フェンリル娘と始める異世界生活

うだつの上がらない会社員でも異世界なら希望はあるよね

エピソードの総文字数=3,173文字

はぁ……。今日も遅くまで残業か……。
それはお前が仕事をするのが遅いからだろ!何年やってんだ!いい加減仕事覚えろよ!
す、すみません。頑張ります。はい。
使えねぇ奴だな。なんでうちはこんな奴を雇ったんだよ。バイトの方がよっぽどマシだよ。
どなるというよりもしみじみと言われてしまってはその感想は真に迫ってしまいシューマのガラスの心に傷が入る
はぁ……。
こんなはずじゃ、なかったのにな
そう言ってしまうのは過去の栄光が大きかったから。

それに追いつけない現代の自分に嫌気がさしているから。

そして何かを忘れていることに気が付いていながらそれを思い出せない自分によりいっそう嫌気がさしていた
シューマの子供時代
シューマは子供の頃神童とばれていた。

何事もやることに天才性を発揮し一時は天才少年としてバラエティー番組に出演したことだってある。

両親もそんなシューマにお金を注ぎ込み、いろいろなことを習わせた。

【子供シューマ】

世の中はなんて簡単なんだ。こんなことができるだけで周りから認められるんだもんなあ。
【子供シューマ】

別に友達がいなくても寂しくないし、母親がオレじゃなくてお金を優先するようになってもどうでもいい。本当にどうでもいい。

子供の頃のシューマと現在のシューマを比べて似ているところを挙げるとするならばそれは感情の動きが少ないのっぺりとした顔だろう。

子供の頃のシューマはその天才性と引き換えに子供らしさの感受性が著しく損なわれていた

(誰かそこにいるの……?)
【子供シューマ】

なんだ?寂しすぎてイマジナリーフレンドでも作っちゃったか?

いつも1人で公園の砂場の砂を掘り返しては埋めるを繰り返していたシューマは頭の中で響く声にあくまで冷静に対処した
わっ!男の子の声がする!私の声が聞こえるの!?一緒にお話ししよっ!!
【子供シューマ】

あー。なんか変なことになっちゃったな。

どこか切羽詰まったような鬼気迫る勢いで声をかけてくる脳内妖精。

どうにかしてシューマと話をしたいようだった。

一方的に何事かを口走っていく。早口すぎて聞き取れない。

シューマは大量の習い事の合間の自分の時間としての砂遊びをこの頭の中の声に取られるのは気分がすぐれないものだったが、自分の想像の範囲外のことが起こっていることに心のどこかで好奇心がむくりと起きあがるのを感じていた

【子供シューマ】

今日はどんな話を聞かせてくれるんだ?

えーっとね!えっとね!今日はね!
【子供シューマ】

(嬉しそうにしてくれちゃって)

それからというものシューマは独りきりになるとその声が頭の中に入り込んでくるのを楽しみにするようになった。

習い事に興味が全くと言っていいほどなくなり持ち前の天才性が徐々に失われていくことにシューマは気づいていたがそんなくだらないもののために今のこの秘密の遊びができなくなるのを恐れていた。

脳内の声と交流を交わし1年も経った頃。

父親と母親がだんだんとシューマに対して不安感を醸し出しているのに気づきながら。

それを引き換えにしても頭の中の声を聴いているのは特別な何かを感じていた。


それでね!それでね!今日初めて子猫と契約を結んだの!すごいでしょ!
【子供シューマ】

いいなぁ……。

ーーーー。

なあ。オレもそっちに行けないか?

シューマはその声の主が話すファンタジーのような不思議な世界の話を特に好んで聴いた。

火を吐く犬、しゃべるきのこ、生き物を呼び寄せる魔法使い。

シューマの常識の外から来る「声の主にとっての常識」はシューマにとってとても刺激的だった

そしてついには声の主のいるところに行きたいと思うほどに
私も!私もシューマと会いたい!
【子供シューマ】

オレを召喚することができないか?

しょうかん……。

しょうかんをするにはえらい魔法使い様にならないといけないの……。

わたしはまだ見習い魔法使いになったところだから、もっと長く時間がかかるかもしれないの

でも私シューマと会いたいから頑張る!

脳内の声の主。

名前は噛みそうですぐに忘れてしまったがあだ名は残った。

シューマは脳内の声の主のことをエムと呼んだ。

【子供シューマ】

無理はしなくていいんだ。でも心のどっかにそう思ってる男がいるって事を知っていて欲しかったんだ。

オレもエムちゃんに会いたい。

あまり心の内をさらけ出すことがないシューマにとっては珍しいことだったが、紛れもない本心だった。
その日からは脳内の声とは会えることがなくなった。
シューマは最初は極度に動揺し何も手につかないような惨状を巻き起こしたが、徐々にアレは最後の交信だったのではないかと考え始め途端に喉に何も通らないようなくらい憔悴した。

そしてその憔悴から明けた頃には何に対しても興味を持てないただの凡人が1人生まれただけだった。

それからは毎日のように繰り返される親からの叱咤の声、失望の嘆き、もう一度返り咲いてくれるのではないかという淡い期待にすがり付く醜態を見せた。

シューマは並みの成績で小学校卒業し中学高校も近所にある偏差値50の普通科に行くにとどまった。

親はテレビでたまにやる偏差値70越えの中学校や高校が映ると即座に消すようになった。

シューマは気にしなかった。気にするとやっていけなくなるから。


そうしてなにも特徴がないと言うのが特徴といったようなFランの大学に入り何も自ら行動を起こそうともせずそのまま就職活動に入った。

アピールすることは何ひとつなく何も誇張しないまま面接を受けるシューマ。

そして100社目でやっと採用されたところでもう5年は働いている。


そういえば昔、何か面白いことがあったな……
面白かったという感情がふっとよみがえる。

そしてそれ以上に感じるのはそれを追い求めていられなかったという絶望感だけ。

やめやめ。

なんかすごいテンションが下がりそうな予感がした。

このことについて考えるのはよそう。

上司に叱られテンションが下がりきっていたシューマは、自らを守るように悪い考えを頭の中から徹底的に排除しようとしていた。

深夜。

シューマは会社帰りにコンビニへよって、適当な食料品と飲み物を買い家路を急いでいた。

晩ご飯は両親と食べなくなって久しい。

家にはシューマの食器は極端に少ない。

たまに母親の癇癪で割られるからだ。

そこまでされても家を出る気にはならなかった。

そこまでの気力もなかったからだ。

ん?なんだこれ?
家の前の道路に白いチョークで描いたような魔法陣が存在した。

街灯も少ない道なのになぜかその線は輝いているかのようにシューマの目に飛び込んだ

は、はは……。いたずらにしては手が込んでるな。


乾いた笑いが口に出るのと裏腹に脳みそのどこかでは好奇心がむくむくと膨れ上がり記憶野がチクチクと刺激されているのを感じた。

(異なる世界に存在する私様≪わたくしさま≫だけのしもべ≪サーヴァント≫!

このわたくし様が求めるのだから問答無用で了承しなさいっ!!)

どこからか声が聞こえる。

それは幻聴にも似て、毎日の激務で脳がゆだっているシューマにとって何が本当で何が本当でないのか既に判断がつかない。

それでも非日常に否応なくテンションが上がる。

深夜テンションだ。

厨二病が再発する。

求めるのならば答えよう!我が名はシューマ!

天才を極めし男シューマだ!

だがゆめゆめ忘れるな!お前が一時でも気を抜けば我が刃がお前自身を食い殺すということを!

この発言に意味などない。

それっぽい返答、それっぽい感じ。ふわっとしたなにか。

こわいこわい深夜のテンション。

近所迷惑など考えず全力で叫んでいた。

それだけなのに、シューマはとてつもなく郷愁にもにた何かを強く感じた。

あれはそう、子供の頃のことだったか。

シューマは昔の事を思い出そうとし始めた瞬間。

魔法陣から目もくらむような光が溢れた。

まぶしっ!
それがシューマの現代世界における最後の言葉となった。

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