フェンリル娘と始める異世界生活

決着、そして……

エピソードの総文字数=4,472文字

すごい……。こんなに強いんだ……!フェリルちゃん!すごいよっ!

シューマの驚きの声がフェリルの獣耳にずんと入ってくる。

うれしそうな声。

本心からの声色だと誰にでもわかるくらいに無邪気なそれ。

素直な賞賛。

ちらりとシューマの顔を見るとシューマは顔中をほころばせて喜んでくれていた。


んっ……

そんなシューマにフェリルはなぜか背筋を這い上るゾクゾクとした感覚に襲われた。

尻尾がぶわっとなるのを感じる。

急におそってきたそれにもぞもぞと身をよじる。

今までじぶんが暴れたことで褒められたことなどあっただろうか。フェンリスヴォルフレイスというだけで、その攻撃力は暴走時の脅威となる。

フェリルが強くなればなるほど周りから人がいなくなっていった。

自分が巻き込まれるのはごめんだから。

「暴風」という二つ名も忌み名だとすぐにわかった。

(わたしは周りから危険視されている)


己の命題であった、内側の圧迫感、フェンリルの意志を押しのけた年上の少年。

希望を、可能性を見せてくれた少年。

(シューマは喜んでくれる。ほめてくれる。)

それがフェリルにとってもうれしいと感じられたのだ。

もっと喜んでほしい。もっと褒めてほしい。フェリルはそう思った。


(でも、どうすれば。)


答えは目の前にあった。


褒めてくれる敵(材料)はいっぱいあった。


(簡単だった。いっぱい殺せばいいんだ。そうしたらシューマは褒めてくれる)

ミスの許されない戦闘中の高揚感、シューマのスペクトルの全能感、フェンリルの意志からの開放感。


すべてがフェリルの感情をがんがんと高める。それも異常なほどに。


そしてフェリルはシューマにいいところを見せようとして、自分を省みない突撃を繰り出した。


自分で危険だとわかっていても抑えきれなかった。自らの望みのほうが優先された。


フェリルは護衛を蹴散らしながら王に立ち向かっていった。











フェリルが突如敵の群れに突っ込んでいき、護衛を木っ端のように吹き飛ばしていくのが見えた。

圧倒的な戦果。MVPは間違いなくフェリル。

だが、シューマは今のフェリルの危険な突撃に違和感を感じた。

(フェリルちゃん無理してる?)
あのまま行ったら危なくないっ!?

何故かちらちらとこっちをみながらどこか焦ったように突撃していくフェリルに危機感を感じる。

通常じゃないときには普段よりも失敗することが多い。そしてこの場合失敗は死を意味する。フェリルもその例に漏れないかもしれない。

シューマは即座に判断、加勢することに決めた。

ーー間に合えっ!!

シューマは瞬間的に脚力を集中して強化。足の裏にオーラを挟み爆発させるイメージ。

地面を陥没させ、体の全面に風圧を感じる。風に負けないように前傾姿勢。自然と十傑衆走りになってしまう。今なら水の上も走れそう。


シューマ!一人はあぶないんだな!
おい!そっちは!
王に向かう気か!
ごめん!!


三人が反応して止めようとするが、即座に謝ってシューマはフェリルに追いすがった。








んあああ!!

ついに王に攻撃を繰り出したフェリル。気合いとともに闘技をアクション。

再度の「ヴォーパルソード」。だが今度は王ネズミも対応した。王ネズミの全身を後ろにひねる回避行動、さらに周囲の護衛ネズミの割り込み妨害により、フェリルの致命攻撃は空を切る。

急いで護衛ネズミを蹴散らし王に一撃をくわえるも、タイミングを逃した通常の攻撃では致命打には至らない。

さらに悪いことに攻撃時に脂肪にクローが挟まってしまった。

フェリルも全身で抜こうとする簡単には抜けず、体制を崩してぶら下がってしまう。

そこにフェリルに向かい護衛ネズミが襲いかかる。

ねずみの騎士が剣を突き出し、アクセルラットの集団が雪崩のように襲いかかる。もし逃げ出せても、ポイズンラットの毒壁が待っている。

いくらフェリルでも攻撃のモーション後の弛緩時では裁ききれない量。

ーーん……

あきらめたような達観したようなフェリルの声。自分の無茶が返ってきたことを悟ったのだろう。

力を抜いたのが見えた。






ーーーーだが僕はそれを許さない。

失敗しそうになったらサポートするのが仲間ってもんだろう。

即席の仲間であろうともフェリルはシューマの中ではもう仲間だった。

くそおっ!!

全力をもってオーラの槍を生成。その数数十。

目の前のアクセルラットに全体弱体をかけていく。

そのすべての背中に超高速のオーラの槍を突き刺す。

若干の反発はあったものの抵抗なく突き刺さる。

オーラの槍はイメージを強めたら強めるだけ速くなるのは実感していた。

くっ……!


無理をした代償か響くように頭が締め付けられる。

さすがに、これ、限界、あるのか。


弱体のかかった敵の勢いが目に見えて弱まるが、危険性はいまだ残る。


敵のインパクト直前。


接敵。アクション。これほど集中したときが天才と呼ばれた子供の時以来あっただろうか。


子供時代に迫るフォーカスを感じる。

そうだ。何かを成し遂げるにはこの感覚が必要だったのだ。


ーーーーシューマはゾーンに入ったのを感じた。


鋭敏になった知覚と高速回転した頭脳がフェリルの致命傷となる攻撃を瞬時に判断。


十数の攻撃のうち、3つをピックアップ。


フェリルとネズミの間で急制動。反動で体が吹き飛びそうになるが、ひたすら我慢。


ネズミの騎士の刺突。剣ではじいた。右から飛んできたアクセルラットの切り裂き。左腕を犠牲にする。深々と突き刺さる。左から飛んできたアクセルラットの切り裂き。右膝を高く上げて膝小僧で受け止めた。

すべて、防御にスペクトルを振っているからできた所行だった。

普通なら細切れにされてもおかしくない。

ぐううううううううう!

灼熱の痛みが全身を走る。しかし、致命傷の寒さは感じられない。生命の熱さは未だ健在。


余剰の攻撃が体の表面をえぐっていく。痛みで体がすくみそうになる。

(邪魔だ。今は痛みを忘れる。今はそれは必要ない。)

脳内麻薬がダメージを一時的に忘却させる。


(痛みくらいあとでいくらでもかかってこい。死ぬことと比べたら安い。)

シューマ!!?



ばっと刺さった攻撃から後退すると、もう一度攻撃してきた王ねずみの残りの臣下。毒ネズミの攻撃だけは食らうことはできない。シューマは目の前の三体の首を同時に切り裂き、追いかけてきていた3人兄弟とフェリルが残りを瞬時に鏖殺した。そしてすぐにシューマをつれて離脱。追いかけては来ない。




つかの間の空白が生まれる。シューマはさっきの出来事を振り返った。


我ながら無茶をした。運が悪かったら普通に死んでた。


スペクトルが弱くても死んでたし、スペクトルが使えなくても死んでいた。


割り込めなかったらフェリルが危険だったし、スペクトルが万能じゃなかったら今もあぶなかったろう。


それに、子供の頃の集中力を発揮できなければどこかで失敗して致命傷を負っていただろう。


シューマのスペクトルは回復の素養もあったようで、緑色のオーラを自らにまとわせることで血が止まり傷がふさがっていくのを感じていた。持っててよかったスペクトル。

まだ痛いけど。

シューマは無茶しすぎなんだなっ!!
肝が冷えたぜ……
よく無事だったな!さっすが!
ん……
(助けに入るヒーローっぽかった?ちょっとはかっこいいところ見せられた?


僕だってやれるときはやれるんだよ!)


全身に血がにじんでいるのをそのままに。


大丈夫だというように努めて笑顔を作り、フェリルに向ける。

んんん……

フェリルの顔が悲痛にゆがむ。ケモミミもぺたんとしおれ、しっぽを股の間にきゅっと挟んでいた。じぶんの無茶な行動の結果を悔やんでいるようだ。


もう無茶したらだめだよ?

シューマは自分が上から言える立場ではないとわかっていながらあえてそういった。

フェリルの命を無視するかのような無謀さは見ていて心臓に悪い。

ん。ん。


フェリルは泣きそうな感じの高めの声で返事をして、何度も何度もこくこくと頷いた。

それからフェリルはシューマから離れずに守りに重きをおくようになった。


戦闘が再開される。

フェリルは突貫するよりも、遊撃に適性があった。

いままでチームプレイをしてこなかったからわからなかった適性なのだろう。


フェリルはチームプレイの経験がほぼ無い状態から、この戦闘でどんどんノウハウを吸収していった。


王ネズミといえど、生き物。フェリルの最初の攻撃で、血液が流れすぎて、攻撃に精彩を欠いていた。どんどん弱まっている。

持久戦に利があるのはこちらの方になった。

どばどばと王ネズミから血があふれ続けている。


王ネズミは残った命を燃やすかのように苛烈に攻撃を繰り出し始めた。

周りの三種の護衛ネズミたちも王の意向に沿うように波状攻撃を始めた。

「暴風」の攻撃で王もふらふらなんだな! あとは王が弱るまで防御に徹するんだな!
さすがだなDランク!防御なら俺にも任せろよっ!
防御させる前に俺が吹っ飛ばしてやるぜ!
ブラームスが状況を判断し、エディが構える。クラークがエディの負担を減らすために突っ込んできたネズミをはじき飛ばす。
僕も急いでるけど、敵全員にはスペクトルの弱体効果がかけられないからみんな気をつけてっ!
シューマも全員に注意を促す。さっきの集中はもう今はない。やろうと思ってできるものではないのだ。

勝てる流れができあがった。

王に対しては遅延戦法。

護衛に対しては防御戦法。

危険になれば三人の闘技で攪乱し、フェリルの闘技で殲滅する。


必然的に残されるのは満身創痍になった王ネズミだった。


シューマは瀕死の王ネズミに容赦なくオーラの矢印を突き立てていく。

あまり突き立てすぎても効果は無いようだが、最初の槍が効果を無くしていっているのは感じていたので、上書きの意味も込めて、突き立て続ける。


弱った王ネズミにチャンスを見たフェリルは、再び「風陣」で空中闊歩し、王ネズミの首元に致命の刃を突き立てた。深くは切れずとも、王の体力をそぎ落とすには効果があったようで、みるみる動きが鈍り、ついには自ら地面へと倒れ込んだ。


(ずずん……!)

巨大な肉の塊が地面に跳ね返り、轟音を立てる。

残ったまわりの護衛ネズミたちが蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


おわっ……た?
ぶわっ!!

死んだと思われた王ネズミが巨大な黒の霧へと変化する。消滅の現象。


小さな王冠がカーンと硬質の音を立てながら地面をはねた。


残されたのはサッカーボールほどの大きさの丸くて青い結晶。


ぱきんとわかれて、5人にそれぞれ吸い込まれていく。


すがすがしい感覚。


一回り自分が大きくなったような錯覚が巻き起こる。


これは実際に変化したのだろうか。プラシーボ効果かもしれない。



でも、終わったことは確かだった。

うおおおおお!
ぬおおおおおお!
ふおおおおお!
ん!ん!ん!


それぞれが思い思いの勝ち鬨をあげる。

ガッツポーズをとるブラームス、右腕を振り上げるエディ、ダブルバイセップスをするクラーク。ちいさくしかし力強くこくこくとうなづくフェリル。


ふう……

周りに敵はいない。そろそろスペクトルを切ろうか。


シューマは安心して全員からスペクトルを解除した。

ブワッ……!!



ーーとたんフェリルから藍色のオーラが吹き出してきた。

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