フェンリル娘と始める異世界生活

接敵の王

エピソードの総文字数=2,076文字


フェリルが過去最高の加速をする。


己の速度を自覚していたフェリルであっても今の自分の速度に驚きを隠せない。

ん。すごい……。体が軽い……!

肉体が活性化され、体の回転が速いのが如実にわかった。


いつもは一歩踏み出すのにコンマ1秒かかるのに対して今はコンマ05秒という具合に異常な率で底上げされている。


それは精神面からも感じることができた。



(おもりがなくなったよう。


軽い。


何でもできそう)

開放感。


自然とほほえみがあふれてしまう。


フェリルは常に、暴走の可能性を孕んでいた。








内側から発生する、凶暴な意志、そうとしかいえないもの、そのものが産まれたときから存在していた。


現代の医療魔術では原因を究明できない、種族病。フェンリスヴォルフレイスが忌避される理由。


フェンリルの意志。


世界を壊せ。


その呪いともいえる血潮は自らの人生を全うに送らせてはくれなかった。


気がついたら目の前が崩壊している。そしてそれは自分が行ったという。


だれもフェリルをかばわなかった。当たり前だ。フェリルが壊したのは事実だから。


目線で訴えられる。私たちに近づくな。人外は外で過ごしていろ。


それからフェリルは自分を周りから離して生きるようになった。


そしてじぶんが全うに生きれる方法を探し始めた。


強くなれば、強くなればじぶんらしく生きられる。内側の圧迫に負けることなんかない。


それだけを信じて、戦い続けた。人々に拒絶されようとも。幸せな未来のために。


戦った。敵もたくさん倒した。でも内側の圧力はそんな努力をあざ笑うかのように、悠々とフェリルを支配した。

最近では、もう普通の自分なのか支配された自分なのか判断がつかなくなってきていた。


(わたしはわたし……)

自由になる希望がもてない。

いつか自分が自分でなくなって、人に迷惑をかけるだけの害獣に成り下がるくらいだったら。

いっそ、戦い続けて戦いの中で死んでいく方がいい。


ついにはそう思ってしまうほど追い込まれていた。


しかし、そうはならなかった。


フェリルの願いは別の方法で唐突に叶った。叶ったのだ。


偶然であった男の子。その存在によって。








はあああああ!!

フェリルは10メルトある王ネズミの面前で7メルトほど跳躍。王ネズミの胴体、心臓付近へと接近する。



『ぎゅあああああ!!』


危機感を感じさせる王の鳴き声。迎撃のための動作を起こす。

ーー遅い!

フェリルはあふれる力をすべて込め、気合いを入れると同時にインパクト。


両手にセットされた、50セントほどのかぎ爪をかまえ心臓を上の脂肪ごと切り裂こうとした。


鈍重そうな王様ねずみはそれに対し、体中の脂肪を絞らせ、腕をかすませるほど高速で振り払った。


王ねずみは体は肥満体のようにみえるが、その実、強靱な筋肉によって、体を構成していた。周りの脂肪はあくまで鎧なのだ。


王ネズミの高速攻撃に対しフェリルは即応。

視野に王ネズミの鋭い爪が入った瞬間に闘技をアクション。

瞬間移動闘技「風陣」。自らにまとわせた風を固定化させ足場とすることで、空中での急速反転、急速加速を可能にした闘技だ。



ぱんっ!


という風を蹴る音とともに、フェリルが空中で滑るように曲がり、攻撃を回避、さらに王ネズミに接近する。


(今っ!!)
インパクト。

単体致命闘技「首狩り兎の致命剣(ヴォーパルソード)」

武器の切れ味が一瞬の間だけ格段に上がるフェリルのクリティカル闘技。シューマのスペクトルも追加され、その切れ味は名のある魔剣にも勝るほどとなった。


フェリルの両腕のクローは過たず、王ネズミの心臓上の脂肪に直撃。

ふかぶかと心臓にささり、表面の脂肪をえぐり落とす。弱点であろう王ネズミの首を狙おうとも首回りが太すぎて効果が薄いと判断したからこその心臓狙い。



『ぎゅうううううううう!!?』

王ネズミが金切り声を上げる。自分の生命力がこそぎとられたことをその痛みにより理解したのだろう。


フェリルは大きな一撃により、体制を崩していたので即ざに離脱を決行。


王ネズミの脂肪を蹴って、跳ね返るようにシューマの元までかえってきた。


ネズミの配下たちは、王が傷を負ったことで騒然となり、攻勢を一度収め、王の周りをバリケードのように取り囲んだ。


団子状態。


心臓をやられたにもかかわらず、王はまだ健在だった。しかし致命傷は確実だ。

切りぐちから止めどなくどす黒い血流があふれ出している。








ぴゅんといった感じでシューマの隣に立つフェリル。
ん。ただいま
お、お、お帰り……

フェリルは無表情ながらも、どこか誇らしげな、そしてシューマの反応を気にしている様子が見て取れた。


シューマはフェリルの高速戦闘にあっけにとられていた。

前世で見たどのような映像よりも迫力があり、緊迫感があり、そして、鮮やかだった。

それがこんなかわいい女の子が。

ん?
フェリルはこてんと首をかしげる。
(ぎゃわいい……)

(フェリルちゃんあんまり表情がでないさばさばした娘なのかなって思ったけど、そんなことなかった。ただ表情に出すのが苦手なだけなんだ。)


ん!ん!
しっぽはぶんぶんと振られているので、もしかしたら案外感情はわかりやすいかもしれない、そう思いながら。

◆作者をワンクリックで応援!

0人が応援しました。

◆コメント欄は未記入でもOK! 公開されないのでお気軽に。

ページトップへ