黄昏のクレイドリア

18-5

エピソードの総文字数=1,148文字

…………、

役目を終えたというように、

手に持った斧を地面へ突き立て、

ディーンは一つ息を吐く。

今しがた、自身の手で砕いたばかりの

碑石の残骸を見下ろしていた。

!! 

おい、ディーン!

あれ!!

セシルが指さした上空を見ると、

空にヒビがはいっていた。

枝葉の如く広がる亀裂は、

それが球状に張り巡っていたことを示していた。

これでよかったんだよな、

フランツさん。

あぁ。これでいい。

向き直って視線を送るディーンへ、

フランツは空を眺めたまま

言葉を返した。

この碑石は、俺たちが

生きていた時には存在しなかった。


さしずめ……、侵略してきた

魔術師たちが打ちこんだ、

"楔"といったところか。

…………。

結界魔術は、核となる石が

必ず存在する。

とはいえ……まさか俺の記憶を、

空間ごと展開していたとはな。

我ながら、大したことをしでかしたものだ。

……迷惑をかけたな。

フランツの手の甲へ大きな亀裂が走る。

そこを起点に、ぼろぼろと形が崩れていく。

いまだ原型を保った左手で、

首に下げたペンダントを握りしめた。

コイツが何処に行ったのかは、

思い出せなかったな……。

言葉を最後に、彼の破片は音もなく崩れる。

程なく風に運ばれ、見えなくなった。






……雨、止んだな

どちらかというと、

嵐が去った、じゃないか?

嵐…………

やべっ!!

カノンたちはどうなった?!

茂みから広場を目視し

二人の人影を捉えると、

一目散に駆け出して行った。




----------



…………。

ちょっと!

しっかりして、イーリアス!!

えっ、なんでコイツのびてんの?

あたしの剣を避けたときに、

そのまま頭から倒れて……

まぁまぁ、ひとまず落ち着いて。

刺激を与えないようにしないと。

そ、そうね。

イーリアスを横たえさせると、

深呼吸をして空を仰ぐ。

そこには遺跡を探索する以前に広がっていた

雲ひとつない空が、カノンの瞳に映っていた。

(雨なんて、元から降って

 いなかったのかもしれない、か)


(それでも……、

 彼らから伝わってきた

 憎しみや悲しみは、

 無かったことにはできない)

…………。

あたしたちは、此処に居た……

村人たちの悪夢を見ていたのかしら。

さぁな。

幽霊に化かされてたなんて、

今でも全然現実味ねぇし――

そうか……!

確信を得たように言葉を漏らした

ディーンへ、二人は視線を向ける。

俺は最初、カノンに

ここら一帯で村や人里は

見たことがないと言っただろう?

それは今でも変わらない。


でも…………

"石ころ"ならあったんだ。

子供が遊びに使うつもりで、

無造作に集められたような……石が。

…………。

誰に言われるでもなく、

3人は木々に囲まれた更地を見渡す。


遭遇することのなかった村人も含め、

転がった石の数は、かつて此処で暮らしていた

人々を思わせるものだった。

……帰りましょう。

かつて、

あったかもしれない悲劇を、

フィリカに伝えるためにも。

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