神と大統領と弾道ミサイル(仮)

神の行軍

エピソードの総文字数=1,735文字

 渓谷沿いは道が悪い。岩の間をすり抜けるように、人間がなんとか行き来できる道があった。地元の人間たちしか知らないような通り道である。

 アスタリア兵はこうした悪路にすっかり慣れっこだったが、天馬にはさすがにキツい道のりだった。

 ぜえぜえと息を切らせながら兵たちとの歩調を合わせている天馬を、エリカが歩きながらのぞき込んでくる。

天馬は本当に大丈夫なの……?
大丈夫とは、何がだ?
疲れたでしょってこと。だって天馬は運動なんか普段してないし、行軍するだけでも大変なんじゃないのかなって。
死ぬほど疲弊している。限界に近いことは間違いない。この進軍は下りのルートをたどるから、なんとかついてこられているだけだ。
その荷物、私が持ってあげるよ。
いい。ノートPCと水筒が入っているだけだからな。武器弾薬や食料まで携帯している兵たちと比べれば、俺など手ぶらのようなものだ。
でも、辛いときは言ってね。
…………。
……何よ……?
いったいどうしたのだ? エリカはそんなに優しくなかったはずだが?
なっ、私だって優しいのよ本当は。前にちょっと厳しくしてたのは、単に天馬が嫌いだっただけっていうか、あんまり天馬のことを知らなかったからっていうか……。
今は嫌いじゃないのか?
……違っ……。嫌いと言えば嫌いよ……。で、でも少しだけなら認めてあげてもいいかなって……。
嫌いだろうと認めていなかろうと構わない。俺の命令にさえ服してくれれば、優秀な副官だ。
しょせん単なる副官なんだ……。
むしろエリカのほうが、ロシア側の監視要員として俺についているのだろう。エリカが俺の副官であることは、ロシアにとっても俺にとってもベストポジションだ。滞りなく仕事ができるエリカ自身にとっても、それはプラスとなる。
私だって人間よ。そんな機械みたいに何もかもを割り切って考えられないわ。
俺は人間とは言えない。神の側にあると言えるだろう。愚民どもとは性能が違うのだよ。
でも、死んだら神じゃなくなるんでしょ? プラトが反乱を起こしたとき、『もしものことがあれば、大統領によろしく伝えよ。不動天馬は神ではなかった、とな』って言ってたじゃない。
そうだな、ならばやはり俺は神だ。俺はこうして生きている。
天馬が自分を神、神、神っていうのは、最初は頭がおかしな人間だからだと思ってた。だから嫌いだったの。でも今ならちょっとわかるよ。天馬の信念みたいなものなんだよね。
思い込むのは勝手だ。俺には関係がないことだからな。
どうしてそんなに信念を持てるの? そんなに強い気持ちがあるのに、どうしてずっと引きこもっていたの?
俺が神であることを、どうしても言葉遊びのようなものにすり替えてしまいたいようだな。俺が神である事実は揺るがない。俺の仕事は世界のすべてを一変させてしまうことであって、それ以外の細事にはまるで興味がないだけだ。
そっか、天馬にとっては生活のためにお金を稼いだり何かをしたり……そのすべてが細事なのね。どうでもいい次元のことには関心がない。
細事に毎日あくせくするなど、人間どもの専売特許だよ。神には無関係の世界だ。
世界のすべてを一変させる……そんな大事業を達成できる存在なんているかしら……。世界の歴史を見渡したってそんな……。
人類の過去など、どうでもいい。

この先にある未来で、新しい世界を創始するのは神の役目だ。

……だけど……。
黙って歩け。小言なら、大統領執務室で聞いてやる。
 天馬は突き放したが、エリカは話をやめない。
もし……仮の話よ? その仕事が完遂しなかったとしても、死ぬようなことは絶対しないで。ううん、ちゃんと正確に言えば……そんな大事業と自分の命を天秤にかけるようなことはしないで。別にいいのよ、結果のほうは。また引きこもってもいいんだし。そのときは私が養ってあげる。これでも高給取りのほうだと思うし、ロシアに戻れば不自由ない生活水準を維持できる。たぶん日本にまた派遣されるから、もっといい生活だって……。
なんのつもりだその所帯じみた話は。地球史の話をしているのだぞ。だからエリカは愚民の側なのだ。
それが副官の役目でしょ?
副官の役目は、世界を変える戦いで発揮しろ。
……………………死ね。
 恨みがましくエリカはぼそりとつぶやいた。

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