放蕩鬼ヂンガイオー

2「燦太郎! あんがと、なのだ!」

エピソードの総文字数=1,494文字

「そういうわけで、明日にはお別れなのだ」

 場所を移して、オレベース二階の寝室。

 あまり店に長居するといつまでたっても開放してもらえなさそうだったので、ほどほどのところで天甚が切り上げさせてくれた。

 一階の後始末は任せて、今は燦太郎とくまり、ヂンガイの三人で自室に集まっている。もみくちゃにされて消耗したらしいヂンガイがベッドの上でふんぞり返り、自分の肩を揉みながらつぶやいたのが先程の台詞であった。

「おつとめご苦労様でした。日本AQの本部にもスピノザAQから連絡があったそうです。くまりも事後処理を済ませたら解任らしくて。……せっかく仲良くなれたのに、寂しくなりますね」

 言い終えてから、くまりは失言に気付いたみたいな様子で慌てて燦太郎を振り返った。

「さ、燦太郎くんは心配しなくていいんですよ。ヂンガイさんが抜けたぶんの穴は、くまりが新アルバイトとして住み込みますから」
「うん。ひとんちの人事、勝手に決めるのやめような」

 燦太郎は咳払いをしてから、改めてヂンガイに向きなおる。

「俺とは、べつに最後のお別れってわけじゃないんだろ? ヂグソー心臓のことがあるし。こいつの摘出やら治療やらで、少なくとももう一回は会えるんだよな?」
「いや、それがその……」

 言いよどむヂンガイ。なんとなく返事が予想できてしまった。

「……燦太郎くんの心臓については、スピノザからの指示をもとに日本AQが引き継ぎます。情報の拡散防止がAQの理念ですから、人員的にも、時間的にも、技術的にも、可能な限り新たな情報の露出は抑えようということで」

 言いにくいことをくまりが代わりに引き受けたのだろう、助け舟を出されたヂンガイは過剰なくらい頭を振って頷いている。

「か、帰ったら勲章もらえるらしいのだ。あれだけのヂゲン獣を一人で、こんな短期間に倒したのは前例がないって。本当に本当にすごいことなんだって」

 テンションをあげるヂンガイ。が、すぐに下を向いて神妙になった。

「……あたしも、ついに本当のヒーローになれた。燦太郎のおかげなのだ」
「そっか」

 それだけ言って燦太郎は立ちあがり、押入れの中から段ボール箱を一つ取り出した。

 両手で抱えながら、無言でヂンガイの前へと歩み寄る。

「あ、あの。ごめんなのだ、急にこんな、あたしもタイミングとか予想できなくて……」
「なに謝ってんだおまえ。もともと平穏にすごしてた俺の生活をめちゃくちゃにしてくれた厄介者なんだぞ、いなくなってくれてせいせいするくらいだ」

 ダンボールのふたをゆっくりと開ける。

 中には、アキバリオンのDVD、フィギュア、音楽CD、漫画版全巻、その他もろもろの関係グッズがぎゅうぎゅうに押し込まれていた。

「おまえのことだし、一人で帰ったら勉強したことまた忘れちまうだろ。適当に土産みつくろったから、持って帰りな」
「え、うそ!? すごいのだ! ……あ、ラブキャラもある!」
「売れ残りばっかりだけどな。この時代で出会った偉大なる古代人、桜庭燦太郎さまに一生感謝しろよ。未来で語り継げよ」
「ぷくく、売れ残りでよくそんなに威張れるのだ」

 ヂンガイが嬉々として中身を吟味するなか、くまりがそっと肩を寄せてきた。

「くまりだってこれでも勉強したんですよ。お宝ばかりじゃないですか」
「るせ。あいつにはぜったい言うなよ」

 こそこそと耳打ちしていると、ヂンガイが聞いたこともない快活な声を上げた。

「燦太郎! あんがと、なのだ!」
「おう。こっちは大丈夫だから、安心して行ってこい」

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