いかに主は導きたまうか。

2.2  Storm, Parade & Casino 忘れるべからず。

エピソードの総文字数=3,698文字

  ボクは嵐の夜に車で一人高速道路を走っていた。辺りは真っ暗だった。夜遅くに車を走らせることはあり得ないので、郊外のスーパーになんやらかんやらの買い出しにでも行った帰りだったのだと思う。夕刻なのだが嵐のせいでそのように感じたのかもしれない。それは恐ろしい稲妻が何本も長く走っていた。雷のドラが何度も激しく打ち鳴らされていた。なんとドラマティックな光景であったであろうか。なんとボクはこの状況下、車の中で一人、子供の様に「ウエンウエン」泣いてしまっていた。
「なぜボクなんだ?」、と....
「”ボクなんか”が何故なのだ」と....
「この後どうなってしまうのか」と....。
さぞかし喜劇的なまでの慌てっぷりだっただろう。
  超越的な存在。神の観念は知っている。しかしリアルに その存在を認識した後のボクはどこかでパニックに陥っていたのだと思う。心の整理が追いついていなかったのだ。この嵐は演出なのだと、表しなのだと、ある種のメッセージなのだということをボクは確信していた。ことの刻印を施されたのだ。そして刻印と思われることがもう一つあった。

  時を同じくしてChicoではあるお祭りが始まるタイミングであった。パイオニアデイズという。5月の最初の土曜日パイオニアデーの前の1週間が期間だ。この七日間、町の雰囲気は一変してしまう。みるまにお祭り騒ぎのムードに包まれて行った。ボクはこんな催しあることなど露とも知らなかった。他所の町からも多くの人々が参加しにくるので気をつけるように、他国人であるボクたちは世話役の先生から注意があった。当たり前だろうが毎年騒動がおこり怪我人や盗難が発生するらしい。ダウンタウンの通りでは日本では見たこともない扮装のパレードが開催された。ボクは、これに偶然、突然に遭遇したに等しい。誘われて見に行った訳ではなかった。時が時だけに、状態が状態だけに、まるで違う世界に迷い込んだ感があった。全くの異文化だった。種々雑多なグループの行進がつづいていく。美しいバトンガールの女子学生の群れには見ほれた。中でも小さなゴーカートが集団でやってくるのには驚いた。太った人たちが奇妙な服装で狭い座席に身を沈め、ゆっくりゴロゴロうるさい音を立てながら運転してやってきたのが一番印象に残っている。遠くはブラッドベリーの小説、カーニバルがやってきた、に描かれていた猥雑にして幻想的なイメージを喚起してしまっていた。
  学生達も日頃の鬱憤をはらすべくか、日頃土曜日によく持たれるパーティなど比べられないほどの乱痴気騒ぎに興じていた。経緯は良く憶えていないのだボクは誰かの家でパーティに参加していた。みんなバカみたいにビールをがんがん飲んでいた。音楽もいろいろ激しいのポップなのが大音量で流れていた。ボクはビデオカメラで撮影を行っていた。完全にその行為に没入していた。何を撮っていたのだろうか......。今のこの世界を在り様を収めることに。変に醒めた高揚感となみなみならぬ目的意識をもって延々撮影に勤しんでいた。誰かが近づいてきてボクの耳元で『今日は、あなたの日だ』みたいなことを言って行ったのを覚えている。彼はボクの知らない人だった。何らかの賛辞の表現には聞こえた。
  後でこのビデオを見た記憶がある。しかし、それはだだの間延びした映像の羅列ししかなかった。中には吐かれた反吐を写したものもあった。なんの面白みもないものでしかなかった。ボクはできるだけ全部をありのままを写そう残そうとしてたのだと思う。

  このお祭り騒ぎのこの期間の後半にルームメイトのアンドレからリノへ行かないかと誘いをうける。連休状態だったように記憶する。このプランにはめちゃめちゃ彼のテンションが上がっていたのを見た。もう一人のルームメイトのスティーブと他に六名のバディー達も参加するとのことだった。目的はギャンブルか女買いだという。どうしようとお前の勝手だと言う。ボクは参加したいと答えた。一度アメリカのカジノへは行ってみたかった。絶好の機会と思った。車二台での日帰り紀行だった。午前前ぐらいに見知らぬアメリカ人の学生達がそぞろに家にやってきた。見知る人もいた。彼には激情を見て感じていたので苦手だった。ボクもなにか浮かれ気分に当てられていたのか、なにか言わなくても良い軽口を言ってしまい彼の逆鱗に触れたようだった。でも彼は、それを飲み込んでくれたようだった。出発の間際でタイミングもあったのだろう。ヒヤヒヤした。後ろの座席の真ん中でデカイの2人に挟まれてボクは窮屈だった。両隣の2人もそうだったとは思う。行きも帰りも四時間ぐらいだったと思う。殆どの道中は山の中をうねうねと続く道を延々と走っていた様な記憶だ。視界が開け少し小振りな町に入ったかと思うと、また直に山道へと入り込んで行った。荒涼としたバカに広いエリアを抜ける。日本で見かけるような寂れたとか、なんにもナイとかの景色とは全く違う。手つかず、手が入っていても荒削りで放っとかされている、展望が広いせいか悪戯にバカでかいスケール感だけが感じられる。ただそれだけ。通った町もなにかあまり人気や活気を感じられず、心細さをえらく覚えた記憶がある。
そしてリノに到着する。高く電飾の施された看板があちこちにあった。一気にビッグタウンの様相となる。小さいのや大きいのやらのカジノと思われる建物を見かける。なんとキラビヤカで伽藍堂な町なのか。腹ごなしにバーガーキングへ入る。無駄な所にお金は使わないと言うことだろう。そして一軒の建家の前で下ろされた。ここが決めていたカジノなのだろう。ラウンジを確認して、あとはみんな夫々に散って行った。ボクはアンドレにどうするかを訊かれ、一人で回ると答えた。ではと、殆どの者は、この建家のどかかにいるであろうことと、もしもの時の為の集合場所と時間が教えられた。
 少し中を見て回る。連休のせいなのか人は多かった。とても賑やかで空間には活気が溢れかえっていた。とても独特で刺激的な世界に感じた。ふかふかの豪華な絵柄のカーペットの上を歩む。スロットとルーレットで少し遊ぶ。ピンと来なかったので直ぐ止める。酒はただなので、ロングアイランドをもらいチビチビ飲む。この酒は、甘く爽やかで飲みやすいが回りは早い。いろいろ見学したり見渡したりしたりして、やがてボクは居場所をみつける。ブラックジャックテーブルだ。ボクは、ここで人生でもっとも楽しい時を過ごすことになる。
テーブルの向こうには戦闘服(それはセクシーで恰好のいいやつ)で身を整えた女の子、お姉様が立っていた。みんな凄く魅力的だった。彼女らとタイマン張れるのだからそりゃ燃える訳だが。ボクは気後れが全然しなかった。本来ならばそんな度胸があるわけないのだが...。カードのやり取りの中、いろんな言葉を短く贈った(まあ動揺を誘う揺さぶりなのだが)。その場限りであること、あんたから金をせしめんがためだとの仮面のもと、ボクは愛を全身全霊をもって言葉を紡ぎ上手く演技を取り混ぜながらそれらを彼女に送った。材料は絵札だった。彼女の味方はキングとナイト。ボクにはクイーンを配した。見せ札においてこれらが出たときがチャンスだった。
You gotta a knight! You gotta big help!!
She comes for me!. I love her!!
良くないカードの配分の時は、I'm about to die... ブラフの時もあった。
良い配分の時は、慇懃なる面持ちで心からの、I love you. I thank your kindness.
ボクは”LOVE”いう言葉を多用した。夢の様な時間だだった。彼女らの反応も面白かった。基本、笑顔で聞いてくれていた。逆に彼女らは、そう言葉を返すことはできない立場だった。ボクと言う人間を、まんざらではないと受けとめてくれているように思った。表情がと言うよりも目がそう語っていたように感じた。舞台では勝ち負けが事を振り出しに戻し、次の展開を演出して行く。ボクは楽しくやっていたのでよく勝った(波にのっていたのだ)。それは逆に彼女のプライドに障るもので、負けたときは慎重にそれなりに賞賛の意を楽しげにユーモアを交えて送った。相手も心得たもので、全ては次の勝負への布石である事はよく承知していた。意地のぶつかり合いだった。突如、ボクは気分が悪くなった。活力が一気に失せたようになった。あれほど饒舌に話していたのに、言葉がでなくなる。勝負も勝てなくなった。負けが連続するのをみて、ここまでと思いテーブルを立つ。彼女にありがとうを伝えた。なんか変だった。体調の問題、ロングアイランドのせいでは全くなかった。*後日、ある人にこの話をすると、ああいう所には良くないものがいて憑かれたのかもねとのことだった。とにかくも、最高のひと時だった。プレゼントだったのかもしれない。これも刻印だ。


 
  

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