『みじょかもんの祈り ー 心の貧しい人は幸い? ー』

03. 「ヨブの嘆き。」

エピソードの総文字数=1,954文字

苦しくてたまらない時、旧約聖書の『ヨブ記』を、思い出すことが多かった。


道を歩きながらでも、神社の境内を眺めながらでも、椅子に座っても。

『ヨブ記』の中の、ヨブという主人公を想いながら、どうやったら理不尽とも思えるような苦難に耐えることができたのか。

「苦しんでいるのは、自分だけじゃない」という安心感も欲しかった。


先にあるのは、絶望だけじゃないことも感じていたかった。


『ヨブ記』には、その答えがあると思った。
『ヨブ記』は、ヨブが神から災難を次から次へと与えられる物語形式だ。

神と悪魔が会話をする所から話が始まる。

「お前は、ヨブを知っているか?彼ほど神を畏れ、信仰深い人はいない」
と神は人間であるヨブを得意げに悪魔に話した。

しかし、悪魔は言う。
「いえいえ、神様。ヨブは恵まれた生活をしているから、神様に祈る余裕があるだけです。
色んなものを彼から奪えば、神を呪うに決まってるじゃないですか!」。
と負けじと対抗する。

神は、ムキになったのか。
それとも、未来をちゃんと予見してなのか。
「ヨブの命を奪う以外なら何をしてもいい」と悪魔に言ったのだった。

ヨブは、老人で大富豪だった。
彼の周りには、大勢の家族と大勢の使用人にかこまれていた。
そして、多くの財産を持っており、何不自由のない生活を送る。

彼の生活の中心は、信仰である。
常に、神を賛美していた。

しかし、神からの許しを得た悪魔は、ヨブから色んなものを奪っていく。
家族や使用人は、病や天災などで全滅させる。
財産である家畜も殺してしまう。
ヨブから健康を奪い、重い皮膚病を患わせる。
その痒さのあまり、陶器を割って、その割れて尖った先で体を掻きむしるほどだった。

それでも、ヨブは「私は裸で生まれたのだから、裸で帰ろう」と、神を呪うこともなかった。

彼にとって、神への信仰は何よりも優先すべき事項であることが分かる。
何もかも失っても、神への祈りを欠かさないヨブに対し、生き残っていた妻は呆れて言った。
「神を呪った方がマシでしょう?」

「主は与え、主は奪う・・・。」
世界を創造した神が、なされることならばと、従順に身に受ける苦難。

そんな所へ、ヨブの古い友人たちがやって来た。
3人は、ヨブを慰めるだけではなく、彼を責めた。

「あなたが、何か罪を犯したから、神からの罰が与えられたのだ」と。

古いイスラエルの民にとって「災い」とは、当人が何しかしら罪を犯した神の罰である。

ヨブが何か悪いことをしたから、天罰として神は奪い去ったのだと友人たちは言いたいのだ。

彼には「そんなことはありえない、見覚えがない」と反論する。

しかし、災いは止まらない。
古くからの友人でも、自分のことを認めてくれない。
自分のことを否定する。

ヨブは、自分をも否定し始める。

自分を否定した時、彼の中に闇が広がった。
心と身体の痛みが、ヨブという存在の隅々にまで浸透してしまう。

ヨブは、神を呪い出す。



自分が苦しい局面にあった時、人は共感を求める。

「そうだよね。苦しかったよね。大丈夫、君は悪くない。」と。

しかし、ヨブは、全てを失い、友人たちにも責められ、神から見放された気分になる。

答えが欲しい。
どうして、自分がこんな目にあったのか。
神から答えを与えられれば、友人たちに反論できる。

神は黙っている。

一神教の神とは、厳しい存在である。
一生涯を捧げてきた人間ヨブにも他の人間同様、神は沈黙を貫いたのだ。

そもそも、一神教の神に理由は必要ないし、ヨブの苦しみは理由なきものである。

絶対的な存在である神に答えを求めても、人間には理解が及ばない。
それが、一神教の神の姿なのだ。

『ヨブ記』の最後では、神がヨブに説教をする。
「創造主である私に口答えをするとは何事だ!」と。

神は、どうして、こんな苦しみをヨブに与えたのか最後まで明かさない。
ただただ、怒る。

ヨブは頭を下げて謝罪するだけだ。

でも、どこかに理由があるのだろう。
神にしか分からないような理由が・・・。
だから、信頼するしかない。

前を向いて。

私、森一生も同じだった。
答えを求めてしまう。
なぜ、こんなに自分が奪われてしまわねばならないのか。
健康も、職も、今までの友人も失ってしまった。

誰に何を言っても、言い訳にしか聞こえない。

『ヨブ記』のように、最後はハッピーエンドのような形を迎えるのか。
つまり、よりよく豊かな者となることができるのだろうか。

そんな期待をしつつも、この当時の私は、孤独だった。

どう歩めばいいのだろうか・・・。

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