退魔天使は聖夜に踊る ~復讐の乙女~

【11】リベンジは雪の舞う夜 2

エピソードの総文字数=2,573文字

 途中、警察の検問で挨拶をし、近隣の封鎖状況を確認。 
 俺が仕事をする時と違って吉富組は大所帯だし余計な騒音や被害も出しやすい。
 スムーズな仕事のため、事前に所轄に連絡して、すみやかに駆除地域を封鎖してもらうことになってる。
 でもお巡りさんたちは、正直いい顔をしてない。

 ハンターはどこの町でも警察にはあまり好かれていないんだ。
 ……半分はひがみだけど。

 それに対して、俺はほとんどが単独任務だ。
 シスターは支援役に徹し、大物を仕留める時には狙撃手も担う。
 だから、小物駆除程度では所轄の警察のお世話になることがない。
 多分そこが、教団が俺を使いたがる理由の一つかもしれない。

 ゲートの周辺は、おおむね教団が買い集めた敷地だが、たまに買収に失敗することがある。
 今夜の現場もそんな土地だった。

 地主兼工場オーナーには、

「分かってると思うけど、ごくたまーにバケモノが出るから、有事の際には何があっても知らないよ、特にゲートには近づかないでね、一応は駆除に行くけど」

 って言ってある。
 でも分かっててこんな怖い土地を使い続ける方もどうかと思う。

 従業員の命を何だと思っているんだろう?
 多分サイテーな奴なんだろう。


 俺達は現場の印刷工場に到着し、からっぽの駐車場に車を停めた。
 敷地は広く、一方は資材運搬に使うのか、運河に面している。
 ケモノはあまり水に入りたがらないから、この運河から向こうに渡ることはない。

 俺が車を降りる時、降りにくそうにモタモタしていると、メンバーの中でも大柄なお兄さんが俺を抱き上げ、車から降ろしてくれた。

「すいません……」
「気にすんな。俺は宝田だ。よろしくな、坊主」
「よろしくです。俺は――」
「多島勝利、だろ? みんな知ってるよ」
 確かに、教団では有名人なのは自覚してるけど。

「俺も世界中で人外を含めいろんな奴を見てきたが、天使ってのは初めて見たぜ」
 宝田さん、あんたは外国で一体ナニを見てきたんだ?

「厳密に言うと、天使かどうか、誰もわかんないんですけどね」
「違うのか?」宝田さんはちょっと驚いていた。
「俺はその……羽があるからみんなに天使って言われてるだけなんですよ。捨て子だから親もわからないし」


 クリスマスとは、どこぞの神の子の誕生日を祝うものだということになってるけど、実際はもう少し年末寄りに日付がズレているそうだ。

 聖母に受胎告知をした天使の絵は有名だから見たことのある人も多いだろう。
 俺も便宜上、そいつらと同じってことにされているものの、実のところ本物の天使なんて、誰も実際に会ったことはないし、俺も主とやらの顔も知らなければ声も聞こえない。
 ただ、背中に飛べないポンコツな翼が生えていたから、みんなに天使呼ばわりされているだけで、実は別の種族かもしれない。
 現に各国の伝承には少ないながらも有翼の種族や神族の記述が残っている。

 ――たとえばギリシャとか。

 ただ、どうして教会の前に捨てられていたのか、さっぱり分からない。
 天界に帰るのにジャマになったから?
 それとも両親が死んでしまったのか。

 ……まったく迷惑な話だ。


「ところでさ、羽ってどうなってんだ? 見たところハミ出てないようだが、キューピーみたくちっこいのがくっついてんのか?」
 と、興味津々な宝田さん。

「ないですよ。しまってあるんですー」
「背中の中に?」
「そうですー見てもなんもないですー」
「ホントに?」
 しつこいなあ。子供扱いの次は珍獣扱いかよ、ったくもー。

「ホントですってば! さー行きましょう。仕事仕事」

 俺が、すでに歩き出している吉富さんたちを追おうとすると、いきなりコートの首根っ子を掴まれた。

「いーじゃん、見せろよー。減るもんじゃなし」
 そう言うと、目に怪しい光を灯した宝田さんが俺のコートを剥がし始めた。

「だから何もないんだってば! 減る! やだ! たすけてぇ~~~(泣)」
 じたばたする俺を横目に、他の連中はゲラゲラ笑ってるばかりだった。

「やだー! 寒い! 犯される~~~~!」

 生命の危機に遭ったことは少なくないけど、貞操の危機に出くわしたのは生まれて初めてだった。
 圧倒的な体格差で、俺の装備品はどんどん剥がされていった。
 ひどく寒い。
 寒い寒い寒い。
 寒いったら寒い。

「ひいいいっ!」

 シャツの裾から背中に冷たいものが侵入してきた。
 ヒエヒエの宝田さんの手だった。

「冷たい冷たいやだやだやだやだ出せ出せ抜いて抜いてやだやだらめええええ」
「おんやぁ? なんかブラみてぇのがあるな。ムムム……」
「ぎゃぁあっ、やめてぇっ、ひいぃぃぃぃっ」

 肌に直接着けた、翼が飛び出さないようにするハーネスの下に、ずいずいと指を突っ込んできた宝田さん。

 ブラに手が侵入してくる感触ってこんなカンジなのか?

 こんなおぞましい感触に耐えるくらいなら、カマキリとガチバトルした方がマシだ!

「お、男に穢されるなんて、絶対にイヤだあああああああああああああああああっ!」
「ん? アレ?」

 ハーネスの下をあちこち指でまさぐると、宝田さんが意外そうな反応をした。

「当たり前でしょ! 最初っから何もないって言ったじゃないですかっ、サイテーだ! 陵辱された! もーお婿に行けない! 帰りたい!」

 肩すかしをくらった宝田さんに解放された俺は、半泣きで服の乱れを直した。
 そんな俺を、複雑な表情で見下ろす宝田さん。

「なんでないの……」
「だから……な、中に、背中の中に入ってるんだってのに……」
「すまん」
「ううう……えぐえぐ」

 片手が不自由でうまく着られない俺を、メガネのおじさんがあきれ顔で手伝う。

「しゅ、しゅみましぇん」
「ええよええよ、ウチのモンが悪いんやからきにせんといてや。ワシは海老原いうんや。覚えといてな」

 メガネの関西弁のおじさんは、そう言うと、俺のベルトを締めなおし、パンパンと尻を叩いた。

「ほい、これでええ。しっかりやれや、ボク」
 と、海老原さんは笑ってそう言うと、自分の装備品を担ぎなおした。

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