勇者の武器屋

第二八話 経営会議と魔力の暴走

エピソードの総文字数=3,274文字

そりゃあ勇者とのこれだけの格差を見せつけられたら、沈黙するしかねぇよなぁ? 伝説のナンバーゼロさんよ?

勇者のショートソードやクリスを使ったオーソドックスな講義は需要があって、たまたま私のゾンビ召還講座に需要がなかっただけよ……。召還術を憶えたほうが、あらゆる状況で役に立つはずなのに……。

……いいえ、たとえ低級の召還術だとしても、その程度の召還を実行する魔力に自信があるヤツがいないだけに違いないわ。そうよ、そうなのよ、私は何も悪くない。

……実は僧侶ってさぁ、人類有数の戦闘技術の持ち主の割に……ものすごーーーく仕事できないんじゃねーの?

なっ!? そっ、そんなことがあるものですか! たぶんきっと、私ほど仕事ができるキャリアウーマンなんていないはずよ! この美貌も、戦闘能力も、仕事だって超一流! 何をやらせたって私なら……!

思うだけなら自由だからな。脳内は自分のものだ。

第一、勇者の宣伝活動ってバニースーツ着てたでしょ!? バニースーツなんかで、そのでかいだけの胸をはだけさせてよく剣を振るえるわよね! 講義に集めたのだって男ばっかじゃないの!

でかいだけって……普通に大きいほうが一般的には良いじゃないか。しかも勇者ほどの美女がバニースーツ着てたら、男ならイチコロだろうよ。それだって宣伝努力の一環だろ?

俺たちは稼がなくちゃ生き残れないんだから、非難するようなことじゃないぞ。むしろ努力を讃えるべきだ。

ゴ、ゴメンなさい……。僧侶さんをこんなに怒らせるなんて……。

たしか講義までバニースーツを着てやるって話だったよな?

それなら受講するっていう人が意外と多かったので……。ハイヒールだと剣を教えるのはちょっと難しいなって思いましたが、仕方なく……。足を取られて捻挫しないように気をつけなくちゃなりません。

そりゃ受講生も集まる。誰かさんと違って勇者は偉い。事業を成功させようとするその決意を、ちゃんと誇っていいんだぞ。

それ見なさい。やっぱり鼻の下を伸ばした男に媚び媚びで成功させたんじゃないの。

どちらかといえば男のほうが剣技を身に付けるのには熱心だから、別にいいじゃないか。勇者ほどの実力者から剣技を教わる機会は滅多にあるものじゃない。この3講座コースには、普通に5000Gの値打ちはあるよ。

僧侶だって、人前でバニースーツや水着とかを着て、客寄せパンダになるって覚悟くらい持ったほうがいいぞ。ブランド創設も失敗、講座の開催もからっきし……このままじゃ、アタシらから本当に仕事できないダメな子扱いのレッテルを貼られても仕方ないな。

仕事がまったくできないのは構わんけど、高飛車なところだけは何とかならんのか。謙虚でさえいてくれれば、商品のホコリ拭きとか、銀行への使いっ走りとか、任せられる雑務もあるんだが……。

バカにして!

見てなさい! ナンバーゼロであるはずの私の本領を、これから嫌というほど見せてあげるわ!

そ、僧侶さん……そんなに睨まないでくださーい……。本当に怖くて、足がすくみ上がってしまってます……。あぁ、腰まで……た、立てません……。

ちょ……魔力がすさまじく溢れ出てやがる……。

なんなんだよぉ……アタシが10人集まっても出せないほどの魔力の渦は……。

……………………。

おいおいマズいぞ。魔界の奥深くですら見たこともないほど禍々しい魔力だ……。

い、息が……。許、じて……ぐだ……ざい……。

物心つきしころからの果てしない瞑想を通して、宇宙の極域、ありとあらゆるものに精通した存在――それがナンバーゼロ! 何者であっても、この私の前ではひれ伏してもらうわ!

こいつは本格的にヤバい……。勇者、聞け。まだ息があるうちに、お前さんの持ってる魔力のすべてを使って、魔法打撃力を増幅させる黒魔法マグニファクションを全力で発動しろ。アタシ一人じゃ、僧侶にゃ到底かわない。

う゛ぁか……り……まじた……。黒……魔法……マグ……。

グレイトドラゴンすら一撃で仕留める私の大魔法……勇者の魔力も拝借して、その脳天に喰らってもらうぞ……!

勇者や魔法使いごときひよっこ風情が、100万人集まっても私一人には敵わないってこと、嫌でもその目に刻むがいいわ! 私めがけて放ってみなさい、アンタたちの全力で! どちらが本当の実力者か、嫌というほど思い知らせてやりましょう!

へへっ……本当はさぁ、お前さんのその生意気な口ぶり、いつか塞いでやりたいと思ってた。初めて出会ったころからだ。こいつぁ良い機会ってもんだぜ。

勇者の魔力も借りれば、私のほうが勝るはず。死なない程度に喰らわせてやんよ!

待てお前ら! 話が完全にすり替わってるぞ!? 武器屋を丸ごとぶっ潰すつもりか!?

案ずるな! ぶち抜くのは天上の一点だけだ! わずかな極点に、アタシと勇者の魔力のすべてを結集する!


我と契約せし精霊よ、いにしえの約束に基づき、我が心臓をここに捧げる。我が指し示す天地の一極に災いを巻き起こせ……!
大魔法ファイナルディスラプション!

この大いなる天穹を創り出す神々よ。私の思念は汝と共に。あらゆる光を飲み込み、我に刃向かう災いのすべてを別次元へと吹き飛ばせ。

混沌魔法エンタングルメントウォール!

やっ、やめろーーーーーーーー!!

その刹那。
天上の一点がぶち抜かれ、僧侶の頭上には光の刃が降り注ぐ。
…………。
………………。
……………………。
…………………………。

フフフ……。なにか天上の一角に穴が空いているみたいだけど、槍でも振ってきたのかしら? ちなみに私はトライデントが1000本くらい頭上から振ってきたところで、蚊に刺されたようなものなんだけど。

嘘、だろ……。まるで効いて……ない……?

リスティア王国魔法協会で一番の魔力を持つ私の大魔法が……勇者の魔力も借りて……城を一つ破壊できるくらいの魔力を極一点に注ぎ込んだのに……。
なぜなんだ……?

なんならアンタの大魔法とやらを、あと100発、私に向けて放ってご覧なさい。好きなだけ勇者の魔力も借りて。ゆっくり待っていてあげるから。

……さあ!

…………。

あぁ……魔法使いさんが真っ白に……ケホッ……。

まぁ100発どころか、せいぜいあと1、2発打てば、アンタと勇者の魔力は枯渇しちゃうかもね。なんだ、何も手出ししてないのに私が勝ってたじゃん。戦わずして勝つ、これ兵法の常道。そんな兵法に精通した私が、

仕事ができないわけがない!!

(白目)

キャリアウーマンどころか、いずれ女性大資本家、あるいは女性教皇としてこの世を統べる私こそがこの星の至宝。仕事だって私が世界で一番できる存在であるはずよ。だから私が仕事ができないとか言っていたアンタの言葉、今すぐ撤回してもらおうかしら?

……参り、ました……。

あなた様なら、たぶん仕事もできるんでしょうね……。
ぐう死にたい……。

ふふん。わかればいいのよ、わかれば。まだ私は本気を出していなかっただけ。それだけなのよ。

で、でも魔法使いさん……ケホッ……ケホッ……。

おかげで息が出来るように……ケホッ……。

互いに戦いの次元が高すぎて、俺には何が何だかわからない……。

こいつらに追いかけられたら、そりゃ魔王も逃げるよな……。というか、単に僧侶の禍々しい魔力を押さえようとしただけなのに、互いに本筋から離れていっているような気が……。

はぁ……仕事ができすぎる女って辛いわー。誰からも慕われまくる女って辛いわー。

でも同じパーティーの仲間なんだし、ちょっとは頑張ってあげないとね。もっと頼ってくれてもいいのよ。

僧侶さん、一緒に武具講座を頑張りましょう……ケホッ……。講座を宣伝して生徒さんたちを集めるのは私が担当しますので、僧侶さんには講義で実演してもらったり、ちょっとした白魔法を教えてもらったりしようと思うんです。

教えるっていっても、私の扱い慣れた武器って大型ジャッジガベルしかないけどね。でもそこまで頼まれたら、やってやるしかないか。仕方ないなぁ。

一件落着……なのか? 魔王を倒すより、僧侶をおだて続けるほうが世界平和にとって重要なんじゃ……。

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