あああッ!!」

…………降っている。


雨が降っている。

いつまでも、いつまでも、雨は私に降り注いで、止むことはなかった……。

END
時間だよ!執筆終了だよ!

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