神と大統領と弾道ミサイル(仮)

神の利益相反

エピソードの総文字数=3,514文字

なんてこった、俺の活躍の舞台がなかったぜ! こっちはザリスの監視台に攻勢をかけようと、今か今かと手ぐすね引いて待ち構えていたっていうのによぉ!
 大統領官邸の大広間で頭を抱えるプラトに、天馬が言い聞かす。
プラトが活躍するということは、こちらにも被害が発生していたということだ。ザリスに居座る政府軍が逃げず、防戦を挑んでくれば、こちらが占拠できたとしても被害は10や20では済まなかっただろう。
政府軍が停戦に本当に停戦に合意したんですか?

今までいくら打診してもなしのつぶてだったのに……。

領地の交換協定のためには、いずれにろ停戦をしないと互いに移動もできないからな。向こうに花をもたせてやり、こちらが奪った領地を放棄してやるという提案なのだから受けないわけがない。
天馬さんが停戦協定を受けてもらえる状況を創り出したということなんでしょうか……。
むしろ私は、天馬が停戦期間をたった2か月にしたことに違和感があったけどね。あの状況なら、1年は難しいにしろ、せめて半年は飲ませることができたんじゃないの?
簡単な話だ。2か月後には、アスタリア帝国側のほうが攻める用意ができている。それ以上、停戦期間を延ばす必要性がないのは俺のほうの事情だ。
さすがだぜ俺たちの大統領は……。次こそは、俺もこの命を大統領のために……。
停戦期間が終わってから天馬さんが攻めるというのは、どの辺までを考えているんですか……?
オーレス共和国の征服だ。この内陸国家はまとまりがないが、それでも首都を中心とする平地には、3000万を越える人口を抱えている。そして政治もバラバラで、汚職もはびこり、軍も脆弱だ。この俺が統治する舞台が整っていると言えるだろう。
大統領……好きだ……。
キモッ……近寄らないで。
プラトさんストレートすぎます……。
 プラトには妻子がいるのはデータベース上で確認済みだ。しかも妻とのなりそめも恋愛結婚だったらしいから、危うい意味ではないだろう。だがギルメンに聞かれたら言い逃れできない言葉でもある。タッチしないほうがいいと判断し、天馬は相手にしなかった。
首都方面に手を出すと、さすがにアメリカもちょっかいを出してくると思うわ。本国から軍を増派まではしないだろうけど、首都で治安維持に取り組んでいる5000のアメリカ軍に何らかの影響があると判断すれば、アメリカも手を打つでしょう。

 アメリカは1990年代を通して、もともとオーレス共和国を「テロ支援国家認定」していた。ならず者国家の一角として扱い、国家ぐるみでテロリストを育成しているとして激しく非難していたのである。それは当たらずとも遠からずのところがあり、政治的統一がなく、政治に求心力もなかったので、その周辺ではいくらでもテロリストやアナーキストのような人々を輩出する土壌があったためである。アスタリア人のような大小の勢力が各地に割拠しているわけで、それら勢力に野心や悪意は大してなかったとしても、西側世界との価値観の共有などはなっからできるわけがないのだ。

 しかし2001年9月、アメリカ同時多発テロ事件が発生し、世界中を揺さぶった。その首謀者とされたビンラディンをかくまったとして、アメリカはオーレス共和国政府に戦線を布告し、突然攻め込んだのである。

 当然だが、オーレス共和国軍がアメリカに敵うはずもない。敵わない理由は兵器や戦術というよりも、もっと根本的な政治的意思の統一がオーレス共和国政府には不可能だったのである。たちまちアメリカはオーレス共和国首都周辺を制圧し、一時は10万を超える兵力を派兵するまでに至っていた。しかし中世的価値観から現代的価値観まで、宗教勢力から土着勢力まで、百家争鳴入り乱れる戦国世界が、理想主義者のアメリカ人に統治できるはずもない。

 古くはアレキサンダー大王ですら攻略が出来なかった地域だ。近代以降においては、かつて世界七つの海を支配した大英帝国も、一大共産帝国を築いていたソ連も、経緯は違えどオーレス共和国の戦争に引きずり込まれ、片足を抜くに抜けなくなり、国力を大いに落としてしまった。大英帝国は疲弊して落日を迎えることになり、ソ連に至っては崩壊したのである。次は、アメリカの番だった。

 アメリカもオーレス共和国には片足をまともに突っ込むことになったが、懸命の政治的努力によってなんとか足を引き抜こうとしており、今は名目だけの支配となって、その駐留軍は5000にまで縮小されている。アメリカとしてはとにかく事を穏便に進め、戦闘をなるべく回避し、すべての権限をオーレス共和国軍に任せきることで、撤退の機会を狙っていた。

アメリカの打ち手のなかに、軍事行動はありえると思うか?
……うーん……あくまで私個人の判断になるけれど……アメリカ軍5000のうち、実質的に3000は後方部隊にすぎなくて、いちおう戦えるのは2000だと目されている。本当はもう一刻も早くオーレスから手を引きたいのよ。だから、数年黙っていれば、いずれアメリカ軍はオーレスから完全に撤兵すると思うわ。でも、私たちの側から火に油を注ぐようなことをしてしまえば……私は動くと思う。
その動きの中身を問いたい。
アメリカ駐留軍のうち、最前線を担える精鋭は2000。でもこの構成が特殊で、半分が特殊部隊で構成されているわ。アメリカ軍としては、こんな辺境での治安維持の機会に、特殊部隊に経験や実績を少しでも積ませておきたいのよ。ただ、1000もの特殊部隊員がいるとなると……。
エリカが1000人いるという理解でいいのか?
それはかなり違うと思う。私だって特殊部隊で1年間訓練を積んだけど、本職は諜報や工作だからね。特殊部隊員としての訓練を受けていた期間も、あくまで軍事戦略や戦術の方面からのアプローチが中心だったわ。鍛え上げている本職の男と仮に一対一で喧嘩したら、私なんてあっという間にボコボコにされるだけよ。
たしかにどう見ても、エリカが兵士という風には見えんな。東京で渋谷や原宿を歩いていても、何ら違和感ない女だろう。
だから私と連中じゃ、役割が全然違う。どうやったって戦闘じゃ、拳銃かナイフでも持たないと、ムキムキの男には敵わない。そもそも絶対に敵いたくもないし、工作員がそんな体つきになったら、今度は本職に影響あるからね。女は女でいることが、工作員として重要なことなのよ。
ふむ。
だからつまり、その手のムキムキの男が1000人いるということ。

私より、ほら、ここにその手の脳筋がいるじゃないの。

なんだ? 俺のことか?
こういう連中が大挙やってくれば、政府軍どころじゃないことは確かよね。ヘリなどでの航空支援もあるに違いないし。
アメリカのその手の連中を引っ張り出さないようにしながら、オーレス共和国政府のみを叩く……という方法がベストなのだな。
そりゃそうでしょ。アメリカ軍人に死者が出ようものなら、それこそマスコミが飛びついてくるだろうし、火種は拡大するでしょうね。
待て。ロシアとしては、アメリカの撤兵を食い止めたいはずだ。火種は拡大すればするほどいいものであって、この俺が各種の無人兵器を取り揃え、アメリカが居座ったままの首都に大攻勢をかけるなら最高の結果だと考えているに違いない。
プーチン大統領も、ロシアの外交戦略担当者も、当然そう考えるでしょうね。
だからロシア野郎は信用できねーんだよ。俺たちはロシアの駒じゃねえ。
私は野郎じゃないんだけど。それに、国際政治においては誰だって、どんな組織だって駒なのよ。利用される側だって、自分たちの損得を計算して乗っかるかどうか決めればいいの。
そんなに簡単に割り切れるものか。
ある意味ゲームなんだから割り切りなさいよ。だいたい、ロシアは一方的にアスタリア人に援助してるんだから、何の損もしてないでしょ? お互いにわかっていてゲームをしているのよ。
ロシアとこの俺は利益相反する可能性がある。

エリカはどちらの味方だ?

聞きづらいことをストレートに聞くのね。
だからこそ聞いているのだ。
そりゃ現場で現にこうして活動しているのは私だし、戦略担当官と現場じゃ考えも違うでしょう。こっちは機械じゃないのよ。なるべく戦争には出たくないわ。
より具体的に確認しよう。

もし俺とプーチンの思惑が対立するようなことがあれば、エリカはどうする?

今の私は……個人的には……天馬の味方でありたいと願っているかもしれないわ……。ただ、職業人としてはロシアの人間……。
了解した、考慮しておこう。

 天馬はうなずいた。

 それから大広間では天馬を中心にして、今後の帝国の国家政策についてさまざまな意見が交わされたのだった。

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