勇者の武器屋

第三一話 魔法剣スリーパー

エピソードの総文字数=2,696文字

とにかく今は事業の成功に向けて何をするかだよ。勇者もだいぶ成果を挙げてるし、私も早く何かを形にしていこうと色々動いてみたんだ。
……そんでさ、ようやくにして一つ試作品にまでこぎ着けた。
製品開発ですか! 『ドリームアームズ』開店以来、自社製品を扱うのは初めてですね!
単純な儲けだけを考えたら、造って売る地道な商売より、勇者みたいに仕入原価もなしでノウハウを売っていたほうが堅実かもしれん。だがアタシらの根幹は武器屋だし、やっぱり本業でも地盤を築いておきたいじゃないか。
さすが魔法使いさんです! 普段は面倒くさそうな口ぶりなのに、いつも裏ではしっかりやるべきことをやっているんですよね。絶対に一人で逃げたりしないし、背中を任せても安心だなって思ってます。
褒めても何も出ねーぞ。こいつだ。
鞘に収めててもそんなに小さいのか。ずいぶんと細身の剣だな。護身用か?
護身用っちゃ護身用だな。軽さ、持ちやすさを重視して、レイピアをベースに製造した魔法剣だ。魔法武具の精錬に定評のある戈星工房と、私が所属してる魔法協会の合作で、あれこれ試行錯誤を重ねて開発してみたんだよな。製造関係者の間では、魔法剣スリーパーと名付けてる。
魔法剣スリーパー……良いブランド名だと思います。どんな効果があるんですか?
単純な話さ。特殊な製法で錬成した聖鉄に、熟練の魔導師が睡眠魔法を吹き込んでいる。
睡眠剣ですね! そう言えばエルフ種族の方々が前から睡眠剣を錬成していますけど、年に数本しか製造してないからすごく高いですし、ロングソードをベースにした大型の剣です。もし街の工房で量産できるなら、かなり購入希望者がいるんじゃないかって思いますよ!
量産とは言っても、やっぱり原価は高いんだよなぁ。魔力を封じ込めるから聖鉄を使うし、製造で協業する魔法協会にもギャランティーを落とさなくちゃならない。製造原価は、そんなに安くはできないんだよな。
概算でいい。だいたい幾らの原価だと見積もってる?
1本につき、原料の聖鉄に1万5000G、戈星工房の精錬コストに3万G、魔法協会に2万Gってところだ。合計6万5000Gとなっちまう。結構な高級品だぞ。
それでも、エルフさんたちの睡眠剣は30万G以上もしますよ! 6万5000Gで造れるなら、かなりの商売になる予感がします。
エルフの睡眠剣は高すぎて、そもそも売れないみたいだけどな。別にエルフも商売で造ってるわけじゃないんだろうが。しかもだ、そんだけ大金を払うなら、半年や1年くらい努力して黒魔法スリープを使いこなせるようになったほうがいいんじゃないかっていう話もある。
でも魔力が枯渇したときとかに、護身用として手元にあるというのは安心感が違うわ。それに普通の庶民が自分の黒魔法に頼るよりも、一流の魔導師が吹き込んだ魔法力のほうが確実に効き目は上でしょう。自分が黒魔法スリープを上手く操れるのとは、たぶん用途が違うのよ。それに呪文詠唱が不要で、剣さえ当たれば発動は一瞬でしょうからね。
それもまた確かだ。それとエルフの睡眠剣は、モノによってずいぶん当たり外れがあるらしい。よほど特殊な製法なんだろうなぁ。だがアタシらの製造工程は流れ作業でできるから、一定品質が保証できる。荒っぽい使い方をしなけれりゃ、耐久性もそこそこだ。
レイピアベースだから、これで木や石を斬りつけ続けたらさすがに折れるだろうな。だが高価な魔法剣で、そんな使い方をするヤツはいないだろう。
というわけで、幾らで売っていくかって話なんだが。
うちが独占販売できるのか?
もちろん。もともと企画・研究開発したのがアタシだ。戈星工房とも、魔法協会とも、『ドリームアームズ』の販売独占権を盛り込んだ契約書を、問題なく取り交わせる。
よし。9万8000Gで売ろう。それなら勝算が見込める。
15万Gでも、そこそこ販売できるような気がしますよ。私の講座の生徒さんでも、欲しいって言ってくれそうな方が2、3人思い浮かびますし。剣技や魔法を身に付けるために数千Gも出そうって方々ですから、そこそこお金に余裕のある人が多いです。
それはそうだが、『ドリームアームズ』初の高級ブランド品なんだ。やるからには、絶対に大成功させなくちゃならない。ならば儲けが薄くなっても、初めて打ち出すブランド品がヒット商品になること自体が、『ドリームアームズ』にとって格好の宣伝になってくれるはずなんだよ。
なるほど……よく考えてんな。アタシたちのなかじゃ、さすがに唯一の脳筋じゃないメンバーだけのことはある。
待ちなさいよ。ブランドだっていうのなら、安すぎてもダメでしょう。品質は二の次であって、やたらと値段が高いほうが評価されることだってあるものよ。とくに王族向けの宝石とか、王冠とかは、高ければ高いほど押しになるものなんだけど。
そういうものなんですか……。節約のために安いモノを選んで買っているような私とは、別世界の人がいらっしゃるんですね。
教皇なんて『一番高いものを持って持ってきてください』ってのが、出入りの商人に対する決まり文句みたいなものだったのよ。モノの本質なんて見てなかった。値段を見てたのよね、妙な話だけど。
だがそもそも、10万G前後の価格帯が、まったく安くはないんだ。むしろ庶民にとっちゃ軽々しく手出しができない価格だよ。それでいて、王族や教皇が買い入れるような資産価値があるものかと言われると、また違うだろ?
ま、まぁそうよね……。宝石みたいなものじゃなくて、どちらかと言えば実用品の範疇になるのかしら。
もしかしたら実用品とブランド品というのは、あんまりマッチしないのかもな。二兎を追う者は一兎をも得ずってか。
ブランド品といっても無闇やたらに高級路線を追求するんじゃなくて、品質がよくて重宝されるという方向性もあると思うんだよな。俺たちは武器屋なんだ。その本文に立ち返れば、品質や実用性を極限まで追求していくのが正しいやり方だろう。だから、中産階級でも購入が可能な10万G以下に設定してみたんだよ。
なるほどです! 魔法剣スリーパーは、9万8000Gで販売していきましょう! 『ドリームアームズ』にとって初めての独自製品であり、ブランドになってくれるかもしれない商品です。皆さんで大事に売っていきましょうね。
たしか僧侶はブランド開発にも取り組んでいたんじゃなかったか? どうなったんだよ、そっちは?
う……!? 私はまだ、その……もう少しよ、もう少し!
ああそう……。上手くいくといいな。
大船に乗ったつもりで期待して待ってなさい! そのうち物凄いことになって驚くことになるわよ!

ページトップへ