『みじょかもんの祈り ー 心の貧しい人は幸い? ー』

01. 「職業訓練生の春。」

エピソードの総文字数=1,544文字

2010年4月。

年度始めというのは、不思議なもので、春の独特な空気や匂いを感じる。

しかし、今までは教師として春を迎えたが、今は生徒としての立場で迎えることができた。

学校は、山の中腹にある。

そもそも、長崎という場所は、山ばかりの土地で、無理やり斜めに削って家を建てたのだ。

「ちょっと学校に行ってくる」と言えども、登山だ。

道がクネクネと蛇行している。
道幅が広いわけがない。
人が歩いている後ろで、自動車やバイクがアップダウンしながら近づいてくるのだから、メチャクチャ怖い。

久し振りの長崎の朝は、「起きてすぐ、登山だな・・」という具合だ。

汗を流しながら、学校に到着する。

久し振りの学校に緊張した。

歴史は浅く、比較的新しい建物だ。

玄関が自動ドアの立派だった。

学校内の階段を更に登って行く。
緊張の面持ちの私の横を、10代、20代の若者が通り過ぎて行く。

「なんだか、浮いてるよな。自分・・・。」

介護の職業訓練校と言っても、独立して学校が建っているわけではない。
一般の専門学校が、公から請け負い開講している。
だから、高校を卒業したばかりの一般学生と同じ学校に通学するのだ。

「35歳のオッサンである自分の方が、場違いなんだよな・・・」。

案内書に書いてある教室へ入ると、すでに数人の生徒が無言で座っていた。
教室中をグルっと眺めた。

彼らの、少し後ろは窓がある。

窓の外には、大きな山が見えた。

「おぉ、綺麗な眺めじゃないか!」。

緊張している割に、私はそんなことを思った。
稲佐山という日本三大夜景の1つも見える。
今いる学校は、稲佐山よりも小さい山で助かった。

定刻になった。
教室には、40名の生徒が集まっている。
その半分以上は、18歳の男女だ。

20代も数人。
残りは、私と同じような職業訓練生である。
10代から40代前半と色んな人生を歩んで来た人達が集まった。

シーーーーン・・・・・。

誰も何も話さない。
おそらく、色んな年代の人間がお互いを警戒してのことだと思う。

専門学校は、クラス担任制だ。
黒板の前に、女性が2人並んで立っている。

1人は私よりも少し若い先生だ。
この先生がクラス担任なのだ

クラス担任と40名の生徒。
これから2年間、同じ授業と実習を経験していくのだ。

もう1人いたのが、介護福祉科の主任で、最初の話を皆にして下さった。

60前半の主任の恰幅のいい女性である、
「新しいことを学ぶって、本当に楽しいですよねぇ、皆さん。頑張って介護福祉士を目指しましょう!」

「・・・」
私は素直に頷くことはできなかった。

それは、自分の心に余裕がなかったからだ。

学ぶよりも、まず、人間関係も考えなければならないし、そして就職のことも考えなければならない。

「学ぶことの楽しさ」以上に、早く生活を落ち着けたかった。

4月から、本当に愚かな男である。

最初の1ヶ月、10代の生徒は、年上の私たちを好意的に見ていなかったらしい。
「なんで、こんな年齢の上の人が、一緒のクラスにいるんだ?」と思っていたそうだ。

成人かそうでないかは、大きな境界があった。
35歳の私は、立派なオッサンだった。

座席は、10代の生徒の隣の女の子だった。
何を話せばいいのか分からず、無言。
緊張してしまっていた。
休み時間になるとオッサンとオバサン連中のグループ、10代と20代の生徒のグループで、それぞれ固まった。

空気はいいものではなかった。
早く2年が過ぎてしまって欲しい。
そう思った。

こうやって、新年度を迎え、授業が始まっていったのだった。

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