地球革命アイドル学部

ビッグバンプロジェクト(1)

エピソードの総文字数=3,323文字

ふう。困ってしまいましたね~。

 ミーティングテーブルをはさみ、向かい合って座る一華は首を傾げた。

 しかし元アイドルにして現教師、浅倉一華はすんげえ可愛いものだなと思う。こんな子が同僚としているのかと、不思議な気分になる。まぁ自分には何の縁もないわけで、だからどうしたという話なのだが。強いていえば、24歳でこれほどの美貌がある前途洋洋の一華が、38歳で引退時期を探っている非正規教員、先のない自分にはあまりに眩しい。直射日光が強烈すぎて息も絶え絶えだ。

はてさて、どうしたものでしょう。宗形先生に、何かアイデアありますか?
俺なんか何もないよ……。浅倉先生のほうがあるだろう。
ないです。無理、と言わせてください。
校長に言ってほしい言葉だなぁ。

だから言いましたって。うちの高校がアイドル学部なんて始めて成功するくらいなら、世の中のプロダクションもタレントも、誰も困っていませんよ。第一、私たちは完全に素人じゃないですか。毎日懸命に活動してるプロダクションのプロフェッショナルたちに、竹やり一本でどうしろというんでしょう。

浅倉先生が素人のはずがない。22歳まで現役アイドルだったっていうのに。

ふう、皆さん誤解なさいます。本当は特別視されるようなものなんて何もないんですよ。アイドルだった頃はなかなか売れなくて、『あー、もう私なんて誰も興味ないんだな』と思っていたものですが……でも芸能界を去ってから、なぜだか余計に元アイドルという経歴が目立つようになりました。不思議な話ですねー。

謙遜じゃないの? 浅倉先生がうちの高校に来たとき、テレビや雑誌にもかなり出てた有名アイドルだって校長が触れ回っていたけどね。

 俺はアイドルには興味を持っていないし、そもそもテレビを見る機会もない。それゆえに、話題の芸能人やアイドルなどほとんど誰も知らないのだ。校長の話をひとまず真に受けるしかない。

そもそもですね~、私、最後のほうなんかほとんど売れてなかったんですよ。フェイドアウトは当然なので、落ち着ける仕事を見つけたいって必死でした。

テレビに出られるレベルのアイドルなら、売れてたって判断で間違ってないんじゃないのかな。普通そこまで到達しないよね?

プロダクションが押してくれてたときは、ゴールデンタイムの番組にも出してもらいましたけど……ダメダメでしたね~。だって私の話、普通すぎて面白くないでしょう?

え? そういうもん? 浅倉先生は、普通に見てるだけでも良しとされたんじゃないかな?

はあ……。そんな世界だったら、どんなに優しかったでしょうね~。私、トロいですし、リアクションとかも普通だし、話も普通だし、すぐ降ろされちゃいましたよ。テヘヘでございます。

事情はよくわからないけど、厳しい世界なんだな。浅倉先生は良い意味で普通だと思うけど、その普通じゃダメなのか。
勝ち残れなかったというだけじゃなく、もともと芸能界に向いてなかったので続けるつもりもなかったですし。
芸能界を去ったことに未練とか後悔はないものなの?

ありませんよ! 殺伐とした毎日戦いの現場より、こっちのほうがずっと私に向いていて、好きですね。女の子たちに囲まれて授業するのも楽しいです。アイドルだったときは、同じ事務所に所属してる子たちとかと表では『えー、かわいー!』とか言い合ってても、裏側では『死ね』ですからね。だってプロダクションが手配した椅子を同期が押さえるということは、自分には椅子が回ってこないということですよ。相手を蹴落として、どっちが上になるかの戦いです。命を削った競争の世界なんですよ。

そりゃ女の子ってのはそういうものなんだろうけど、誇張気味に言ってるだろ。

うーん……アイドルゲームとかに夢中になってる男性に、どう伝えれば真実味がわかってもらえるんでしょうねー? 本当にですねぇ、これ、少しも大げさじゃないんですよ。自分で言うのもなんですけど、私なんてまだ素直なほうで、もう恐るべき裏腹の世界ですからね。女子も怖いし、業界も怖いし、胃に穴が開くしで、私には無理だったってことです。だいたい私が野心ギラギラに見えますかぁ?

そりゃ浅倉先生から野心なんかサッパリ感じないけど、アイドルになったって経緯はあるだろう。野心あったからこそ芸能界入りしたんじゃないの?

高校のときにですねぇ、ヤンマガの『街中で見かけたシロウト美少女企画』っていうので……あ、私が自分で『美少女』って言ってるわけじゃないですからね! これはガチな企画名です。

わかってるさ……。

それでカメラマンの人からいきなり街中で声を掛けられて、なんか写真撮られたんですよ。ヤンマガは私も愛読してたんで、『えー、私の写真載るの!?』とか思って素直に嬉しかったんですけどね。それが気づいたら一番人気だったみたいで、次の写真も載って、プロダクションから声をかけられて……周囲の方々が色々動いてくださったので、その期待にお応えしないなんて申し訳なくて、あれよあれよとデビューしてたっていいますか。

興味深い話だなぁ。せっかくの機会だからもっと聞いておきたいんだけど、浅倉先生みたいに歳相応になったら普通の職に就く元アイドルの子っているの?

そりゃあいますよ! 普通に生きてるんですから当然じゃないですか。同じ事務所に所属してて、ぜんぜん売れなくてすぐ引退した子が、最近、公務員試験に合格したって聞きましたよ。普通にサラリーマンしている子もいれば、自分でお店始める子もいるし、色々でしょう。私のケースなんてぜんぜん珍しくありませんし、別に私がこの高校で教師をしているからって、それがニュースになったりするわけでもないですよね。誰もそんな日常に関心持ちませんよ。

初めて感覚がわかった気がする。特別なものでもないんだな。当たり前なんだろうけど、当事者たちから直接こうして聞いてみると新しい発見があるよ。

私、もし将来結婚とかする機会があるとしたら、お相手の方は普通のサラリーマンや公務員の方でいいと思ってますし、堅実に生きたいんですよねぇ。本質的に地味なんだと思うんですよ。子供のころはどっちかというと根暗なオタクで、ずーっと家で漫画や小説ばっか読んでましたね。これはもう性格としか。

業界の話は色々面白いし参考になるんだけど、たしかに浅倉先生の話を聞いていると、俺たちがアイドル学部を立ち上げてどうにかなるものじゃないって感じにもなってくるな。ぜんぜん違う業界だ。

そりゃそうですよ。何度もお伝えしたじゃないですか。
でも、任された仕事らしい。
そうみたいですね~。
じゃあ、アイドル学部を作るにはどうすればいいんだ?
まず人が必要です。そのアイドル学部ってところに所属してくれる女子がいなくては始まりませんよね。
当たり前だな。
当たり前のことをやりましょうよ。

校長の話によれば、既存の普通科や理数科の生徒たちを、ただアイドル学部に転籍させればいいというだけの話だったよな? それ以外の詳しいことは何も決まっていない。随時校長と相談しながら、臨機応変に進めてくれという話だ。

そりゃあ何も存在していない学部なんですから、臨機応変にするしかないですよね~。
すごいどうでもいいことだけど、なぜ『学部』なんだ? 『科』じゃないのか。
たぶんアイドル科より響きがいいからじゃないでしょうか。知りませんけど。

校長は宣伝コピーとかをいつも気にするタイプだから、そんなところなんだろうな。ともかく、最初は人集めから始めろということか。

そのようです。ファイトですよ、宗形センセ!
あ、あれ……? なんか俺だけがやるべき流れになってね……?

 どうやら自分の仕事は、アイドルを探すことらしかった。果たして探して見つかるのか謎だが、末端の社畜として、校長からの命令を無視するわけにはいかない。

 ただ、誰にでも声を掛ければ良いという話でもないだろう。アイドルとして通用しそうな子であることは必要だ。しかも学部の存在もないし生徒も誰も所属していない状態なのだから、学校外の女子に声を掛けたとしても信じてもらうこと自体が難しいだろう。まずは学内でアイドルを獲得し、存在を作ることが出発点ではないだろうか。

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