フェンリル娘と始める異世界生活

13話:Dランクフィールド

エピソードの総文字数=5,633文字

はあっ!!
せいっ!
うりゃああ!
(コンビネーションがうまい……!)


シューマは臨時パーティを組んだエディ、ブラームス、クラークとともに、おおねずみの生息地の奥そこまで来ていた。ここの方がネズミを探す手間が省けるらしい。

確かに奥から奥からどんどん大きなネズミが湧いてくる。

じゅううううううう!
ぎいいいいいいいいいいい!
せいやっ!
ずばっという音とともにシューマの剣が大きなネズミを切り裂く。

3人が居るおかげで、周りに目が届きやすく、奇襲の心配が少なくなる。

その安心感は安定した討伐に繋がり、結果、一人での狩りより効果的になっている。


(でも、僕がいなくても一緒だったんじゃあ……?)
一応、シューマも大鼠を狩っているが、三人の狩るスピードと比べたら確実に三分の一も狩れていない。


もしかして、僕は今の状況でいうと足手まとい……?
つよくなれ~。つよくなれ~。
小声で、自身の「スペクトル現象」を引き起こそうと力を込めるが、一向に、変化したところがない。

前見た靄のようなものが見えてこない。

(あれっできないぞ!? なんでっ?)


自分にはできる……。
試しに自分にだけかけてみたが、ガラムさんに教わった時のように抵抗なくするりとスペクトル能力が使えた。力が沸いてきた。

自分から暖色の靄がもやもやし始める。

もう一度、三人にスペクトル能力をかけようとした。

イメージを変えてみる。

ふわっと、全体を俯瞰する感じではなく、指向性をもったイメージの槍を突き刺すような。

細長い線を伸ばしていくイメージ。例の王の蟲の触手のように。手の先からにょろにょろと。

そしてイメージの触手が、三人に近づこうとした瞬間、触手が何かにぶつかるように、止まるのを感じられた。触手を上下、左右にスライドさせる。

つるつる滑り、平面がそこにあるのに気がついた。

見えない壁があるようだ。

(どうしてだろう。ガラムさんとか騎士さんには普通にかけられたのに、この人たちには無理。それとも今が無理なだけで、もう少ししたらいけるようになるのかな。)
(なんて言うんだろう。まだ踏み込めない……?そんな感じがする)
それから半日が経った。
半日ものあいだシューマは三人のEランク上位の3人と同行して狩っていったので、一人の時と比べて、大分大鼠を狩ることができた。

三人は効率的にねずみを見つける方法、効率的に追いこむ方法に熟知しており、シューマに沢山の新しい経験を積ませてくれた。

倒したねずみのその1割が皮の切れ端を残して霧散したり、歯を残して霧散したりした。

臨時収入になるらしく、とって背負ってきていたもの持ちかばんに入れておいた。

体は霧散しようとも切った時にかかった血は何故か霧散されず、どす黒いシミになった。

今のシューマの服装は朝綺麗だったのに、下水と血でどろどろだった。

(ひいいい。帰ったらお風呂入ろう。つかろう。絶対そうしよう。)
ねずみくらいだったら闘技を使わなくていいから楽でいいな。
楽は楽だが技の鍛錬にならねぇよ。

明らかにオーバーキルだから必要ないとは言えな。

ここはFランクフィールドなんだから楽に狩れて当たり前なんだな。

Eランクフィールドに行くのはどうなんだな?

今回の鼠狩りはFフィールド限定だろう?Eランクフィールドに行っても、基本給は変わらないし、ねずみの上位種を狩っても協会は全額だしてくれないだろう。

鍛錬だけで行くのはさすがにな。

何言ってんだよ。今回はシューマと知り合いになっただけで収穫さ。

なあ、そうだろ兄弟。

僕もあなたたち3人とあえてよかったと思います。

(兄弟……!?兄弟ってなにっ!? いつの間にそんなに親密な関係に……!? 驚きのぐいぐいかげんだなー!)

そんなに硬くならなくていいんだな。

別にFランク同士格なんて違わない違わない。

礼儀は必要だけど、ある程度の柔らかさも必要さ。

そういえばシューマの歳を聞いてなかったんだな。

おいらは27歳、エディは28歳、クラークは26歳。

見た目からすると20歳弱ってところかい?

20位ですね。(精神年齢は30です)
若いってのはそれだけでいいものさ。

俺たちはFランクのままだいぶ歳を食っちまったけど、まだ上に上がることを諦めてない。

まだまだ若いのには負けてられないぞ。

元のシューマとあんまり歳は変わらないと思っていたが、幾分か年下だった。

3人はFランク上位。

実際のこの世界にとっては28歳でFランクというのは遅咲きもしていない状態なんだろうか。

おいらたち、大分奥に来たんだな。

……雰囲気が違う……。もしかしたらここはEかもしくはDランクフィールドに近い場所らしいかもなんだな。

近づいたら危ない。

折り返すしかないんだな。

しばらく散策し、ねずみを狩りながら進んでいく。

シューマも慣れたものだ。

戦闘のあいまのちょっとした時間に、ふと壁に掛けられた案内板のようなものを眺めたブラームスは表情を引き締め、3人に伝えた。

その案内板はもう使い古されており、文字がつぶれ読めなくなっていた。

Dランクフィールド……?聞いた感じだと上位ようの狩り場ですか?
そうなんだな。

おいらたちFランクが入ろうと思っても、設置された結界が協会証と反応して警告されて記録されるはずなんだな。

でも禁止はされているけど、違法ではないんだな。警告を無視して上のクラスに命がけの力だめしをする奴もいるくらいだ。

たぶんきっつい注意くらいはされるだろうけど、協会証はく奪にはならないよ。

でも俺達が行ってどうにかなるところじゃない。それだけはたしかだ。
ん!?誰かあそこに倒れているぞ!
すると。
おおおぉぉぉぉい!!

助けてくださあああい!

ちょっとした空間が広がっており、そこに疲労困憊といった男二人が横たわっていた。
どうしたんですかっ!

大丈夫ですかっ!

あの人たち助けを求めている!

シューマもガラムに助けられた身。助けることができるなら助けたいのが心情だった。
けが人かっ!
ただのねずみにしたら怪我がでかいんだな。

もしかしてDランクからねずみの上位種が出てきたとか言わないんだな……?

いえ、僕たちは大丈夫です!

ですが、この先から女の子の悲鳴が聞こえてきて、仲間の二人があそこの先に入っていってしまったんです……!僕らも追いかけましたが、いつもと違うねずみに襲われましてすぐに逃げ帰ってきたんです!殺されることはありませんでしたが残りの二人が心配で!

むこうは危険なフィールドかもしれないんだぞっ!結界があったなら警告はされただろう!? あんたらもFランクそうだから入っても何もできないって分かるはずだ。なんでそんな無謀なことをしたっ!
あれ。何か、灯篭のようなものがぼきぼきに壊されている跡があるね
小結界が壊れてる!?

あれはFランクフィールドと上位フィールドを分離する結界の要石なんだな。あれも魔物が間違って壊さない様に魔物用結界で守られているはず。

しかもあの規模の小結界はDランクフィールドのものだ!

何故、あんなことに。

人間が壊したのならそれこそ意味が分からない。ただの利敵行為だ。

あれを壊した人間は協会に厳しく罰せられる。

協会証はく奪くらいじゃあ許されない。

放火犯と同じくらいの罪状だったはずなんだな。死刑は無いが、死ぬまで牢屋はありうる……。

意味のない破壊行為で無期懲役なんてバカのすることなんだな。

えっ……
えっ……
大丈夫ですかっ!顔真っ青ですよ!

安心してください!僕たちが助けに行きます!

(カチカチカチカチ)

た、助けにいってくださいっ!後でお礼は必ずしますからっ!

お、お願いしますっ!(カチカチカチ)
二人は歯の根が合わないようだ。

早く、安心させてあげよう。

仲間想いのいい奴らじゃねえか。

しかし、その二人いくら小結界が壊れててDランクフィールドに突っ込めたのはいいが、二人だけで行ったのはいただけねえな。

残りの二人もFランクだったんだろう?

それで、僕たちが行って、何とかなるところなの!?そのDランクフィールドは!?
正直キツイとしか言いようがないんだな。

おいらたちはFランク上位。

クリアしたことのある依頼もEランク上位がぎりぎりだったんだな。

Dは一度も挑戦したことがない……。

早い話がFランクがDランクの魔物とやりあうなんて、硬すぎて攻撃は通らないわ、相手の攻撃はかすっただけで四肢欠損するわの大惨事だぞ。

少しの気も抜けない。数ミル(約数ミリメートル)の誤差があっただけで死ぬ。

そんな世界だ。

もし、俺達の格が上がれば、相手の攻撃を裸で耐えることもできるだろうけどな。

でも今は無理だ。俺達は所詮Fランクなんだ。

……声が聞こえたのなら近いはずだ。少しだけ探しに行くことはできるはずだぜ。
シューマはここで、自分の能力を使わないでいつ使うのだと自分の能力に神経を集中させた。
はあああああああああああああ!!

『いけるいける!僕たちならDランクなんて楽勝楽勝!相手よりも僕たちの方が速いし硬いし、強いよ!全然大丈夫!!』

大丈夫のイメージを爆発的に膨らませる。

全然敵の攻撃なんて痛くないし、こっちの攻撃はずばずば当たる。

よけようと思ったら全く当たらない。それだけ僕たちの反射神経が上がっているから。

根拠のないイメージだが、強固であれば、現実を浸食しうる能力だとシューマは直感していた。

シューマから放射される矢印らしきものが、ABC3兄弟と男たち二人に突き刺さろうとする。

すると、3人にはすっと抵抗なく突き刺させることができた。前よりよくなってる。

そして、二人の男の方には3兄弟の比じゃないくらい分厚い曇りガラス(あまり見えない)に思いっきりはじき返された。

うわあ!?
驚くシューマだったが、考えている時間は無い。

三人に大声で叫んだ。


今、ガラムさんにお墨付きをもらってるスペクトル能力を使いましたっ!

これでいけそうにないですかっ!?


ーー!? なんなんだなこれ……!? 力が、力が沸いてくるんだな……

スペクトル……?

ーーもしかしてシューマは能力持ちなんだな!!?

ほんとになんなんだな……これ!おいらががじぶんで分かるほど力強くなってるのを感じる!?槍が軽い。全然感覚が違う。すごくはっきりしてる……!

この感覚は内側から感じられる……。

……もしこれがシューマがやったんなら、他人の内側から干渉するなんてそう簡単じゃないはずなんだなっ!

個人にも個人領域「パーソナルスペース」が存在する。魔術はそのパーソナルスペースを越えて攻撃するコストを避けて、物理現象の攻撃方法が主流のはず。

二大体系の一つが避けて通った道をシューマは簡単に破ったんだな。

行ける!行けるぞ!

いまの俺は人生で一番強い!!筋肉の張りが教えてくれている!

こんなときに何もしないなんてありえないぞ!

このままDランクでもなんでもやってやろうぜ!

俺たちならいける!

俺達はFランクの向こう側へ行けるぞ!

行こうっ!!
三兄弟とシューマは強化されたその勢いでDランクフィールドに突入した。
四人は壊された小結界の脇を抜け、狭くなったトンネルのつなぎ目を通り抜けた。

空気が変わる。ここがDランクフィールド……!

くくく、くそおおお!ただむかついたからぶっこわしてやってはめるつもりだってのに、結界を壊したのがばれたら俺らの方が死刑宣告じゃねえか!?


小結界の境目を通った瞬間。

2人とは別の男が飛び出してきて、何やらレバーらしきものをぐいと押し込んだ。


ガラララララ!
状況を理解する前に、FとDを分ける境目に分厚い分厚い金属のシャッターが下りる。


あ゛あ゛!?
はめたのかーー!?ま、まさかそんな理由で!?
おいおいおいおい!シャレになんねえぞ!出口はここだけだろっ!?
ーーーーーーーーーーーーー。
絶句。それしかなかった。

今の現状が理解できない。

あれだけいい流れだったのに。このまま颯爽と助けにはいり、すぐに引き返すつもりだったのに。

はめられた……?

何に……?

なんで……?

どうして……?

あれは、さっき嫌な感じだって思った人だ。

僕のせい……?

いろいろ想いが渦巻いて、シューマの脳みそは過熱状態に陥り、オーバーヒート寸前なった。

ヒヒヒッ!ざまあ見やがれ!おまえらなんかねずみの餌になるのがお似合いなんだよ!

でかい顔しやがって!雑魚が!しねっ!くそっ!しねええええ!!

やけくそのように叫ぶその男に、シューマ達4人は死の領域、Dランクフィールドに閉じ込められてしまったのだ。

シャッターの向こう側から聞こえるどこか狂気を帯びたその声色に、シューマは絶句した。

何かシャッターを開けるものはと見まわして、こっち側のレバーが根元からおられているのに気付いた。

無理だ開けられない。

……Fランクは人格のるつぼって言われてるんだな。

奇人変人、それも悪い意味のみ凝縮されたような輩ばかりが澱のように沈殿されているんだな。

どんなことをやらかしてもおかしくない……。

むかついたからでこんなことをしても。

絞り出したかのように静かに話すブラームスに、シューマは怒りと悔しさを感じ取った。

あのシャッターはBランク以上の超常攻撃でもびくともしないシェルター級の硬度を持つ特別製。いくらおいらたちが攻撃しても何もならないんだな。レバーも壊されている。

みんな、本当にごめん。

おいらが気づくべきだったんだな。あやしいって。一番そういうことを考えなきゃいけないとこにいるのに、できなかったんだな。

いいって!気にするな!  疑い続けることは大変だ。

今回はやられたが、相手を信じることを忘れるよりかはいいと思うぞ。

……それにまだやられたと決まったわけじゃない。

俺達がDランクフィールドから生還したら勝ちなんだ。

シューマの能力もあるんだ。

今のおれたちならいけるぞ!いっちょやってやろうぜ!

やりましょう!
……ああっ!生きて帰るんだな!
そうときまればあいつらはもうどうでもいい。

今はどういうルートで脱出するかだ。

そうして四人はDランクフィールドの明るさが増したトンネル内を手探りで進んでいった。

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