魔界の姫と二匹の黒猫の物語

第八話 越後屋六右衛門スケヤス

エピソードの総文字数=1,426文字

どりゃーーーーーッ!!

ス、ス、スララ……。
バタッ。

ゼェ、ゼェ……あたしに歯向かおうなんて、百億年早いっつーの!

やりましたね、姫様!

相当苦戦してたみたいですけど。

見事な初陣でしたぞ、お嬢。
スライム相手にここまで死闘を繰り広げられるとは、感心いたしました。

うっさーい!

つべこべいうなら、自分で戦いなさいよ!

しかしお嬢はなかなか筋がいい。立派な頭突き使いになれますぞ。

普通なら頭への影響が心配されるところですが、お嬢の場合は元が元ですからな。

ヘッドバットで血祭りに上げてやろうかしら。

ま、それはともかく、頭の上にスライムの粘液がたっぷり付着しておりますぞ。

早めに取らないと髪の毛が溶けますのでご注意を。

え!? やだ、やだ!

早く取ってよ、アシュタロト!

はいはい、ほら動いたら取れませんよ、姫様。

ところで、このスライムのびちゃってるけど、どうすればいいんだろ?

それについてはご心配なく。
野良魔物を魔界に送り返すことが出来るよう、手配済みです。

手配?

おーい、こっちだ、こっち。
おぅ、そこでのびてるスライムを運んどくれ。とっとと頼むよ!

わ、ビックリした!
あんた一体誰!?

この者が、先ほどお伝えした魔界帰還事業を手がけている、魔界商人です。帰還した魔族一人につき、魔界帰還基金から補助金が支給されるというわけです。

あっしも商売なもんで、正直多少のマージンは頂いとりやす、はい。

…っと、こりゃいけねえ。あっしとしたことが、失礼しやした。
お初にお目にかかりやす、お姫様。
手前、魔界と人間界を股にかけるスーパーワールドワイドビジネスを展開しておりやす、越後屋三代目当主、越後屋六右衛門スケヤスと申しやす。略してエチゴヤンとお呼び下せえ。以後、お見知りおきを。

あ、うん、よろし……。

おや、今「何でスケヤスなのにエチゴヤンなの?」というお顔をされやしたね?
話せば長くなりやすが、あっしがこんな小せえガキンチョだった頃、スケヤンなんてあだ名をつけられやしてね。おいスケヤン、ほれスケヤンなどと気軽に声をかけていただいたもんでごぜえやす。その後色々ありやして、先代から越後屋を継ぐに当たって何かこうお客さんに親しまれるようなものはないかと思いやしてね。
それであっしもピンときた。愛称としてヤンをつければ親しみも湧くんじゃないか、ってね。

……。

しかしこの先代というのがまた頑固なお人でして、あ、先代と申しやしても、あっしとは血縁関係にはありやせんで、あっしがブラブラしているところを拾っていただきやして、まあ今でいうニートとか、ちょっと前だとぷーたろーなどと……。

……スピー。

……おっといけない、商談の時間に遅れちまう。
あっしとしたことが、塩とレモンをちょいと仕入れ過ぎちまいやしてね。いやはや、参りやした。
そいじゃ、今回はこれにてドロンとさせていただきやす。
ドロン♪

ムニャムニャ……。

姫様、姫様。
お目をお覚ましください。

……ハッ!!
それにしても、えらく話の長い奴だったわね……。

商人としては優秀なのですが……。
そこが玉に瑕といいますか。

鍛え上げられたビジネストークというやつなのかもしれませんな。

ま、とにかく、やっつけた相手のことは心配いらないから、思い切りガツーンとやっちゃっていいってことよね。

魔界帰還事業によって帰還した者については、住居・食糧・就労斡旋などの支援プログラムを用意しております。遠慮なくやってしまって構いません。

へえぇ。色々とうまいこと出来ているもんなのねえ。

ページトップへ