放蕩鬼ヂンガイオー

4『……許すまじ放蕩鬼』

エピソードの総文字数=1,233文字

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 自動ドアの電源が落とされて人の気配がなくなったオレベースへ、一匹の野良猫がふらふらと近づいた。
 捨てられたゴミをあさるべく、店の裏手に回り込もうと移動する。

 ふと、路地裏がキラキラと輝いたように見えて足を止めた。

 野良猫が目を凝らすと、舗装路に無数の氷の破片が転がっていた。

 風は吹いていない。
 氷は自身の力で浮遊しているように見えた。

 周囲に立つビルとビルとの隙間から、いくつもいくつも小さな氷が集まってきている。

 その集合場所は――道路に穿たれたクレーターの中央。

 氷は瞬く間に集合し、結合し、ひとつの大きな『頭骸骨』の姿になった。
 頭骸骨は煤のような黒いもやを噴出して闇のカーテンを作り出し、瞬間、周囲全てからの視界をさえぎった。

 野良猫は全身の毛を逆立て、甲高い声でひと鳴きしてからビルの裏手へと逃げていった。

 黒いもやは、カーテンが端からほどけるようにして消え去ってゆく。

『……許すまじ放蕩鬼。体を修復するのに手間取ったが、今こそ復讐してくれる』

 中から現れたのは、獅子の巨躯を持った人型の異形――ヂゲン獣シシドクロであった。

 全身は焼けただれ、体中いたるところの体毛が焦げ落ちて体表を晒している。
 特に左の半身は消し炭と化し、ほとんど原形をとどめていなかった。
 首から提げたスカルネックレスも、中央の一つを残してあとは砕け散り、惨憺たる有様である。

 シシドクロは怒りの形相で静かに息を吸い込み、咆哮した。

『先に逝ったヂゲン獣ども! 我に力を貸せえええええええええええええええッッッ!』

 シシドクロのたてがみに、瘴気で形作られた靄のような顔が浮かび上がる。

 シャドーマン伯爵。
 ドクター・イエティ。
 コソ=ザ=アイスレディ。
 そして、大帝ムカデクジラ。

 みな苦悶に満ちた断末魔の表情をしている。

 それぞれの顔が溶けだし、粘性の液体のようにねっとりとシシドクロの全身へとまとわりつく。

『グワハ、力が溢れてくるようだ……我が最期を見届けなかったのが貴様らの過ちよ』

 鋭い眼光がオレベースへと向けられる。

『今すぐにでもお礼参りといきたいところだが、このシシドクロ、同じ失敗は二度と繰り返さん。コソの敗北も見物させてもらったが、LAEの収集を邪魔するなどと遠回りなことはもうよい。放蕩鬼そのものをこのヂゲンから追い返せばいいだけの話であろう』

 スカルネックレスが大口を開けて嗤い、かちかちと氷同士がぶつかる音を上げる。

 それにあわせてシシドクロも夜空を仰ぎ、両腕を広げて呵呵大笑した。

『スピノザ、といったか。……故郷を攻撃されれば嫌でも飛んで帰るだろうて』

 ネックレスからアイススカルが外れ、独自に浮遊をして闇に消えた。

 雨はますます強さを増し、本降りとなって秋葉原の町を冷たく染めた。


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