放蕩鬼ヂンガイオー

07「は、すみませんなのだ……」

エピソードの総文字数=3,399文字

『そこにいたか放蕩鬼。最後の力で……道連れに……してくれるぞ』

 光など通すはずもない正面玄関のシャッターに、影絵のように巨大なドクロのシルエットが浮かび上がった。
 深く昏い眼孔、その奥に冷たい光がちらつく。

 背筋にぞくりと悪寒が走った。

 伏せなきゃ。咄嗟にそう思った。
 が、率先して対応するべきはずのヂンガイが呆然としている。

 なにやってんだ。さっきと同じでビビってんじゃないだろうな。
 いまあのドクロは何て言ってた?

 たしか『そこにいたか放蕩鬼』って……。

「あぶねえッ!」
「ひゃあ!?」

 考える前に体が動いた。
 燦太郎はヂンガイに飛びつき、その体を引き倒した。

『喰らええええええええええええええええええええええッッッ!』

 背後に闇の増幅する気配。意識がスローモーションになる。

 本能的に身を硬くしたが、ドンと背から津波でも浴びるような衝撃に目を見開く。

 妙だ。
 『背中に冷気』、『胸に熱』を感じて視線を下げる。

「――――――ぇ」

 赤黒い血が、胸から花火みたいな勢いで噴出していた。

 シシドクロが放った悪のビームか何かでも食らってしまったのだろうか。確認したいが、そうする力も残っていない。

 状況も理解できぬまま、燦太郎の意識は冷たい闇に飲まれて消える。ところだった。

「なにやってるし古代人!? あんたに死なれちゃったらあたしは軍法会議にかけられて……ああもう、こうなったら最後の手段なのだ!」

 ヂンガイはヂグソーを集めて金棒を成型、振り上げてから大きくスイングし――燦太郎の胸に、血の噴出に逆流するかたちで突き刺した。

「ごええええええええええええっ!? 前からも刺しちゃうのッッッ!?」

 とんだ勘違いだった。
 こいつはヒーローなんかじゃない、悪魔だ。末代まで祟ってやると心に決めて潔く意識を失おうと燦太郎は全身の力を抜いたが、待てどもそのときは訪れなかった。

「……………………………………あれ?」

 金棒が脈動し、燦太郎の胸へと光を送り込んでいた。
 二秒待ってから金棒が引き抜かれる。

 ……大穴があけられていたはずの胸に、多数のヂグソーが入り込んでいた。

 ヂグソーは握りこぶし二つ分くらいの塊に結合しており、ゆるやかに――鼓動を刻んだ。

「喪失した心臓の代わりに、《概念心房ハートデイヂーワールド》の模造品を埋め込んだのだ。これでおまえも、LAE……燃えの心さえ集めれば生きていける」
「そ……」

 燦太郎は指を震わせた。
 確かに体は動く、痛みも感じない。胸の異物は不気味だが一生懸命動いている。

 振り返るとドクロのお化けも力を使い果たしたのか完全に消え去ってしまっていた。天甚も状況が飲み込めていない表情で目をしばたたかせていたが結果オーライと判断したのか頭上に疑問符を浮かばせながら無責任なサムズアップをした。

 これならもう安全、命に別状もない。けども。

「よかったね。それじゃ、あたしはこれで」

 ヂンガイは手を振り、そそくさと目の前の空間に虹色の亀裂を生み出した。
 低めのフェンスでもまたぐ感じで片足を亀裂に差し入れようとしたが、燦太郎が首を掴んで引っ張り戻した。

「ぐえ。……なにか忘れ物でもあったかし?」
「おい、なんなんだよこの心臓。めっちゃキモいんですけど。それに燃えを集めないといけないってどういうこと」
「ヂグソーはLAEを動力にしてるんだから、燃えを集めないと止まっちゃうのは当然なのだ。まあ自分自身が生み出したLAEだって利用できるわけだし、今もちゃんと動いてるから大丈夫。死ぬよりマシなのだ」
「だからって放置して帰んなよ! 居候したいって言ってたのどうなったんだよ! 俺、一生このまんまとか嫌だよ! なんとかして治してくれよ、未来の技術とかでさあ!」
「せ、正規の方法で摘出しないと後遺症が残るかもしれないし。しかるべき治療を受けるためにも、あたしがスピノザに戻って医療課を呼んでこないといけないのだ。大丈夫、活躍を報告して昇進してチヤホヤしてもらってそこそこ満足したらちゃんと戻ってくるから。ね?」
「心底、信用できねえッ!」

 が、だからといって引き止めてどうにかなるものでもない。
 未来の世界で応援を呼んできてくれるというのなら、それにすがるしかないのが実際のところだった。

「もういい、わかった! 急ぎで帰って仲間を連れて来い!」
「んむ。任せるがいいのだ」

 皿みたいな胸を張って鼻を鳴らすヂンガイ。いいから早く行け。

 燦太郎の念が通じたのかそうでないのか、ともかくヂンガイは機械の腕を上げて虹色の亀裂を広げようとした。

 さぞかし輝かしいSF的なエフェクトが発生して時空を越える超常現象が起きるのかと思っていたら、その腕から何か折れるような変な音がして機械の隙間から大量の黒煙が浮かんだ。

「え? それ合ってるのか? 俺の知ってる時空移動より演出がずいぶん汚いけど」
「あれ? っかしいなー。あれ? あれあれ?」

 なんだか手間どっている。

 どんくさい奴だなあとスマホの様子でも確認しながら待つこと五分は経っただろうか。まだ終わる様子が見えなかったので、アプリのゲームであるパズロボ(※パズル&ロボットヒーローズ)を遊んでいたら更に十分が経過した。

「まだかよ!」
「えへ、えへへへへぇ……」

 一心不乱に光の文字と格闘していたヂンガイが顔を上げた。

 滝の汗を流している。嫌な予感しかしない。

「やー、普段あまりにもフェイズアップしないもんだから錆びてたのかなー? 今日だけで色々と酷使しすぎちゃったもんだから、なんか……故障じゃないんだけど、ちょっと……故障したのだ」

 燦太郎怒りのビンタがヂンガイの頬を直撃した。

「あいたッ!? 女の子に手をあげるなんて!」
「るせえッ! どうすりゃいいってんだよ、この状況!」
「……え、ええと、とりあえず装備を構成してるヂグソーには自己修復機能があるのだ。LAEを大量に集めてヂゲン航行能力を回復させるところから始めるのが現実的なのであたしはこれから燃え集めの旅に出ます探さないでください」

 燦太郎は手の平を思い切り広げてヂンガイの頭をわしづかみにした。

「ちょうどうちの店、ひと一人住めるくらいのスペースが余ってんだよなあ」
「まっ、間に合ってますのだ! 貧乏人の住処を占拠するほどあたしは鬼じゃないのだ! 鬼だけど!」
「遠慮すんなよ。うちはいいぞ、売り上げ不振で設備も新調できないから、夏あたたかくて冬すずしい。より実践的な古代人ライフを満喫できる」
「いーやーなーのーだーっっっ!」

 大げさに天を仰ぐヂンガイ。

 その頭に、小さな黒いゴミみたいなものが飛んできてぶつかった。
 どこから飛んできたのかと振り返ると、いつの間にか椅子に座っていたらしい天甚が指で黒いゴミをいくつもいじっていた。

「ヂンゲエ、うちに住むといい。ご先祖様からの言いつけでよ。困ってるヒーローがいたら助けてやんなさいと、それがうちの家訓なんだ」

 そんなこと聞いたことないんですけど。
 燦太郎は思ったが口には出さなかった。

「い、いや、あたしはちょっと急用を思い出して……」
「まあそういわずに。ヒーロー相手に不義理があったら、ワシの方がご先祖様から叱られちまう。なんかよくわかんねーけど、燦太郎の協力も必要なんだろ? それも好きにしなって」

 燦太郎は、なんとなしに今しがた天甚の投げたゴミを床から拾い上げた。……見ると、すぐにその正体がわかってしまった。

「……ああ。これゴミじゃねえわ。ヂンガイ、おまえが壊したアキバリオンの残骸だわ」
「へ?」

 天甚は指に息を吹きかけて汚れを落とすと、新しいゴミを取り出し、指ではじいてまたヂンガイの頭にぶつけた。

「この件については不問にしてやる。そんかわし、うちで働きな」
「いや、これはあたしじゃなくて、その……ヂゲン獣が……」

 天甚は、今日一番に輝く最強の笑顔でヂンガイを見つめなおした。

「そんかわし、うちで働きな」
「は、すみませんなのだ……」

 ヂンガイは深々と頭を下げた。

◆作者をワンクリックで応援!

0人が応援しました。

◆コメント欄は未記入でもOK! 公開されないのでお気軽に。

ページトップへ