放蕩鬼ヂンガイオー

11『コソ=ザ=アイスレディ』

エピソードの総文字数=1,671文字

 西欧の建築を連想させる石造りの城。
 なのだが。

 しかしそれは、観光客が訪れる名所のような美しい意匠を全く備えていなかった。

 石灰質の丸石を粘土でつないで塗り固めてある壁材。
 支柱には宗教色溢れる複雑な文様。
 窓には色彩の重いステンドグラス。

 すべてが不気味ではあるが、いったい何がその異様さを際立たせているかというと、その全てが情報量過多なのである。
 文様は執拗に刻まれ、ステンドグラスはどこまでも複雑で、丸石はひたすらに積み重ねられている。どこにも適度なバランスというものが存在しない、まるで執念で密度を上げ続けたかのような外装だった。

 周囲一体が影に覆われている。

 音もなく、振動もなく、突如現れた巨大な城が、先ほどまでかんかん照りだった陽光をさえぎっているのだった。

「ぢ、ヂゲン獣の接近を確認! AQ各員は戦闘配置についてください!」
「ヂンガイ! ヂグソーを集めろ!」
「もうやってるのだ!」

 その言葉通り。
 プールサイドを蹴り走るヂンガイのもとにヂグソーが集まってくる。

 とはいえ、多数のヂグソーはくまりの手帳により封印されたままである。
 大量の未機動ヂグソーをリュックサックに詰め込んで保管していたのだが、これを非常用のポケットヂグソーでリュックサックごと引き寄せているのである。

 リュックサックは弾丸さながらの勢いでヂンガイの肩すれすれまで高速で接近。
 ぶつかる直前で急激に角度を変えて、ヂンガイの体の周囲を旋回する軌道に乗った。

「OK! いけるのだ!」
 
 が。

 ヂンガイが踏み出したその足は、城門を目前にして急ブレーキをかけられることになった。

『待っていたワ、放蕩鬼ども。……喜びなさい、ここがあなたたちの墓場になるのよ』

 城の玄関口へとつながる中央路の真ん中に、全身に刺青をした女性が立っていた。

 落ち着いた物腰でこちらを見据えている。
 腰に手をあて首を上げ、体のラインを際立たせるような仕草をしながらくつくつと笑っており、不気味な艶かしさを感じさせる。

『ワタクシの名はコソ。コソ=ザ=アイスレディ。あなたたち人間を氷で焼き尽くす者よ』

 コソは体中にロウソクのような筒状の装備をたくさんぶらさげていた。
 一本一本の先に火が灯り、コソの全身を熱く照らしている。

 あれは――爆弾か。

 コソはジャグリングの要領で複数の爆弾を放り投げて手遊びした。

『ヒヒ……』
「守りを固めるぞヂンガイ。今回はギャラリーが多いし、覆面AQだっている。無理せず持久戦にもちこめば、LAEを集めるチャンスだって見つけられるはずだ」
「了解なのだ!」

 元気よく敬礼するヂンガイ。
 いつになく士気は高いようだ、これならいけるかもしれない。

『――そうは、いきませんワヨ』

 不自然な突風が吹いた。
 尋常ではない風速に背を押され、ヂンガイがつんのめっている。

「わわっ!?」
「なんっだこれ! 掴まれ、ヂンガイ!」

 見ると、コソがあごに手を当てて愉快そうに笑っていた。何か仕掛けたらしい。

 駄目だ、風の勢いが強すぎる。体が城へ向かって吸い込まれる。

「燦太郎くんっ!」

 くまりが伸ばした手につかまる。が、どうにもならなかった。

 足が地面から浮かび上がる。姿勢を保つことすらできない。
 さらに追加で突風が吹き、三人は城内へと飲み込まれた。


   ●   ●   ●


 石畳に全身を打ちつけながら転がった。

 隙が生まれないように慌てて地を蹴って立ち上がる。薄暗い。

 天井が丸くアーチを描いた、玉座のような礼拝堂のような不思議な空間だった。
 肌で感じるほどの湿度の高さ。屋内だというのに、壁中にツタが茂っている。

 ステンドクラスが怪しげな明かりをさした先に……コソの姿があった。

 勝ち誇った様子で笑っている。

『あなたたちの戦い方は分析させてもらったワ。どう? ここならLAEは集められないでショ?』

◆作者をワンクリックで応援!

0人が応援しました。

◆コメント欄は未記入でもOK! 公開されないのでお気軽に。

ページトップへ