パナギアの童女は茶室で微笑む ――その女は死を知らず、ただ眠るのみ――

エピローグ:恋娘死すのマリア

エピソードの総文字数=3,883文字

作者コメント
 エピローグは、この小説の、一番最後の部分、オチにあたるところです。途中、まだまだ書いていない部分がありスミマセン。

 世の中には、小説の最後がどうなるか、気になる人も気にならない人もいると思います。読んでいない部分のネタバレとかすると怒る人もいれば、ネタバレ歓迎の人もいるわけです。私は、物語最後の顛末が気になるタイプです。小説は最初からよりも、最後から読むタイプ、という邪道きわまりない生き方で、よく馬鹿にされます。そんな私ですから、この小説を作ったとき、一番最後から考えました。そこから時間的に(さかのぼ)って、何が必要か、というプロットを立てていきました。長寿漫画のゴルゴ13もラストは既に決まっているそうじゃないですか。そういうことです。(どういうことだ?)

 というわけで、最後がどうなるか知りたくない方は、ここから先を読むことをお勧めしません。引き返しましょう。一方、読みたい方だけ、先にお読みください。

 ストーリーとしては、金剛寺弟・瓶白・牛王の三人は無事に帰国。色々と物語の風呂敷をたたみ、夏休みが終わったところ。
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九月

 俺たちにとっては色々と長かった夏休みも終わり、ようやく十高での新学期を迎えることとなった。始業式も終え、多くの生徒は帰宅、あるいは部活動へに向かうなどのいつもの情景が繰り広げられている。新学期だからと言って、特に変わった事はない。ただクラスの中で俺だけが「新・生徒会役員としての抱負」という理不尽な文章問題を与えられ――それは俺が、十字高校生徒会で、役員に任命されたからであるが――誰もいなくなった事以外は、ごく普通のありふれた放課後である。

 そう、変った事といえばもう一つあった。目の前の、瓶白いのり御嬢様が俺を呼ぶときの呼び名が、九月から少し変わった事ぐらいだろうか。あと、立ち位置が一段と、以前より近くなっている。寄りすぎだ。

「ごきげんよう、金剛寺副会長(・・・)
「さっそく、その呼び名か?瓶白書記(・・)

 生徒会長は、生徒全員の投票で決まるのだが、その他オマケの、頭数さえ合っていれば問題ないという生徒会役員は、〝生徒会長の任命によって決定する〟と生徒手帳には記載されていた。まさか、その記載の内容に従って、俺が生徒会役員になるとは当初、思いもよらなかったのだが。

 なお、生徒会のその他大勢の役員は〝生徒会長の任命によって決定する〟とは書いてあるものの、実際の決定権は幾ばくかの教員が持っており、生徒会長は誕生して即、その教員等の操り人形となる悲運が予め待ち受けていようだ。

「雑用は増えますが、良いことではないしょうか?今後は校内でお話しをしていても、〝あの二人は生徒会の仕事をしているんだ〟と、周囲は勝手に勘ぐってくれますよ。今までのような、他人のフリをする必要もなくなりました」

 今から福音商会や茶室で、いくらでも話せるというのにか?また生徒会新役員の選定には、例の企業秘密のパワーが関係あるのか?あと、顔が近いってば。

「で、何か用事か、瓶白?」

 俺がそう言うと、彼女は無言で、彼女の携帯電話を見せた。はいはい、携帯電話の電池を抜け、って事か。その指示通り、俺は携帯電話の電池を抜き、出歯亀兄貴の目と耳を遠ざけた。彼女はそれを確認してから、俺に奇妙なことを告げた。

「金剛寺兄弟、以前から預けたままにしていたモノを、そろそろ返して頂けないでしょうか?」
「はて、俺は何か預かっていただろうか?」
「覚えていないのですか?」
「ああ、覚えていない」
「全く、覚えていないのですか?」
「――これっぽっちも……何のことやら……」
 いくら考えても、全く心当たりはない。せめてヒントとかは無いのか?

「金剛寺兄弟は、あの時の、松林の中で死にかけた事件を、全く覚えてらっしゃらないのですか?あの時、私の(プネウマ)をお貸ししました」
 そこまで言われて、ようやく思い出した。あの、死にかけた時の話か。俺は未だに詳細が思い出せず、あの時に何が生じたのかについて、俺は誰の言い分を信じていいのか迷ったままの状態である。

「……いや、少しは覚えているのだが。その(プネウマ)に関してだが、預かっていた、という認識が、今までの俺には無かった。大切なモノだったのか?長い間、借りていて済まなかったな。二週間程度だが。もし急ぎなら、もっと早めてもらってもかまわなかったのだが……」
 どう考えても、希望をしていないところに勝手に貸し付けられたような気もしないではないが――命の恩人には頭が上がらないのがツライところだ。

「〝もっと早めても〟とは(おっしゃ)いますが、二人だけになれる時は、あの時以降から今まで、ほとんど無かったのですよ?まさか、他の人の前で、恥ずか死ぬような行為(コト)をご所望なのでしょうか」
 (プネウマ)返却って、恥ずか死ぬことなのか?俺が悩んでいると、彼女は何か覚悟を決めたような表情を見せてこう続けた。

「私に口に、直接(プネウマ)を注ぎ込んでくれれば、あとは私が吸い取ります」
 その解説してくれた説明内容は、解るような解らないような、微妙な説明である。そうだな、5W1H的に不足している。ここまでの思考をまとめよう。

いつ?――今
なにを?――息を
どこで――ここで
なぜ?――返済のために
だれが?――俺が
どうやって?――〝不明〟

なるほど、どうやって、だ。

「俺は、瓶白の口に、どうやって(プネウマ)を注げばいいんだ?」

「一般的に、口からではないでしょうか?私が金剛寺兄弟に、(プネウマ)を与えたときも、口からでしたので」

 なるほど、それは簡単だ。俺の口から、瓶白の口に、(プネウマ)を注ぐと。俺は口を開けて息を吐いてみた。間抜けな絵だが、瓶白がいうのだから仕方がない。

「金剛寺兄弟、それでは漏れが多すぎますし、私は吸い戻せません。漏れを少なくするには、やはり、……ええ、その、唇を――重ねなければ……」

 俺は、自分の上唇と下唇を重ねてみた。しかしコレではあたりまえだが、大変息が吐きにくい。当然のことながら、口が閉じてしまうのだ。ところでなぜ瓶白は、顔を赤らめているのだ?それで、俺は、唇を重ねる、の意味がわかった。いや、解っていたのだが、どこかで信じたくなかったのだ。すると、俺が瓶白の顔を直視するのが苦しくなってきた。

「解っていただけましたか、金剛寺兄弟?」
 彼女は、ようやく理解してもらった歓びからか、少し緊張がほどけたような顔つきとなった。その後、軽く深呼吸をしたように思えた。

「茶室は――二畳と狭すぎて色々と、別の意味で耐えられそうにありません。心の準備に時間がかかりそうです。また、福音商会では、人の眼がありすぎます。ならば、教室ぐらいしか、私たちには選択肢が残されていません――今の私、準備はできています。
 ローマ法王も、諸外国に赴いたとき、まずは大地に祝福の接吻をするではないですか。そんな感じで、私を祝福すると思って、軽く……お願いします」

 瓶白は、そう言い残すと目を閉じ、俺の服を軽く掴んだ。彼女の顔は(ほの)かに赤いが、脱力した良い顔だ。

 あの八月の旅は過酷だったが、その最後――帰国時の飛行機の中では、彼女はこのような顔を晒しては、(うた)た寝していたのを思い出す。

 今の彼女の人生が、尽きない愛と祈り、歓びと感謝によって、無限に満たされているのがわかる。口こそ軽く閉じているものの、〝聖テレジアの法悦〟にも匹敵する恍惚の表情でもあり、あるいは、疲れた肉体を癒すため、リラックスして少し休息しているだけのようにも見える。

 ふと、俺はギリシャ辞書のKのページを思い出した。ギリシャ語〝コイメーシス〟には、〝休息・眠り〟の意味がある。ちょうど、このような感じなのだろうか?

 あ――確か、黒樂の銘は――恋娘(こいめ)――()す――だったか?あの停滞と祝福をもたらす黒い茶碗の賜物は。瓶白のお婆さんの計らいで、あの茶碗から飲んだ者は全て、〝復活〟前に、わずかな〝休息〟のを与えてもらったのかもしれない。

 さて瓶白を、受け入れ準備させたまま待たすのも悪いと思い、俺もそろそろ覚悟を決めた、その時だった。

〝弟よ、いくらなんでもジラし過ぎだ。ずっ~と今か!今か!と待ち構える、兄の心情を察しろ!気の利かないヤツめ!データは後で消すから、気にせずヤレェ!〟

 兄貴が校内放送を使って、おそらく俺にメッセージを発したと思われる。そういえばこの夏休み中に、教室内に監視カメラが新たに設置されたということを、今思い出した。また、この事件は十高七不思議、無人の放送室から放たれた『気の利かない弟とは誰なんだ事件』として、この後、卒業文集を賑やかす事となった話は割愛する。

 瓶白は、両手で顔を押さえ、その場で伏せている。
「――死にました。恥ずか死にました。一度ならず、二度までも見られているなんて……」

 これぞ正に、恋娘(こいめ)――()す。

 ――その女は死を知らず(イェ・シャル・ノット・シュアリー・ダイ)、ただ眠る(コイメーシス)のみ――


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作者コメント
 この小説は全部で17~22万字相当の予定。
コミカライズで7~10巻程度、三十分アニメの場合、1クール13話で収まるかと。

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