勇者の武器屋

第十三話 魔王の理想と勇者の理想

エピソードの総文字数=3,097文字

……フフフ、いいだろう。

貴様の条件を呑み、新たに1000万G貸してやる。ただし1年後には、必ず5000万Gにして返済してもらおう。

あっ、ありがとうございます!

貴様にとって、なんという愚かしい取引なのだ。もはや狂っているとしかいえない次元であろう。これだから人間の浅知恵には恐れ入る……。

だが逆に私から見れば、この取引にはメリットしかないぞ。受けないわけがない。

本当は今日、魔王さんにお会いするのはなんだか怖くて足が震えちゃって、緊張でいっぱいだったんです。

でも、勇気を振り絞ってここに足を運んだ甲斐がありました!

それで勇者を使役して稼ぎ、さらなる魔境銀行の飛躍に繋がるのならば安いものだ。私の理想社会の実現にさらに近づくことになろう。

魔王さんの……理想社会の実現……?

世界の滅亡じゃないんですか?

愚かなり勇者よ、世界を滅亡させて私にいったいどんな利益があるというのだ。

フッ、世界の滅亡など、まさしく愚鈍な庶民が考えそうな恥ずかしいお伽噺だな。私は合理主義者だぞ。儲からなくては意味がない。

たしかに考えてみれば……世界を滅亡させてしまうと、魔王さんの今の地位も消え去ってしまうわけですよね……。そしたらいったい何のために魔王さんが戦っていたのかわからないわけで……。

……じゃあ、魔王さんの目的って何なのですか?

私には理想がある。力と資本で魔界・天界・人間界のすべてをくまなく支配する新しい世界システムを創造するのだというな。

この世すべてを一つの法、一つの政府、一つの金融秩序によって結びつけるグローバルシステムだ。そのためにも私の魔境銀行は国境を越え、魔界や天界や人間界などというちっぽけな枠組みすら乗り越え、この星の歴史に新たな時代を打ち立ててみせよう。

一つの法、一つの政府、一つの金融秩序……?

それって良いことなんですか……?

私は素晴らしいことをしようとしている。

だが王や特権階級の者どもは、自らの地位が脅かされるような新しい世界の実現を何としても防ごうとするだろう。まんまと王の思惑にハメられた頭の悪い庶民どもまでが私に悪のレッテルを貼り付け、王に騙されたドジな貴様や、あの憎き女僧侶が我が魔界の兵を次々と打ち払っていった。

……え?

じゃあ本当に陰謀を企んでいたのは王さまのほうで、魔王さんは……? なんだか混乱してきました……。

私は世界でも十指に入るほどの資本家であるが、同時に、新しい秩序を実現させようとする革命家なのだ。

貴様とは違うのだよ貴様とは。頭の悪い愚民どもを統制することで、世界にくまなく資本が行き交い、一つの権力が君臨する真に新しい未来を打ち立ててみせよう。

だけどそもそも、魔王さんが言うそんな世界が本当に良いものなのかどうかも、私にはわかりません……。私なんかよりずっと頭の良い魔王さんだから、もしかしたら凄いお話をしているのかもしれません。

……だけどやっぱり、魔王さんが言う一つの権力っていうのが良いことのように簡単には思えないんです。たった一つの権力に監視されて暮らすって息苦しくないですか? それに私たちが大事にしている故郷や、民族とか、国の文化みたいなものを、魔王さんは壊してしまうのではないですか? 世界は混乱するような気もします……。

これだから話の通じない勇者には畏れ入る。未来への理想に歩み出す以上、その途上で世界が混乱して何が悪い? 貴様が語る故郷や民族や国など幻想の産物だ。そんなものはぶち壊してしまえ。

愚民どもを統制する統治機構は一つであるべきだ。逆らう民は武力で弾圧し、ときには金の力で従わせ、我が支配下に組み入れる。私の統治の下で世界に争いはなくなり、経済的な豊かさも享受できるようになるに違いない。それが民衆にとっての幸せだろう。

無理やり押しつける幸せだと思います。

人間界だけでもさまざまな民族が暮らしていますし、経済の発展度合いも、考え方も違う人たちばかりです。豊かさよりも、のんびりした暮らしを好む民族だっているんです。そういった人々を無理に一緒にしようとしても、逆に憎しみが増していくだけに違いないんです。ましてや魔界や人間界や天界なんてぜんぜん違ってて、せっかく長い戦いの歴史を経て分かれてきたのに、また同じような混沌がもたらされてしまうと思うんです。
魔王さんは、自分の銀行を使って儲ける舞台を広げたいから、世界を統一しようとしているんじゃないですか……?

私の崇高な理想を解しないとは、愚昧な勇者であることよ。理想の実現のためならば、ときには親兄弟であろうとも断頭台に送らねばならないこととてあろう。混沌がもたらされようが構わぬ。貴様のような悪辣で無慈悲なヒットマンを王が幾人も送り込んでこようとも、私は革命家としての矜持を全うしてみせるつもりだ。

私はヒットマンなんかじゃありません!

パーティーメンバーとも話し合って、法律に従って市民生活を送る魔王さんのことを、街中で襲ったりするのは良くないっていう結論になったんです!

どう言い訳しようが、貴様は私にとって、タチの悪いヒットマンであることに変わりはない。しかも単なる王の駒にすぎない末端の賊兵。いずれ後世、勇者とは、世界平和を阻もうと企む邪悪極まるテロリストだったと語り継がれることになると断言しておいてやる。

魔王さんには魔王さんの理想があるって仰いますけど、私を騙して大借金を背負わせてきたことは事実です。そんなことをする魔王さんの理想が素晴らしいものだなんて、やっぱり思うことはできません!

しょせん私と貴様は相容れない存在ということか。いずれ思想的にも雌雄を決することになるだろう。それまでせいぜい手駒として利用し、我が行の発展の礎になってもらうこととしよう。

魔王さんが私を利用するというのなら、私も魔王さんを利用させてもらいます。約束通り、武器屋『ドリームアームズ』への1000万Gの貸付を、どうかお願いします。

私は金に関する約束は必ず守る。それがゆえ、取引相手にも絶対に約束を果たさせてきた。我が行が貸し付けてやる金は、たとえどのようなことがあっても、1年後きっちり5000万Gにして回収させてもらうぞ。

今の私にとって、魔王さんはとても追いつけないほど雲の上の存在です。でもきっと立派に『ドリームアームズ』を育て上げ、魔王さんに挑戦させてもらいます。そのときこそ、魔王さんの理想を打倒するときだって思います!

フフフ、たかが武器屋風情が、世界を股に掛ける大銀行に勝てると思う発想がもう完全に間違っている。コツコツ実業を育て上げるのと、マネーゲームで短期勝負を挑むのとではまるで違うのだといずれ身に染みて知ることになるだろう。

私は勝ちます。

たとえ魔王さんに騙されて押しつけられたお店でも、私のお店には違いありません。

この俺とて、コツコツ立身出世を為し遂げてきた身。血反吐を吐くような思いをしながら魔境銀行をここまで育て上げてきたのだ。俺を倒したくば、その地獄の釜の底からのし上がってみせろ!

私は勇者であることも受け入れ訓練を重ねてきました。この武器屋との出会いも一つの運命だと受け入れ、懸命に経営努力をしていきたいと思います。

魔王さんはきっと、私に『ドリームアームズ』を渡してしまったことを、深く後悔することになると宣言しておきます!

底辺の虫ケラの強がりを見るのはなかなか面白い。ビジネスならば、いつでも会ってやる。大事なことはただ一つ、この私が儲かるかどうかだ。

1000万Gは持っていけ。その代わり、1年後に5000万Gを返済しなければ、きっちり勇者の心臓をもらい受けることとしよう。

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