地球革命アイドル学部

臨むは革命的一戦(2)

エピソードの総文字数=2,966文字

 俺は一華を促して、校長室へと出向いていた。一華にはまだ3人を獲得したことは伝えていない。まずは校長の許可を得ることが重要だったし、それに一華には同時に情報共有すればいいと思ったのである。

 俺と一華が校長室に入ると、なぜか校長は察したとでも言わんばかりに、無言でゆっくりと立ち上がった。そして挨拶もなしで一華を鋭く見据え、妙にアメリカ人じみた巻き舌で、やたら重々しく切り出してくる。

ビックバーン?

 怯えた表情の一華は、助けを求めるように俺に視線を向けてくる。

ビ、ビックバーン……?

 相変わらずたらいを回せない俺は、今回ばかりは力強く一歩進み出て口にする。

イエス、ビッグバン。実は、アイドル学部への転籍に3人の生徒が同意してくれました。
ほう! そうであろう、アイドルになりたくないわけがないのだ。
まずは最上の成果をご報告いたします。我が校でもひときわ目をひく美女である、生徒会長の桜丈菜月です。
……えっ? あのシニカルな桜丈さんが?

素晴らしい! いいぞ、桜丈菜月ならアイドル学部にとって最高の勝ち筋だ。これは勝った。アイドル学部のコンセプトをゼロから組み上げた私が主にすごい。

校長先生……桜丈さんはたしかにとっても綺麗な子ですけど、それだけでアイドルで成功するなんて全然ありえないことですよ……? ようやく道のりが1%になったくらいです。

クフフフフフ……我が野望に近づきつつあるようだ……。

 危機回避のための懸命な努力だったはずの一手が、校長のなかでは野望に変っているらしかった。もしくは菜月の名前を聞いた瞬間に変わってしまったのかもしれない。

 持ち掛けるなら、校長がおごり高ぶっている今がベストだ。意を決し、俺は本題を一気に切り出す。

それから、これは校長が受け入れてくれるかどうかなんですが……もう2人の生徒は九道姉妹です。

のっおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! なぜだ!?

 たちまち校長は青ざめ、絶望感に打ちひしがれた。天上から地獄へ真っ逆さまとでも言わんばかりの、リアクションの変わりようがすごい。

 校長の絶望など意に介さず、さらに俺は切り込んでいく。

校長、ご決断ください。九道姉妹はきっと、役目を立派に果たすはずです。

宗形先生、本当の本当に九道姉妹が同意してくれたんですか? あの武道一辺倒の子たちが?
ああ、2人はすごく堅い決意を持っている。

すごい! あの子たちなら色んな意味で普通じゃないですし、決して可能性ゼロじゃありませんよ。プロダクションが血眼になって日本中探したって、あんな子たちが見つかるはずもありませんし。オンリーワン姉妹なので、少しは戦える余地があるかもです!

あ、ありえん、戦略が根本的に崩れるぞ。宗形くんは私の敵か? どこが送り込んできた刺客だ!?

校長、落ち着いてください。たしかに九道姉妹によって高校の評判はガタ落ちですから、気持ちはわからないでもありません。しかしある意味で九道姉妹……とくに姉の九道円香くんのほうは若手女子武道家としてすでに一部で名前が知られている存在となっています。これを活かさない手はないですよ。

バカなッ!? これ以上に九道円香を活かせば、我が校は滅亡するッ!!

若手女子武道家なんて、もうそれだけで面白いのに、あんなに可愛い子たちなんです。しかも武道なんて全然想像できないほど華奢でほっそりしていますよね。これは私たちが思う以上にすごいコンテンツに化けるかもしれませんよ。

ほわっと? 浅倉くんまで何を言うんだ? 2人して私を自殺に追い込むつもりなのか!? 死んでやる! いいか、私は死んでやるからなッ! 明日の朝来たら校長室に来てみろ! あの世で呪ってやるーーーーーッ!

 明日の朝まで待つのも面白いような気がしたが、俺が殺したみたいに遺書に書かれると後々面倒くさい。とくに校長なら本当に化けて出てきそうである。

校長、発想を根本的に変えてみていただけませんか。九道姉妹をアイドルとして起用してみようという視点は、この際忘れてください。そっちじゃないんです。

そっちじゃない? どっちだというのだ!?

これは策略です。九道姉妹をアイドル学部に専念させてしまうことで、九道姉妹しか在籍していない空手部を廃部してしまおうという壮大な陰謀なんですよ!

なっ、何ぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいい!?

ぼくは校長を救いたい。いや違う、この優れた策謀は、校長自らが編み出した大戦略なんです! 主に校長がすごい!

ほ、本当に空手部は廃部になるというのか?

なります、いやこれも違う、空手部は九道姉妹のアピールポイントとして形式だけ残していいんじゃないかと思いますが、今年のインターハイに出場しなければいいんです。アイドル活動に専念させてしまえばいいんですよ!

 俺も考えながら話しているのだ。途中で言葉を変えたりしてしまうのは仕方ない。とくかく今の第一は、口から出まかせだろうが、その場の勢いだろうが、次々と畳みかけ、一息で校長を押し切ることだった。この一手に尽きる。

インターハイへの出場を本当に断念してくれるというのか!? 高校側から言うと角が立つ。九道姉妹への期待を勝手に寄せている武道業界も怒るはずだ。あくまで当人たちが自ら断念してくれねばならぬのだぞ?

大丈夫です、そのためにも今すぐ九道姉妹をアイドル学部に転籍させてしまいましょう。急がないと手遅れになります。高校を救うために、そして校長が自ら編み出したこの優れた策謀で高校を大きく飛躍させるために、浅倉先生やぼくが微力ながら協力させていただきます。そうですよね、浅倉先生?

 俺は咄嗟に一華に話を振った。勢いに乗じての援軍要請である。

 一瞬ボヤっとした表情をした一華だったが、すぐに大きくうなずく。

えっ? ……そ、そうです! すごい策略です、思わず惚れてしまいそうな感じです!
マキャベリの『君主論』に対抗し、『校長論』を出版しましょう。校長の名を世界史に轟かせるべきです。
極悪なブラックホールを打ち払うための驚異的な打開策を、いつの間にか私が編み出していた……?

 茫然とした表情の校長は、素朴な眼差しを俺に向けてきた。

校長こそが宇宙です。

 キリリと俺は断言した。

 もはや自分の言葉が意味不明である。ノイローゼに陥る校長には、とにかく圧倒的ポジティブなノリで押し込めばいいのだ。

……そうか、そうだったのか……宇宙の真理が垣間見えた気がするぞ……!
物理学上の大発見です。アインシュタイン越えは確実……!
よっ、大宇宙の真理!

 普段の穏やかな一華らしくなく、合いの手を入れる形で悪ノリしてきた。ここは俺に乗ったほうがいいと判断してくれたに違いない。

 校長の目には光が宿る。

おそらく私は勝手に悟りを開いていたのだ……!
映画化決定!? むしろ高校で制作費を出して校長映画を創りましょう!
ブッダ校長に確認させていただきます。九道姉妹のアイドル学部転籍、進めてよろしいですか?
なぜ転籍を急がないのだ!? 事は一刻を争うのだぞ! 我が電撃戦のとき来たれり!

 校長は意気揚々と叫んだ。すっかり気力を取り戻してくれたらしい。

 高校と九道姉妹の間を取り持つことになんとか成功した俺は、一人盛り上がり始める校長を見やりながら、内心ホッと肩をなでおろしていた。

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