いつかのLip service

6:無敵のウインクは俺に効かない

エピソードの総文字数=1,765文字

そして、俺があいつと初めて出会ったあの講義の時間。

時間ギリギリに入ると、すでにみずきは居た。この前の女子……ゆかとか言っていたビッチ女と何か喋っていた。

あいつは俺に気づいたようだったが、俺はこういう女が苦手なタイプなので、避けつつ目線を合わせないよう、静かに空いている座席に座る。

……ゆかちゃん、ちょっとごめんね
えっ、なんでなんでー?!
と言いつつ、奴は教室の端の方に陣取った俺のほうへ向かって近づいてきた……

そしてそのまま俺の隣に座る。

……おい、なぜ俺の隣に座るんだ。お前の彼女に睨まれているんだが。
え? 彼女じゃないって言ったじゃん。ふつうの、そういうお友達。
そういうお友達にふつうは付かないと思うぞ……
それよりさ、なんでアイコンタクト送ってたのに無視するかなあ、気づいてたよね。
アイコンタクト? さっきのきもいウインクのことか?
は? きもくねーし、女の子コロッと落ちる無敵のウインクなんですけどー
ふっ……
うっわ、今鼻で笑っただろ? ムカつくー。信じてねーし。
隣でこいつは唇を尖らせて拗ねていた。

形のいい艶やかな唇。こまめにリップでも塗っているのか、少しも荒れていない。それに、ほんのりピンクだ。……見ているとドキドキしてきた。男なのに。


ウインクの件も、女子をコロッとさせるのは容易いだろう。

俺はほんとにきもいと思ったたが。

あ、先生きた。じゃあ寝るから、終わったら起こしてね。
おい、真面目に……って、寝るのはや……
寝ると言って机に伏すと、もう寝てしまった。

仕方がないので、回って来た出席用名簿にこいつの分の名前も書いて次へ回した。

こうして誰かと講義を受けるのは初めてだ。隣にいるだけだが、何故か安心する。


パーソナルスペースが狭い俺はこれだけの至近距離に人がいると不快感を示していた。しかし、今はそれを感じない。俺はもうこいつに心を許しているのだろう。

しかし、懸念しなければならないのはゆかという女――奴は、俺の方を鋭い視線で睨んでいる。

みずきのことを取られるとでも思っているのだろうか……俺はそういう趣味はないというのに。俺は度々注がれるそいつの視線を受けつつ講義へと集中した。

今日も、この講義は変わりなく騒々しい。

キンコンカンコーーーン
お、終わった
チャイムが鳴ったらピッタリ起きるんだな……
まあね。よしっ! 先生にこの前買ったリップ渡しに行こーっと!
本当に渡しに行くのか……まあいい、行ってこい
俺は何も関係がないので、傍観していることにした。

みずきは、ショップの袋を持って、講義終わりの講師のところに駆け寄って行く。

さっき寝ていたのに、その勇気はすごい。

せーんせ♡♡
どうかしたの? 分からないところでもあった?
いいえ、それはもうとっても分かりやすくって、バッチリですよ。そうじゃなくて、せんせは今日もバッチリメイクしてるのに、リップだけもったいないなあと思って
あ、ああ……朝つけてくるのだけどこの時間には取れちゃうのよね。だから、いつも買おう買おうと思うのだけれどつい忘れちゃってて……エチケット的にもマナー悪いわよね。
いえいえ、せんせはそのままでも充分綺麗なのでみんな全然気にならないと思います。で、買うのを忘れちゃうせんせに丁度いい差し入れです。使ってもっと綺麗になって欲しいなーっていう感じで……リップですっ!
え……これ、かわいい!
ふふっ、そうでしょうそうでしょう? しかも、ティントなので朝つけても取れないしうるうるつやつやです! 色は使いやすくて華やかなピンクにしてみました。お似合いになると思います。
25でピンクだなんて……似合うのかしら?

何言ってるんですか、25歳なんてまだまだお若いです! 俺とたった5歳しか変わらないし、四捨五入しても20歳です!

5で切り上げだから四捨五入したら30なのだけど……
あ、あははーそうでしたっけ。まあ、とにかく、俺が先生に似合うだろうなって思って選んだので、受け取ってください! ねっ?
あ、ありがとう……お気持ちに甘えて受け取っておくわ
はいっ! 次から絶対付けてきてくださいね?
うん……
おいおい、授業時間外とは言え、生徒に「うん」だなんて使ってしまっては講師の面目がないぞ。そして、俺には分かる。この25歳女講師は、確実に落ちたな……と。

その様子をゆかが恨めしそうに見つめていた。

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