放蕩鬼ヂンガイオー

08「ヂンガイオー。かっこいいのだ」

エピソードの総文字数=2,091文字

 こうして、ヂンガイはオレベースに住むことになった。

 天甚の言いつけで、ヂンガイの現代生活における一般常識の教育やLAEを集めるための手伝いなどをおおせつかった燦太郎である。

 不満がないといえば嘘になるが、妥当な判断ではあると感じた面もあるので甘んじて受け入れた。特にLAEに関しては可及的速やかに供給ルートを確立させなければ自分の身が危ない。

 幸い一晩が経過した現時点では見た目や異物感や生理的嫌悪感以外に不便はない。いやどう考えても不便だ。一刻も早く状況を打開したい。

 のだが。

「古代人! 古代人! 大変なのだ! 困ったことになっちゃったのだ!」

 燦太郎のとなりの床で雑魚寝していたはずのヂンガイ(仮にも女子だが部屋がないため問答無用で同室となった)が、急に部屋のカーテンを開けた。

 散らかった部屋に朝日が差し込む。

「まぶしっ! ……って、おまえ、水着いっちょで歩き回るなっつっただろうが!」
「水着じゃなくて戦闘スーツなのだー」 

 燦太郎はベッドから出ないまま、顔だけ向けていいかげんに対応する。きのうの空中遊泳のせいか、全身が筋肉痛であった。

「何が困ったんだよ」

 見ると、ヂンガイはなんだか四角い箱を持っているようだった。……ブルーレイボックス?

 彼女は充血した目を見開いて、笑顔を輝かせた。

「困った困った。ラブキャラの秋星キャラリちゃんが可愛すぎて生きるのがつらいのだ」
「なんでそうなっちゃったんだよ!? しかも、あ、それ店の売り物じゃねえか! なに勝手に開けてんだ!?」

 徹夜したのだろう、ヂンガイはふらふらと怪しい足取りでベッドにもたれかかってきた。

「ふはははは。このヂンガイ、一人遊びは得意中の得意。インターネッツさまさま、一晩もあれば、この世界の娯楽からサブカル知識まで貪欲に吸収してしまうのだ」
「そんな悲しい自慢、聞いたことねえけど」

 燦太郎は人差し指を伸ばしてヂンガイの額にびしりと突きつけた。

「不本意だけど俺とおまえは今日から協力関係になるわけだ。相棒として、どうしても言っておきたいことがある」
「おお、やる気になったようで安心したのだ。さあ、なんでも聞くがいいし古代人」
「まず一つ目、俺は古代人じゃなくて燦太郎だ。桜庭燦太郎。ちゃんと呼べ」
「ぷくく、古代人なりに矜持があるらしいし。かわいいのだ」
「この時代の人間を舐めんなって意味も込めてるからな。あとあとよくよく噛み締めるように。んでもう一つ、おまえの名前だ」
「……は? ヂンガイだって名乗らなかったっけし?」
「そうじゃなくて、あの巨大ロボットを操縦している状態のおまえの名前だよ」
「なんかよくわかんないけど、放蕩鬼の蒼炎号を操っているヂンガイちゃん……? ですけど」
「喝ッ!」
「喝!?」
「いまどきそんな悠長なスタンスで評判を得られるか。そんなこったろうと思って俺が一晩、夢の中で検討しておいた」
「ちゃんと寝てくださいし」
「おまえが横で夜更かししてたから眠りが浅かったんだよ。いいか、耳の穴かっぽじってってよく聞け」

 燦太郎はそっぽを向いて目を逸らし、うつむき加減で静かにつぶやいた。

「……ヂンガイオー」
「え?」

 思ったよりも小さな声が出てしまった。さすがに聞き取れていない様子のヂンガイである。

「ごめん、なんだっけなのだ?」
「るせえ! 何度も言わねーからしっかり覚えとけ! ヂ・ン・ガ・イ・オ・オ! おまえは今日からヂンガイオーだッ!」

 燦太郎は耳まで真っ赤にして怒鳴り散らした。

 言うだけ言ってまた顔を逸らし、首を直角に曲げる勢いで視線を床に落とした。

「んだよ。文句があるなら言えよ」
「……ううん、あたし、別のヂゲンの住民に名前とかつけてもらったことないから」

 ヂンガイの表情はうかがえない。

 けど、その声色はとてもとても優しいものだった。

「ヂンガイオー。かっこいいのだ」
「……そか」

 見上げるのと同時に、ヂンガイはベッドに倒れてきた。

 そのままマットレスに体を沈めて、こっくりこっくりと船をこぎ始める。

「ふぁ……あたしとしたことが、昨日はちょっと興奮しすぎたのだ。あんなに活躍できたのは初めてだったから」

 ニマニマと幸せそうに笑っている。と思ったら、すぐに寝息が聞こえてきた。

「……むにゃ。ヒーローのお手伝い、よろしくなのだ……さんたろぉ……」
「はぁ」

 燦太郎は、ヂンガイの小さな肩にタオルケットをかけた。

「緊張感ない顔しやがって」

 自分は、とうの昔にヒーローへの憧れを卒業した人間なのだ。……それも決して気持ちのいい形ではなく。

 そんなやつが、他人を立派なヒーローにするために手伝うなんて、そんなことができるのだろうか。

「……この俺が、今になって人様をヒーローにするなんてなあ」

 目を細める。
 眩しいばかりの朝日が、本日は快晴であると告げていた。




 ■第一話『ヂンガイオー。かっこいいのだ』……了

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