勇者の武器屋

第一九話 王国の手先

エピソードの総文字数=2,411文字

私たちにとって、魔王さんはとてつもない大敵です。もしかしたら宰相さんの言うように、すべての人類にとって厄災になるかもしれません。あるいは魔王さんは理想を叶え、神のような存在になってしまうのかもしれません。どうなってしまうのか、私みたいなおバカな人間にはわからないものです。

……でも、こうして互いが互いの人生に、良くも悪くも大変な影響を与え合っている者同士、何かわかり合える部分というのは確かにあるんですね。魔王さんのほうも、きっと私と似たような想いを抱いてくれているんじゃないかなって。
何だかんだ言って、魔王は武器屋『ドリームアームズ』に、新たに1000万Gを貸してきたわけだしな。魔王が本当にアタシらを叩き潰すだけが目的ならば、借入交渉なんて捨て置いてもよかったはずだ。だからきっと、勇者の話は正しいんだとアタシも思うぞ。
頭の良い魔法使いさんにそう言ってもらえると、間違ってないんだなって思えて嬉しくなります。上手く言葉に言い表せないのがもどかしいんですけど、今はその気持ちを手がかりに、魔王さんの野望を阻止する者として、命を燃やしてみようと思います。この道をひたすら邁進していけば、きっといずれ、答えにたどり着くんじゃないかって気がしています。
だが王国としては、王国政府の崩壊を企む者を野放しにするわけにはいかんぞ。……いや、かといって、魔界をまとめて人間界に侵攻を企ててきた魔王の正体が魔境銀行頭取であるなどと、何の証拠もないのはまた事実。
宰相さんさ。アタシらの証言がそれほど信用できないものかねぇ?
アタシ、勇者、僧侶、戦士の4人がこの目でしっかり確認しているんだよ。全員が口裏を合わせているとでも?
そりゃ長らく一緒に冒険を続けてきたアタシらだけどさ、生き方も思想もバラバラであって、別に仲良しこよしってわけじゃないんだぞ。喧嘩だって対立だって何度もしてきた。別々の人間なんだ、そりゃあ色々ある。
証言が信用できるとか、できないとかの問題ではない。肝心なことは、裁判で勝てるかどうかだ。何の証拠もない以上、どうやっても勝てる構図が思い浮かばんよ……。
しかもだ、これは国家財政に関わることにまで大きな影響を及ぼすことになろう。魔境銀行には、我が王国の国債を大量に購入し続けてもらっていて、その流れが中断するようなことになれば、たちまち王国財政は破綻するに違いない……。なんともはや……どうすればいいんだ……。
あのさぁ、王国政府は銀行の手下なのか?
だいたい王国政府は、しっかり税金も徴収しているわけだから、その税収の範囲内で財政を回そうって発想にはならんのかね。いつからこの国の政府は、借金前提での国家運営になっちまってるんだ? これじゃ、魔王の言い分のほうが正しいんじゃねーのって思えてくるな。
バカ者、王国財政の問題だけで済む話でもないのだ。もし魔境銀行ほどの大銀行を敵に回そうものならば、我が国の産業が壊滅しかねないほどのダメージを受けてしまうぞ。
なんか難しい話になってきたな。正直アタシらには関係ないことだと思いたいが……。
長らく超大国としての地位を築いてきた我がリスティア王国ではあるが……このところ周辺諸国の追い上げにより、厳しい経済環境に置かれつつある。とりわけ隣国のガリアス公国とは、激しい先端産業の奪い合いをしている最中なんじゃ。場合によっては、戦争に発展しないとも限らないほど、両国間は緊張状態にある。そのような状況にあって、まさか魔境銀行を敵に回せるはずもない。
そんな超大国なのに、魔王さんの支援がないと財政が回せないっていうのも不思議なお話ですね。
財政から国家を骨抜きにするのも、魔王のシナリオの一つだったのかもな。やれやれ、どこの国家も頼りないもんだ。どうりでアタシらに魔王討伐を押しつけて、自分たちだけはのうのうと暮らしていたわけだな。
というわけで、我が王国としては、どうあっても魔境銀行と事を構える選択肢はない。また、仮にその選択肢があったとしても、魔王が魔境銀行頭取であったなどとする客観的証拠がどこにもない状況じゃ。
だからこの目で見たんだっつーの。
リスティア王国は文明国じゃぞ。見た見ない程度の話で、その者を裁判に掛けることはできぬ。ましてや死刑が絡みかねないような重犯罪においてのことじゃぞ。いくら何でも、古の悪名高き魔女狩りのようなことができるわけがない。万が一王国政府がお主らの証言だけを根拠に、強引に魔境銀行頭取の身柄を拘束・尋問でもしようものなら……王都人口の2%程度しかいない魔族の少数者を、多数側の人間が迫害しようとしているとして大変な問題となるだろう。暴動になるやもしれぬ。
……ちっ。ああ、そうかよ。アタシら、誰のために戦ってきたんだかな。
かといって……おぬしらの話を完全に無視する選択肢も選びがたい。万が一にもその話が事実だと仮定すれば、おぬしら勇者パーティーが魔境銀行に追い落とされていくのを指をくわえて見ているわけにもいかないところだ。
何だぁ? じゃあどうするつもりだ?
我が王国の武具納入指定業者にはしておいてやろう。どれほど望んでも、簡単には渡してもらえない特権だ。その代わり、魔境銀行の動向を追いかけるための先兵となってくれ。
なるほど。アタシらをそこそこ生かしておき、もしアタシらの話が本当だった場合には、また魔王にぶち当てようって算段なわけだな?
どっちに転んでもいいようにしているわけですね。
これでも最大限の譲歩をしておるつもりじゃぞ。王国の武具納入指定業者ともなれば、一代で巨万の富を築くことができるほどだと言われているくらいだ。お主たちも、そのうちワシに感謝することになろうじゃろうて。
宰相さんも大変なんだとは思います。でもこういうところは、やっぱり魔王さんのほうが潔いと思います。
またアタシらは王国の手先か。なんか、魔王のほうがまともに思えてくるんだがな。

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