いかに主は導きたまうか。

7. Farewell, My Loved Clarity そして雪が舞った。

エピソードの総文字数=2,566文字

  ボクは彼女のお母さんと二度程会っている。一度目はアメリカから帰ってきてからすぐにお会いしている。彼女と結婚しようと考えていたからだった。彼女の家は、とても古い木造の二階屋だった。その一階の一室(和室)にてお会いした。母君は、かなりご高齢の方だった。彼女と違い、よく太っておられた(彼女は痩せ形)。娘が付き合いをしている人との了解があおありだったのか、初めての出会いにもかかわらず、長く話をして下さった。なんでも、中国で生活をされていた経験がお有りとのことだった、「ピータンの製造には、人には言いにくいが秘密がありますねん」と話されたのを憶えている。言い淀んでおられたが、結局その秘密を口にされることはなかった。ご自身の昔話においての色々な四方山話ばかり話されていたような気がする。本当なら、ボクの様な者が自分の娘となにがしらかのことを考えていることを知っているなら、たいそう心配をされてもおかしくはなかったのではないかと思う。しかし、詮索的な、もしくは批判的な言葉は全く口にはされなかった。ボク自身は、こういったことを想定していただけに、あり難くはあったのだが、なにか腑に落ちない思いがした。きっと、娘も良い年齢なので、本人に全て任せているのだろう(それも、もうかなり昔から)。この母と娘の関係が余り良く飲め込めなかった。あまりに長い時を此の女性達は、二人だけで過ごしてきていたのだろう。母君の話に耳を傾けながら、ずっとこの年老いた女性見ていると、いつの間にか巨大に見えていた。完全に焦点はあっていた。人を長く見詰めるうちに大きく見えてくることはあるのだが、ここまで大きいと目の錯覚ではないのではと思う。この方も、並の人ではないのだろうなと思った。この時分、はたして側に彼女はいたのだろうか?記憶の中では彼女の存在は全くの不在だ。否、居なかった訳はないであろうに.........。

  彼女にボクがH先生にお会いした時のことを話した。とても頼りになりそうな人であったこと、奥様がとても親身になってくれたことなどを話した。彼女は、とても興味深く聞いてくれていた。そしてボクは〈あなた〉を連れて、また近いうちに訪問をしようと考えていること、また先生は既にそのことには了承をくれていることを伝えた。「え〜、私なんかが一緒にいってもいいの〜?」と戸惑いを隠しきれぬ様子で、彼女は驚いて訊いてきた。
  当日、駅を降り、途中の商店街に出てきたので、なにかお土産をと思い、いろいろ物色していると花屋の軒先にあったシクラメンの花に目が止まった。白いシクラメンで、そこそこ大きな鉢であった。これが良いと思った。支払いの段になった時、ボクは彼女に「少しで良いから貴方のお金も混ぜておこう」と言い、千円札を預かった。やがて住宅街に入り、目当ての先生の家が見えてきたので、「あれあれ、あのお家」とその方に指を指した。その方を見た彼女は『え〜〜、なんか子供たちの自転車が沢山並んでいるやん』『なんかの集まりとチャウの〜??』と場違いな訪問であると勘違いして、えらく動揺をしていた。慌てて、ボクもよく確認すると、隣の家の前の様子であった。「いや、あっちの家じゃナイナイ」と言うと彼女は安心した。
  この会談での記憶は、ほんとボクにはない。ボクの役目は済んでいた。下がって、ただ居ただけだった。ボクと違い彼女は、やるべきことをチャンと済ませている人だ。本来は大変に優秀な人物なので、ボクは安心して見守っていることができた。彼女と先生は、いろいろと話をしてはいた。最後に先生が『面倒を見ましょう』と言われていた。家を出てきて、少し経ってから彼女が言った、『あんなに現実に存在している人は見たことがない』と感想を漏らした。ボクは何のことか分からなかったが、「あの人は、もう死んでいるよ」と言った。彼女は、なにがしかの希望を持ちえたことからか、少し高揚した雰囲気をこの後ズットもっていた。*後日、彼女は単独で先生と会談を持っているハズだ。ボクは、このことにおいては全く知らされてはいない。

  師走にも入ったある日、彼女から家に来てほしいとの求めがあった。晩方にお邪魔している。以前にお母様と話した部屋に通された。お母様がお茶を運んできてくれた。先日は、「どうも」と挨拶をする。お母様は、すぐに下がられてしまい、その後は顔を見せられることはもうなかった。彼女と二人っきりで話をした。彼女は終止落ち着いていたように見えた。いつものごとく何を話したかはほとんど憶えてはいない。しかし、二つ憶えていることがある。話をしている中で、なんらかの走査線をボクは走らせていたのか、「こんな所にいたのか」「こんな所に、居たら、あのママでも貴方を見つけられないよ」とボクは言っていた。*彼女は母親を〈ママ〉と呼んでいた。また、彼女自身が、あのお母様と同じぐらい”今”、巨大に見えると言っていた。やがて、どこかの流れで彼女がなにかをした。突然、ボクの中に激変が起った。
   「昌(ショウ)ちゃん、切った〜!」。
ボクは悲鳴にも似た声で言っていた。高圧ホースが手の抑えを離れ、暴れまくるにも似た変動がボクの中にいきなり発生していた。かろうじて平衡を保っていた内部のいろんな力のバランスが崩れて行く。*地殻変動が例えるなら正しい。彼女は落ち着いていた。否、微笑んでいたと思う。そういうことだったのだ。この招きは。
  用は済んだのだろう、おかしな変動が引き続き起る中、ボクは彼女に家の外に送り出される。門の所で「さよなら」の段になって、二人が見詰め合う中、丁度雪が舞って降り始めた。色を添えていただいているのだなと思った。が、ボクには、それを味わう余裕はどこにもなかった。崩壊感は余震として引き続いて起っていた。だが未だ最終には至ってはいなかった。

ED:[ ANSWER GR ] by rockwell

補記:” Clarity ”  明晰、清澄、光輝は、ボクがつけた彼女のコード。

感情(本質)と感情(本質)は結びつ付くことができる。長の年月の中で、それなりの太さになっていたのだと思う。ボクには出来ないこと。どうやるものなのかも分からない。


  
  
  

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