もしも敬虔な女子高生が〈神は死んだ〉のニーチェ作『ツァラトゥストラ』を読んだなら

『もしも魂が肉体をさげすんでいたら?』

エピソードの総文字数=1,645文字

まず、中公文庫、手塚 富雄 訳。
 かつては、魂が肉体をさげすみの目で見た。そして当時はこのさげすみが最高の思想であった。魂は肉体が痩せ、おとろえ、飢餓の状態にあることを望んだ。こうして魂は肉体と大地の支配からのがれうると信じたのだ。

同じ部分を、


河出文庫、佐々木 中 訳で。
 かつては、魂が肉体を軽蔑のまなざしで見ていた。当時は、このような軽蔑こそが至高のものとされていた。──魂は肉体を、痩せさらばえて、醜く、飢えているものにしようとした。そうすれば、魂は肉体から、そして大地から、うまく逃げおおせると思い込んでいた。
「少々難しい概念が続くようですから、わたくしの丘沢訳ですすめますわよ」
光文社古典新訳文庫、丘沢 静也 訳。

 以前は、魂がからだを軽蔑の目で見ていた。当時は、そんなふうに軽蔑することが最高の態度だった。──からだなど、痩せて、醜く、飢えたものであればよい。そう思って、魂は、からだやこの地上から逃れようとした。


「えーーー、痩せてるのはいいことですよねぇーー」
「健康的なら、そうですわねぇ」
「太り過ぎはどうかと思うが、あまりガリガリもよくないだろうな」

「ぷー」

(プロポーション良い先輩がそんなこと言ってもねー)

 ああ、だが魂のほうこそ、痩せて、醜く、飢えていたのだ。そして残酷であることが、魂の快楽だった!
「またよくわかんなくなってきたかもー。なんで魂がからだを軽蔑するんですか? それが最高の態度だったって言ってるけれど……?」
「これは、前の『毒の調合者』についてとつなげるとわかりやすいかな」
「そうなんですの?」
「ああ、おそらくキリスト教の教えの事だろう。魂が言うところの教え、つまり命令が肉体を軽蔑して、身体に苦行を強いて耐え忍ばせて痩せ飢えさせることこそが最高の態度だった。と言っているのだろうな」
「とんだプラック企業じゃないですかあ!」
「企業じゃないですけどね」

「そして、そんなことを強いる魂こそ、実は醜く飢えて痩せた魂なのだ。といっているわけだな」


「ブラック企業にNo(ノー)! と言ったんですね」

 しかし兄弟よ、おしえてくれ。君たちのからだが、君たちの魂をどう思っているか? 君たちの魂は、貧しくて、汚くて、みじめな自己満足ではないのか?

 じっさい、汚い流れが人間なのだ。俺たちはまず海である必要がある。海なら、汚い流れを呑みこむことができるが、不潔にもならない。

 ほら、超人のことを教えてあげよう。超人とは、この海のことだ。この海に君達は、大いなる軽蔑を沈めることができる。

「身体のほうが魂をどう思っているか……。ブラック企業の社員さんが上司をどう思っているか、ってことですよね。そりゃあ汚いって思うとおもいます……」
「それにこき使われてるのが自己満足、ですのね。やっぱり厳しいことを言ってますわねえ」
「こういう毒舌がまあニーチェの魅力の一部ではある」
「ところで、海は汚しちゃいけませんよね?」
「現代では、そうだな。100年も前だと海はいくら汚してもよいと思っていたのかもしれないな」
「そうして、汚い流れでも、なんでも呑みこんでくれる、それが超人ってこと?」

「軽蔑もわがままもうけとめてくれる。って、まるでお母さんみたいですね。

 超人ってアイドルで、そのうえお母さん! ママさんアイドルなんですね!」

「また超解釈がはじまったな……。


 それにしても、母なる海か……。生命は全て海から生まれたといわれているしな。そして海に帰っていく。その海が超人か……。

 実際、我々オンナが『母親』になるとしたら、男たち(MEN)が言うところの人(MAN)を越えている時という気もするしな。今のところはまだその境地は理解できないが……」


「なにぶつぶついってるのよ」
「せ、先輩、ママになるんですか!?」
「ぶっ!」
「栞理っ! まさか!!」
「ないないないない! 何を言ってるのだ君たちは!!」

──少なくとも、今は、まだ。


そう思いつつ、すこしだけ自分の母を思い出す栞理であった。


〈つづく〉

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