もしも敬虔な女子高生が〈神は死んだ〉のニーチェ作『ツァラトゥストラ』を読んだなら

幕間劇:『ひとみの超訳:ツァラトゥストラ②』

エピソードの総文字数=3,070文字

トーク作品なのになぜか文章作品と化している今日この頃。そのような事情など一切かまわず困った文章を書き続ける天然文系少女、菅原ひとみ。

今回は前回に続いて彼女による超訳第二段の登場である。

作中作ではあるものの、冒頭から変歌などを歌ってこれまたかっとばしているようなので、突然ここから読むと雰囲気についてこれないかもしれない。できれば前回から続けて読んでいただきたい。

【ひとみの超訳!ツァラトゥストラ!②】



♪神は死んだ 神は死んだ まったく死んだ


 寂しがっても もうだめよ 神は死んだ


 たったひとり 唯一神 ああそれなのに


 寂しいな もうだめよ 神は死んだ~♪



森のおじいさんと別れ、即興ソングを歌いながら意気揚々と街へたどり着いたツァラたん。

なんとそこは、まるで彼女を待っていたかのようなイベント会場でした。

既に多くのお客さんが集まっています。


「わあ、こんなに大勢の人が私のために!?」


いえいえ、彼らはこの後、いま売り出し中のお笑いコンビが持ちネタを披露すると聞いて集まってきた人々です。

そんなこととはつゆしらず、勝手に勘違いしたツァラたんは、即興ソングからかねて用意の自作のリリックに切り替え、ロックのビートに乗せて高らかに歌い上げます。シンガーソングライター・ツァラたんのシークレット・デビューライブのはじまりです。

突然始まった路上ライブにお客さんたちはびっくり仰天。

歌われるはツァラたん作、ザ・超人のテーマ。

本人は超人ロックにひっかけたギャグのつもりだったようですが、当然のように会場の皆さまにはまったくもって通じません。



♪超人 超人 アイドル!


 他人(ヒト)の歌 聞くだけじゃダメダメ 自分だって歌わなきゃ!


 愛・愛・愛よ もらうだけじゃダメダメ 自分だってあたえよう! 


 でもって気が付きゃ そうよ 自分がアイドルよ!♪



(きょう)が乗ってこれまた自作の振り付けを披露、歌って踊れるツァラたんなのですが、お笑いが始まるものと思って集まっていた人々はついてこれずさっぱりポカーンとしています。


中には説教じみた歌詞の意味を聞いて、


「俺たちは聞いてるだけがいいんだ! もっと有名なスターをつれてこいよ!」


なんて叫ぶ人たちもいます。


そして、結局これもちょっと変わった前説(マエセツ)なんじゃね? と思ったのでしょう、


「もう前説はいいよ! 早くお笑いを始めてくれ! 俺達はお笑いを見に来たんだ!」


とひときわ大きな叫び声がします。そして、その声を聞いた皆が大きく拍手をしました。


すると、舞台袖で拍手を聞いた漫才師のコンビが舞台へ飛び出してきました。どうやら開始の合図と勘違いしたようです。


まず灰色っぽい服を着た女の子が転びそうになりながら現れ、追いかけるように派手なピエロ姿の男が小走りに出てきました。


「タイトで~す」と後ろのピエロのような服装の男。


「ロープでぇ~す」と前の地味な女の子。


「「二人合わせてタイトロープ~!」」と声を合わせての挨拶です。


てっきり仲良し二人なのかと思えば、いきなりピエロ男子が女の子の後頭部をぶったたいています。


「なに舞台で地味な恰好してやがんだ、俺ばっか目立ってるじゃないか!」


「だってぇ、衣装つくれなかったんですもの~」


しばかれた女の子が前のめりに舞台に倒れこむオーバーアクションを見て、観衆からはどっと笑い声があがります。

どうやらお笑いと言ってもこれはどつき漫才のようです。


こんなドメスティックバイオレンス的なギャグが受け入れられるとは、この街の文化の程度が知れるというもの。

われらがツァラたんも、「ヤックデカルチャー……」なんて謎の呟きをはいて驚きを表現しています。


舞台のどつき具合はどんどんエスカレート、観衆は喜んでいますが、どうも様子がヘンです。まるで本気で喧嘩しているよう。


「いたいいたい! やめてってば!」


「いいや、お前なんかこうしてやる!」


とうとう手だけでなく足もでました。身軽なピエロは女の子を飛び越すふりをして回し蹴りをいれているようにみえます。


まあ、なんということでしょう、ピエロの足蹴から逃れようと、ロープちゃんは舞台からおっこちてしまいました。

舞台の前に置いてあったワゴンにぶつかり、どうやら販促グッズらしいCDもばらまいてしまっています。

これには観客もびっくり。


舞台の上からは


「もうやってらんねえ! お前とのコンビは解消だ! 俺からけり出されて、お前はもう芸能界では死んだも同然だな。あー、せいせいするぜ、あばよ!」


と、ヒドイ捨て台詞をはいてピエロ男は消えてしまいます。

最初受けていた観客たちも妙な雰囲気にいたたまれず、三々五々と散っていってしまいました。


残されたのは大地に突っ伏して泣き崩れるロープちゃんと、その脇にたたずむツァラたんのみ。


しばらくしてから顔をあげた灰色の少女ロープちゃん。


「あなたはそこで何をしているの……? みじめなわたしを嗤っているの? 私は前からわかっていたのよ、この業界向いていないって……。そして、そこからも干されて、もうお先真っ暗……。奴もいってたでしょ。死んだも同然なの。そして、これから地獄に落ちるんだわ」


ツァラたんは答えます。


「いいえ、アンタは立派だったわ。どっちかというと相方のほうがひどかったとおもうけどね」


さめざめと語るロープの話によると、あのピエロの男はお笑い業界の御曹司。強いコネが自慢だそうで、彼に捨てられた彼女は、もう業界に復帰できる見込みは全くないんだそうです。


「誓って言うけど、地獄なんてないのよ。ないところになんて落ちられないでしょ。お笑い業界から干されたって、そもそもそんな業界なんて無かったと思ってりゃいいじゃない」


でもロープちゃんは聞き入れません。


「ダメ。ダメなの」


そういって指さすのは、もはや廃棄するしかないという販促グッズのCDの山。


「これを作るのに全財産を使ったうえ、借金もできちゃって……」


「あらまあ、なんて馬鹿な事を……」


「そう。あたしってホント、馬鹿」


「漫才師がCDを出して売れたのなんて、いったいいつの時代の話? そんなのに全財産つかっちゃうなんて……」


「それで衣装も作れなかったのよ‥‥…」


「はぁぁぁ」


ダメだこりゃ。と、漫才CDが売れた古典芸能時代に付き合って海より深~くいかりやなため息をつくツァラたんです。


(わたしがプロモーターなら何とか売ってあげられたかもしれないけれど……。でも、芸の道は険しいもの、ここで仏心を出すわけにもいかないのだわ……)


〈つづく〉


「あら。綱渡り師さんも女の子ですのね?」
「はい、ツァラたんも女の子だし、合わせておこうかな~って」
「そして落ちて死んだりしないのだな」
「落ち込んでもう死んじゃう~! なんてことは言うかもですけど……。ホントには死んじゃいませんよー。


 たとえ脇役でも、女の子は死んじゃってはだめなのです!」

「ま、まあ、わからないではないが」
「それに、ツァラたんが死体背負って歩くのも嫌じゃないですかあ」
「それはそうだな……」
「でも、それでしたら一緒についてこれてしまって、この後の流れがかわってしまうんではなくって?」
「女子ふたり旅も楽しそうですけど、そこは大丈夫、ちゃんと考えてあります!」
「ほほう」
「じゃ、また、つづきパパっと書いちゃいますね! 少々おまちを~♪」
(そんなインスタントに……。

 やはり、この子はただ者ではなかったようだ……)

そして、ちゃんと考えてあるという続きについても、内容よりも何を考えているかが少々気になる栞理なのであった。
〈まだつづく!〉

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