退魔天使は聖夜に踊る ~復讐の乙女~

【1】偽りの聖職者

エピソードの総文字数=1,300文字

「おとどけものですー」
「はーい、開いてますよー」

 ドンドンとけたたましく礼拝堂のドアを叩く奴がいる。
 開いてると言ったのに、まだ乱暴に叩いている。
 ……つか、蹴ってるだろ、それ。

「手が離せないから自分で入ってくれませんかー」

 ……と言ってもまだ叩いている。なんなんだよ、ったく。

 師走にもなれば、夕方の礼拝堂はクソ寒い。なんせ天井は超高いし、広さはテニスコートくらいはある。
 俺しかいないから暖房もナシだ。今はジャージの上下しか着てないから、暖かくなる要素がかけらもない。
 先日大ケガをしたせいで片腕を三角巾で吊ったままの俺は、凍える片手で要領を得ない床掃除の最中だった。

「へいへい、今開けるから……」

 俺は渋々手を止めモップをそこらに置くと、ペタペタとつっかけサンダルを鳴らしながら出口に近づいて、高さ2メートル半はある木製の重い扉を開けた――
 冷たい風と一緒に、何か黒っぽくて巨大なものが、ごそっと雪崩れ込んできた。

「わ、わわわわわわ、ギャアアアアアアア――――――ッ」

 俺は己が身に何が起こったか理解する間もなく、ひどく情けない悲鳴を上げた。

 ドササササ――。
 なんかモッサモサでデカくて重いものの下敷きになった。
 まったく身動きがとれない。

「ああ、ごめんよ僕! だ、大丈夫か?」

 配達員と思しきおじさんの声だけ聞こえる。
 たしかにこんな重いモノ持ってたらドアなんか開けられないな。
 ごめんよ、おじさん。

「た……たすけ……て」

 口をあけると細かい葉っぱが入り込んでくる。
 口の中に青臭い香りが広がる。
 ペッペと吐き出していると、俺の悲鳴を聞きつけたシスターたちが奥から出てきた。

「きゃあ! ショウくん大丈夫? 今、もみの木をどかしてあげるから待ってて」
「やだあ、天使がクリスマスツリーの下敷きになるなんて、縁起悪~い」
「これ羽生えてたらもっと絵になるのに~ クスクス」

 クソ、好き勝手言いやがって。
 数日前、外の街からこの教会にやってきたばかりの俺には、若い女の声だけじゃ、どいつがどいつか判別つかないから後で文句の言いようもねえ。

「は、はや……く、どか……してくれぇ」
「僕、待ってろな。さあシスターさんたち、手を貸して」
「「「はーい」」」

 やっともみの木の撤去作業が始まるようだ。
 シスターたちと配達員が一緒に木を起こしている――んだけど、
 うあ、動かす角度が、や、やめひぇあんぐぐぐぐ……

 ヘンな方に引っ張るせいで、俺の顔に細くとがった葉っぱやら枝やらがごりごりとひっかかり、ティーンエイジャーの柔らかお肌を削っていく。

 体の自由がきかないから、首をわずかにひねって目玉や鼻の穴への直撃をかわすので精一杯だった。

「「「せーの!」」」

 かけ声とともに、体にのしかかる重みが急にふわっと消えた。
 そして体中にパラパラと尖った葉っぱが降り注いだ。

「ど、ども」

 床の上で伸びている俺に手を差し出したのは、おっさんでもシスターでもなく、高校生くらいの女の子だった。

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