神と大統領と弾道ミサイル(仮)

神の誠心誠意

エピソードの総文字数=1,684文字

攻撃をやめさせろ。さすればミサイル群はモスクワ上空に到達する前に起爆させてしまう用意がある! この俺は誠心誠意、モスクワ市民の命を救いたいのだ!

 まるで自分が英雄か聖人君子とでも主張するかのように、天馬は熱意を込めてテレビカメラに向けて語り掛けた。背後からは、今だ激しい銃撃音と爆発音。

 まさに戦闘の真っただ中といった状況でインタビュー役を務めるライザが声を張り上げる。

ですがロシアは殺戮を止める様子がないようです! 自国民を見殺しにしても、ここオーレスでのジェノサイドを続けるのでしょうか!?

 ライザもすっかりハイテンションだった。

 CNMのテレビカメラも、天馬が世界に向けて語り掛ける様子を映し出したり、家々が次々と爆発を起こしていく様子を映し出したりと忙しない。

 ここでスタジオより、ライザに「映像をいったん別の現場に飛ばします」と指示が入った直後、すぐさまテレビの場面が切り替わった。天馬とクルーの3人は、設置してあるテレビに視線を走らせる。

 画面には、別の男性のCNM特派員が映し出されていた。どうやら艦上からの映像のようだ。

【CNM男性特派員】

こちら現在インド洋に展開中の、第七艦隊所属、空母ロナルド・レーガン艦上です! アメリカ軍機が着々と発艦していく様子が見えるでしょうか? 向かう先はオーレス東北部!

【アナウンサー】

まさかオーレスをはさんで、米露の決戦ですか!?
 アメリカのスタジオにいるアナウンサーの顔が画面半分に映し出されている。

【CNM男性特派員】

ホワイトハウスからは直接の声明はまだ出されておりません! しかしホワイトハウスに近いアメリカ軍人によりますと――

 空母の特派員がまくしたてている横で、アスタリアの街には大きな変化が訪れていた。

 突然、銃撃音の大半がかき消えたのだ。

攻撃が……止んだ?

 その直後、迷彩服に身を包み、AKSを携えたエリカが物々しくやってきた。テレビモニタには、空母ロナルド・レーガンの艦上からの実況中継が続いていたので、こちらの映像は配信されていない。

ロシア軍が撤退を開始した模様よ。
こちらが苦しいときは、敵もまた苦しさを感じていたということなのだろうな。
正直、紙一重だったのは間違いない……。ミッション『ビッグバン・オブ・ザ・マッドゴッド』によって半数以上のロシア兵に打撃は与えたはずだけど、それでも銃撃の状況を考えれば余力は残っていた。もう少し踏ん張られたら、きっとここまでロシアの特殊部隊は乱入してきていたでしょう。
俺の弾道ミサイル攻撃や、ダーティーボムにすぐには動じなかったのはさすがプーチンだと言いたいところだが……敵には撤退という選択肢があったが、我がほうにはその選択肢がなかった。たったそれだけのことが命運を分けたのかもしれん。
撤退するロシア軍に追撃は?
不要だ。

山々を越えて徒歩で逃げるのか。難儀なことだ。

国境まで逃げれば、そこでヘリが待っているでしょう。
 そんなやり取りをしていたとき、早口でライザが合図してくる。
こっちに映像切り替わるわよ!
 エリカはうなずいて離れていき、再びライザがカメラモニタを見やりながら語りだす。
状況が一変しました!

わかりますか、銃撃音が途絶えたようです! ロシア側が撤退していく模様です!

 カメラは、窓の外を舐めるように映し出した。
不動大統領、何か視聴者にお伝えしたいことは!?
今すぐモスクワに飛ばしたダーティーボム搭載の弾道ミサイル群を起爆させる。俺はロシアのような不埒な国家と違い、たとえ戦争中の相手であっても、常に市民のことを第一に考える統治者だ。この俺の優しさは並じゃない。

 天馬は真剣な表情で断言した。

 ただし実際には、天馬はその後、その約束を守るような行動は一切しなかった。世界市民の前での約束を反故にしたわけではない。ただ単に、発射した弾道ミサイル群にははなっから起爆装置などついていなかったし、もともとモスクワまで飛ばすだけの飛距離がなく、弾頭にはプルトニウムどころか爆薬すら積んでいなかったためである。広大なロシアの適当な場所に、勝手に墜落することだろう。

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