勇者の武器屋

第三九話 ビジネスのヒント

エピソードの総文字数=1,815文字

まさか貴様ごとき小娘がこれほどの粘りを見せるとは思いもよらぬことだったぞ。我が魔境銀行への毎月の利払いも滞りなく行われているようだ。すぐにこの私に屈服すると高をくくっていたが、どうやらそれは訂正しなくてはならないらしい。
はうっ……。
……何を震えておるのだ勇者よ。顔が赤いぞ。熱があるのではないか?
あのっ……自分でも、まさかこんなに緊張するとは思わなくて……。いつも魔王さんのことばかり考えていたせいかもしれませんが、魔王さんご本人が私の目の前にいるなんて、なんだか変な気分なんです……。
フフフ、私を恨むなら恨むがいい。怒りをぶつけたくなる気持ちも当然だろう。だが私はどのような苦難を抱えようとも、ただ己の信念に従い、ひたすら前へと突き進むのみ。たとえどれほどの恨みを買おうとも、すべてを踏み越えていく決意を持っている。
そういうことじゃ……たぶんきっと、そうじゃないんです……。どんな風に言葉にしていいかわからないんですけど……。
私の前に立ちはだかる者に容赦はせぬぞ。貴様も、もし私に再び刃を向けてくるつもりなら覚悟せよ。そのときは何度でも、貴様を地獄の底に追いやってみせる。死よりも辛い状況というものを、存分に味わわせてくれよう。
……魔王さんには……その、えっと……奥さんとか、恋人さんとかはいらっしゃるんですか……?
何ッ!?
ハッハッハ、何を言うのかと思えば、実に愚か極まる問いなことよ。私は己の人生を、この魂のすべてを、世界の変革に捧げようと決めたのだ。他の荷物を背負い込むヒマなど微塵もない。
じゃあ、いらっしゃらないんですね……?
くどい!
……なるほど、貴様の悪辣な魂胆が見えてきたぞ。恨みが募りに募り、この私をコケにしようというのだな?
違います! そういうことじゃ……。
だがそうはいかぬぞ勇者よ。私ほどの大資産家ともなれば、その気にさえなればいくらでも機会はあった。それでも、私は革命家としていつ死ぬとも知れぬ身だ。私のような信念を少しでも理解する女などいるはずがない。
でもっ、そんな人生を一緒に歩みたい女性はいるんじゃないかって思うんです。
ふん。私はすでに50も迫る身だ。魔族は人間族より幾らか長命だが、それでも人生の半ばには達している。この歳になれば、そのような雑事にうつつを抜かす気分にもなれぬわ。
パーティーの仲間には、年齢なんか関係ないんだって言われました。
……貴様、何が狙いだ?
この私を愚弄し続けることで、いい気になりたいと思っているのなら間違いだ。私の信念は、貴様の嘲りや冷やかしごときに負けはせぬ!
……そうじゃ……なくて……。
無意味な嘲笑はやめてもらおう。この訪問の本題を言え。私は非常に多忙な身の上なのだぞ。
あっ、魔王さんはとっても忙しいはずなのに、私のお話に付き合わせてしまってゴメンなさい……。でも、おかげで少しは緊張がほどけました……。
今日ご訪問させて頂いたのは、『ドリームアームズ』と魔境銀行さんが業務提携できないかなと思ってのことなんです。
フッ、笑わせるな。寝言は休み休み言え。
貴様らごとき武器屋風情と、世界中に支店網を張り巡らせる我が魔境銀行が提携だと?
はい、間違いありません。魔境銀行さんと提携したいんです。魔王さんとは、きっと一緒にビジネスができるはずだって信じてます。
武器屋ごときがぬけぬけと。
まさか魔境銀行と対等だとでも主張するつもりではあるまいな? 格が違う、もはや語ることすら憚れるほどだ。自分の立場をその目で見定め、恥というものを知るがいい。
たしかに魔王さんの仰る通り、『ドリームアームズ』と魔境銀行さんでは、法人としてのレベルが遥かに違います……。
それでも私は、この提携は絶対に成り立つって信じてやってきました。なぜなら魔王さんにとって、きっと物凄く大きなビジネスに繋げてもらえると確信しているからなんです!
この提携は、魔王さんがさらに飛躍するビジネスなんですよ!
ビジネス……だと? 勇者ごとき末端の一市民が、この私に対してずいぶん大きく出られたものだな。
……だがよかろう、どこにビジネスの種が隠されているかがわからないのもまた事実。貴様のほざきのなかにも、何かしらのビジネスのヒントが見出せないとも限らない。
それでこそ魔王さんです。本当に尊敬します。
ご託はいい。貴様に与えてやるプレゼンの時間は10分だけだ。
さあ始めろ。その間にこの私を説得できるかどうか、とくと見極めてやる……!

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