魔界の姫と二匹の黒猫の物語

第十八話 魔族の掟

エピソードの総文字数=1,521文字

姫様!

いくら何でも、大勢のゴブリンを相手にするのは無茶です!
前の村でも無茶してあんなことに……。

まあ待て、アシュタロトよ。

いくらお嬢でも、何の考えも無しに引き受けたわけではあるまい。
今まで何も考えていない方が多かったのは確かであるが。

むしろ、考えて行動するということ自体が不可能と思われる節さえ。
となると、今回も考えずに「イチゴ食べた~い♪」という衝動的な……。

ちょっと、ベリアル。

前から思ってたんだけどさ、あんた、あたしのこと単なる馬鹿だと思ってるのを全く隠そうとしないわよね。

何と!

意外と鋭い観察眼ですな。

もう、ベリアルったらふざけないで!

それで姫様、秘策と仰っていましたが……?

あのさ、ゴブリンって話ができるでしょ。

ということは、交渉ができるってわけよね?

ゴブリンは亜人種の中でも、かなり知能が高い生物ですな。人間と比べても、それほど劣りませぬ。

むしろ、知的能力で言えばお嬢より高い可能性も。

ならさ、あたしの身分を明かして従わせればいいじゃない。

どう、あたしにしては名案でしょ? へへーん。

うーむ……。

えーっと、その……。

ん? 何か問題でもあるの?

問題は二つあります。

まず一つ目は、ここのゴブリン達が魔界育ちではなく、野良魔物であること。

スライムと同じように、あたしたちのことを敵と思うかもしれないってことよね?

その通りです。

人間界で育ってきたゴブリン達が我らに従うかどうかは分かりません。

だから、そこを身分を明かして交渉しようって話なんだけど。

人の話はちゃんと聞きなさいよね。

そこが二つ目の問題でして……。

姫様はご存じないかもしれませんが、私達魔族には掟があるのです。

ん?

掟……??

はい。

それは、魔王様に対して絶対的な忠誠を誓うというものです。

魔界の王様なわけだしね。

そんなの当たり前じゃない。

そこが問題なんです。

もし野良ゴブリンにも魔族の掟が通じる場合、魔王様の命令でしたら従うことでしょう。むしろ、わざわざ身分を明かして説明しなくても従うはず。
ただ……。

なんだか歯切れが悪いわね。

お嬢の命令には、従わない可能性が高いということですな。

は?

ちょっとベリアル、あんた何言ってるのよ?

あたしはお父様の娘なんだから、あたしの命令を聞くのが当たり前でしょ。

否。魔王様は魔王様、お嬢はお嬢。

たとえ魔王様のご息女であっても、普通の魔族にとってお嬢に従う義務はありませぬ。

え……。

で、でも……あたしって姫なんでしょ?

てことは、次期魔王ってわけよね?

姫様、その……魔王様の座は世襲制ではありません。

へ……?

すみません、姫様。

いつかお伝えしようと思っていたのですが……。

ちょ、ちょっと待って。気持ちを落ち着けないと……。

スー……ハー……。

どえぇぇぇぇぇぇぇええええ!?

姫様、どうぞお気を確かに……!

で……でも、そうよ!

城の皆はちゃんと言うことを聞いてくれたじゃない!!

それは……皆、姫様のことが好きなので☆

義務ではなく、情による繋がりですな。

それもまた得難きもの。

じゃ、じゃあ……もしお父様に何かあったら……。

滅多なことを口にされるものではありませぬぞ、お嬢。

もしもの話よ!

もしも……もしもそうなったら、あたしはどうなるの?

そうですな。

その場合は、お嬢は元王女、ということになりますな。

元王女……つまり、単なる一般人ってこと?

左様。やたらと石頭ではありますが。

そ、そんなぁ……。

ご安心ください、姫様。

姫様が一般のお方になられたとしても、アシュタロトが一緒にスイーツを食べに行ってあげますから!

一人酒が寂しい夜は、我がお供させていただきますぞ。

手土産に銘酒『千年の孤独』を持参いたしましょう。

うぅ……二人ともありがと……って、何の慰めにもならないわよ!

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