神さまとクソゲーと説明書

二、「人生」の目的と勝利条件

エピソードの総文字数=2,234文字

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「人生」の世界へようこそ! ここではあなたは種族「ホモサピエンス」の一人として、ゲームをプレイします。あなたは美味しい食事をしたり、生殖行為を行ったり、人から讃えられたり、自尊心を満足させることで「幸福点」を入手できます。ゲームオーバーになるまでに他のプレイヤーよりも多くの「幸福点」を稼ぎ、ハイスコアを目指しましょう!

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俺が嫌々ながらここまでタイプしたところで、後ろから見ていた上司が素っ頓狂な声を上げた。

「そう、キミ! これだよ、これぇ。ゲームに大切なのはまず『ルール』。ブロックを全て破壊するとか魔王を倒すとか、分かりやすい目標をまず明示しないとね! キミさあ、なんでこれ、最初からちゃんと書かなかったのよ」

「い、いや。ですから……ゲームの目的を探ることからしてゲームの一環でして……」

「でもこんなの分かんないでしょ! ボクも昔、試しにプレイしてみた時、全然分かんなかったよ! ノーヒント! もう、ぜんっぜんノーヒント、ワケ分かんない!」

「そ、そんなことないですよ!」

俺はイラッと来て上司に言い返した。

「幸福点をゲットするごとに、心や体が気持ちよくなるようにちゃんとプログラミングしてるんです。だから普通のプレイヤーは、自然と幸福点をゲットするようにプレイするんですよ!」

おれは小さく舌打ちながら、ログを検索してみた。クソ上司のプレイ履歴を確認してみる。

……三千年前にログインしてるな。クラス(職業)は……中東の小国の王様か。
えっ、妻が七百人で妾が三百人!? 毎日贅沢三昧して、めちゃくちゃ楽しんでるじゃねえか……。
あれ? おい! コイツ、プレイヤーのふりして運営に苦情送って来てやがる! 「何やっても虚しいしクソゲーだと思います」だと!? う、うぜえ……。

だが、この事実からもハッキリと分かる。

やはりプログラム自体は正常に動いている。上司もなんだかんだ言いながらきちんと幸福点を稼いでいるし、やっぱり普通にプレイしていれば自然と幸福点を求めるように行動するものなのだ。
ただ、幸福点を稼ぐことこそがゲームの目的だと意識しているプレイヤーは少ないのかもしれない。

その意識が欠けているから、いまいち戦略的なゲームプレイができていない、というのは否めない点だ。
俺はウィンドウを切り替えて、幸福度スコアアタックレコードをちらと確認した。ここには歴代のベストプレイヤーの稼いだスコアが並んでいる。

一位に君臨する男の名を見て、俺は小さく舌打ちした。2500年前からずっとコイツが首位に居座ってやがる。プログラム上のバグを発見して悪用し、ゲームデザイン全体をブチ壊そうとした、とんでもねえチート野郎だった。
コイツがいつまでも首位に居座っている現状もこれはこれで問題だと思う。
確かに、ゲームのゴールが明らかになれば、みんなもっと精力的に幸福度スコアアタックに乗り出して、このクソチート野郎を首位から追い落としてくれるかもしれないな……。

だが、それはそれとして、やっぱり説明書を書くのは気が進まない。あんまり説明をしてしまうと、プレイヤーの楽しみを奪う事になりかねないのだ。

けれど、書くしかない。上司(クソ)が後ろから見張ってるし。えっと、次に書くべきことは……。ああ、これ見たら、またクソがグチグチ言うんだろうなあ。

俺は溜息を漏らしながら説明書の続きをタイプした。

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 ゲーム開始時に、あなたは一定ポイントのリソース(資源)を自動的に入手します。それは「寿命」です。「寿命」は時間経過により減少していき、ゼロになった時点でゲームオーバーとなります。ただし、他にも不摂生や病気、怪我など様々な要因で寿命は減少しますので気をつけて下さい。
 幸福点をたくさん稼ぐ第一のコツは寿命を伸ばすことです。初期の「寿命」リソースはランダムで決まりますが、摂生や健康管理などにより、初期ポイントの低かったプレイヤーでも長くゲームを楽しむことができます。また、ホモサピエンス全体の「医療スキル」レベルを上げることで、「寿命」リソースを増やすこともできます。

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「ちょっとキミねぇ……」

ほら来た!

「この寿命ってのさ、かなり重要なリソースじゃん? なんでこういう重要なところをランダムにしちゃうの? ていうか、全体的にスタート時点でのランダム要素多すぎじゃない? 容姿とか資産とかさ。その点の苦情もいっぱい来てるんだよ?」

「いやいやいや、部長」

部長のあまりにも浅薄なゲーム評に、俺は冷笑を浮かべて答えた。

「部長、ゲームにはランダム要素が重要なんですよ? 良いプレイングをした人が勝てるゲームってのは、公平なようでいて息が詰まるんです。こういうランダム要素が適度に介在することで、プレイヤーはゲームをより気軽に楽しめるんです」

何もかも公平にしてしまえば勝ち負けは完全に実力勝負になってしまう。そうなると、もう弱いプレイヤーはひたすら負け続けるだけだ。目先の公平さだけでなく、こういう深いところまで考えて俺はゲームをデザインしているのだが、所詮、老害上司の知能指数では分からんか。

俺がフフンと鼻で笑うと、上司が顔を真赤にして怒鳴り始めたが、俺は無視したので実際何を叫んでいたのかは分からない。

(続く)

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