神さまとクソゲーと説明書

五、激アツ確変で幸福点を稼ごう

エピソードの総文字数=4,253文字

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幸福点を稼ぐ方法は簡単です。
「寿命」から変換した「お金」を消費して、「美食」「アルコール」「セックス」などを入手し、消費しましょう。
気持ち良くなったり、嬉しくなったりして幸福点を入手できます。
ただし、これらをあまりに消費しすぎると、バッドステータス「不健康」となり、「寿命」が短くなりますので、注意しましょう。

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俺はそこまで書いてから、そ~~~~っと上司の顔色を伺った。

上司は俺の書いた説明書を何度か読み返してから、うん、うん、うん、と三回唸って、懐からスマホを取り出した。

「あ、ボクだけど。ウン……。例の『人生』の件ね。もはや救いようのないクソゲーであることが確定的に明らかとなったから今すぐサービスを中止して……。ああ、ウン。いつも通り、プレイヤーには七つのラッパでアナウンスを……」

「ちょぉおおおお!!!」

俺は慌てて上司の手からスマホを奪い取って地面に叩き付け足で踏み砕いた!

あ、危ないところだった……。
と、突然、何を言い出しやがる、このクソ上司め!

「キ、キミねえ……」

あっ! やっべ……。

クソが半ギレだ。
俺は慌てて、クソのスマホを拾い上げて、へけけ!と笑いながら差し出した。

「す、す、すいません。手と足が同時に滑っちゃいまして。へけけ! ……け、けど、急になんであんなことを言いだしたんで……」

「いや、だって、キミねえ……」

ベキバキに画面の割れたスマホを受け取りながら、上司がこめかみに青筋を浮かべて言った。

「ボクも昔、プレイしてみてさあ。酒も美食もセックスも浴びるほどやったけど、全然楽しくなかったよ? すぐ飽きちゃったし、虚しくなったよ?」

あっ……!


しまった、そうだった!!
このクソ上司は三千年前にプレイした際、あるまじきことに初期ボーナスをいじって、知力ステをMAXにした上で王族として生まれて贅沢三昧しやがったんだ。
その上、いちプレイヤーのフリして、「何やっても虚しいしクソゲーだと思います」とかいう苦情を俺に送ってきやがったんだった!

「あんなのがこのゲームの醍醐味だって言うならさあ……紛うことなきクソゲーだからサービス中止は必然……ていうか、クソゲーオブザイヤーの勢い……我が社の恥……いっそキミもクビに……天界追放……堕天……」

「ちょ! ちょ! ちょ! ちょっと待って下さい! も、もぉ~、やだなあ、早とちりですよ~? 幸福点の稼ぎ方は大きく分けて三つあってですね。さっきのはその一つに過ぎないっていうか、あはははは」

「なんだい、まだ続きがあったのかね。なら、早く続きを書き給えよ、キミィ~」

「あっ、は、ハイ! そりゃもう、今すぐ……」

ぐ、ぐわ~~~~っ!?


か、書くしかないのか?
できれば誤魔化してこのまま終わらせたかったのに。

えっ、てか、マジでこれ書かなきゃいけないの?
このゲームのいちばん大事なところなのに?
えっ、ええええ~。芸人が自分のネタを解説するような辛さがある……。

俺は震える手でタイピングを始めた。

マジか。マジでこれ書かにゃならんのか……。

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他にも幸福点を稼ぐ方法があります。
習得したスキルを使用するごとに幸福点を獲得できます。

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俺はチラっと背後の様子を窺った。

上司は腕組みしたまま画面を見つめながら、「ほーう」などと感心したような呟きを漏らしていた。
……ちょっとホッとした。何か通じるところがあったと見える。

そうなのだ。「人生」のようなキャラクター成長型のゲームで何が一番重要かって、リソースを消費して習得したスキルがちゃんと役立つことなのだ。

せっかく習得したスキルが、一度も使う機会がないとか、全然役に立たないとか、目に見えた効果がないとか、そういうのが一番悲しいのである。

自分で選択して入手したスキルが真っ当に役に立つだけで、ゲームは格段に楽しかったりするものだ。

さらに……だ!

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スキルを使用して、「難しいが不可能ではないこと」に成功すると、獲得幸福点に倍率が掛かります。
また、熟練度が溜まり、スキルレベルも上がります。

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ゲームの面白さの重要な要素として「難しさ」がある。

自分で選択したスキルをフルに使って難しい障害を乗り越える。ゲームの醍醐味ってやつは突き詰めればここにあるわけだ。

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そして、公共に寄与するような「有意義なこと」にスキルを使用すれば、「尊敬」や「名声」を獲得でき、自尊心を満足させることで、さらなる幸福点を獲得できます。

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例えば、クラス「外科医」などが分かりやすい。選択して入手したスキル「手術」を使って難しい手術を成功させれば、自尊心が得られ、高い幸福点を獲得できる。さらに熟練度が溜まることで「手術」スキルのレベルも上がり、「名医」「神の手」などの名声やトロフィーを得ることができる。

「む、む、む。しかし、ボクがプレイしてた時は、神殿を築いたり、有意義なこともしたと思うんだけど、大して幸福点を得られなかったよ? バグってない?」

「いや〜、それはちょっと分かんないっすね」

実は理由は分かってる。上司は初期ボーナスポイントをイカサマしたからだ。ポイントは「難しい問題を」「自分の選択スキルで解決する」ことだから、チートしてた上司にはあんまり難しいことがなかったんだろう。愚かなやつめ。

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「入手したスキルを用い」「難しい問題をクリアする必要があり」「それが有意義である」ようなクラスに就くと、「寿命」から「お金」の変換中にも幸福点を稼げるようになり、大変に有利となります。

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「仕事しながらも幸福点稼げるのか! あれ? でもさ。プレイヤーの多くは『もっと休みたい』って言ってるじゃん? あれ、どうなの?」

「ああ、あれは幻想です」

「幻想なの!?」

「正確には皆が皆、幻想ではないですが。バッドステータス『退屈』はかなり重めのマイナス効果に設定してあるんです。自分で『やりがいのある楽しいこと』を設定できて、それに邁進できれば別ですが、大抵のプレイヤーにはそれを思いつく事ができません。少なくともバステ『退屈』を解除できるだけ、働いてる方がまだマシだったりもします」

そう。そして、「退屈」というバステを作ったことには意味があるのだ。ここからが俺のゲームデザインの真骨頂なのだが……。

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他者から成功を認められると、隠しパラメーター「やる気」にプラス補正が掛かり、新しいスキル習得や、別の「有意義だけど難しい問題」に挑戦しやすくなります。

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そう……これが「人生」の最大のウリ、「確変システム」だ。

一回成功して他プレイヤーから認められると、名声や賞賛による幸福点が継続的に入ってくるので、失敗を恐れることなく新スキル取得や次の「難しいけど有意義なこと」に挑戦することができる。
勝っているやつがさらに勝ち続けるシステム……。既に幸福点をゲットしているプレイヤーが、さらにどんどん幸福点を稼いでいくシステムなのだ。

何もしないとバッドステータス『退屈』に陥ってキツイので、何かやる。それもできるだけ有意義で公共に寄与するものの方が幸福点に結びつきやすいので、それをやる。すると周りの人間にとっても幸福点を稼ぎやすい環境が整う。これにより、種族ホモサピエンス全体、つまり、サーバーのプレイヤー全体の幸福点が増大していき、どんどんハイスコアが更新されていく……。

俺の『人生』はそういうデザインのゲームなのだ。

各プレイヤーが自分のために幸福点を稼ぎまくるだけで、ワールド全体の幸福点が底上げされていく。我ながらなんと美しいデザインか!

なるほどね、こういうゲーム性だったわけだ。言われてみると確かに結構楽しそうな気がするけど、プレイしてる時は一ミリも気付かなかったよ。……キミねぇ〜。やっぱりダメだよ、こういう大事なことははっきり言わないとさ〜。

こっちはあんまりハッキリ言いたくないのだ。第一に、そんな必勝法をゲームデザイナー自身が言うなんてダサいし、第二に言わなくても自然とそうなるようにプログラミングしてるわけだし。

第三に……こういうのは、あんまり言ってもロクなことがない。実は俺も二千年ほど前に魔が差して一回やってしまったのだ。いまいちプレイヤーたちがシステムを理解してないから、いちプレイヤーとしてログインし、運営側の意向をそれとなく伝えようとTipsを呟いて回ったりしたのだが、なんか周りの癇に障ったのか、ひでえ目に遭わされて殺されてしまった。マジですげえ痛くって、もう二度とログインなんかしないぞと心に誓ったものである。

俺のTipsは書籍にまとめられて世界的ベストセラーになりはしたのだが、なんか役に立ってるのか立ってないのか……。とにかく微妙である。

「ま、まあ、こういうシステムに自分で気付いてそこから攻略法を編み出していくのがゲームの醍醐味なんで……やっぱ、あんまり運営側が言うのもどうかなーって」

「フーン……。ならさ、このハイスコア暫定一位のプレイヤーさ。彼なんかはシステムをしっかり理解して攻略してたわけね? ……えっと、プレイヤーIDは……シ、シャーキャ……あれ? でも、この彼、さっき言ってたようなプレイングとは全然違うような……」

「ぶ、部長! 幸福点を稼ぐもう一つの方法について説明しますね!!!」

「えっ。でも、このプレイヤー、やっぱりなんか変っていうか」

「イベントをクリアするとトロフィーが貰えるんですよ! これがお楽しみ要素となってましてね!!!」

「ウ、ウン……」

俺は慌てて話をずらして上司を丸め込んだ。あ、危ないところだった……。あれだけ言っておいて、暫定一位のプレイヤーが、俺のゲームデザインをガン無視して、バグ利用してハイスコアを叩き出したクソッタレのチート野郎だなんて上司に知れたら……。お、恐ろしい。


(続く)

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