放蕩鬼ヂンガイオー

03「未来からメッセージが届いたそうなんです」

エピソードの総文字数=1,995文字

 次元と次元の狭間、人間不可侵の闇の世界。

 唐突に城があった。
 建つでもなく、浮かぶでもなく、ただ存在する歪な城。マーブル状に捩れた城門をくぐって内部へ進むと、中は迷路となっている。ただし正解の通路はない。

 どこからも辿り付けない構造となっている玉座の間に、一人の女性がひざまずいていた。全身に歯車のような刺青をした半裸の女性である。周囲の空間が蜃気楼のように揺れている。

『吼えーる! 落ちこぼれの放蕩鬼相手に、なにをてこずっておる!』

 怒号が響く。
 が、空間全体から轟くような、どうにも発声源が突き止められない不気味な声だった。

 ……声は厳かに怒りをつむぐ。

『シャドーマンとイエティまで討ち取られたそうだな。不甲斐ないではないか』
『ラヂゲン、ムカデクジラさま。……ひひ、同胞の敗北は残念だけれど、かわりに素敵な情報が手に入りましてよ』

 女性は立ち上がり、城の壁に向かって投げキッスをした。

 口から丸い氷が生まれ、風に乗るように飛ぶ。
 氷に触れたレンガに光が生まれ、ここではない世界の映像が浮かび上がった。映像の中で、放蕩鬼とドクターイエティの戦いが再生されている。

『ひひ。放蕩鬼は、このヂゲンにすむ人間どもの心を奮い立たせることで、効率よくLAEを搾取する戦法を確立しつつあるようですわ』

 言いながら指を鳴らす。
 映像は雪に覆いつくされて消えてしまった。

『ならば、外界との接触を絶ってしまえばいいんですわ』
『策があるようだな』

 女性は立ち上がり、両腕を大きく広げた。

『ムカデクジラさま、少しこのヂゲン城をお貸し頂けるかしら』
『ほほう』

 反響する声が、城の隅々にまで染みこんでゆく。

『面白い、やってみるがいい。期待しておるぞ』
『ありがたきお言葉。このコソめにお任せください』

 女性――コソは背を向け、ヒールが地を蹴る甲高い音を響かせながら闇に消えた。

 誰もいなくなった広間に青い光が生まれ、怪しく揺れた。

『安心するがいい。最初から、貴様一人で仕留められるとは信じておらぬ』

 光は床に落ち、そのまま吸い込まれるように地中へ消えていった。

『もしものときは、余みずから奴らを地獄に送ってくれようぞ』


   ■   ■   ■


「で、ヂンゲエを引き渡せって? バカ言っちゃいけねえよ」

 天甚が、袋入りの赤ウインナーを買い物かごに放り込みながら感嘆した。

「ですからおじいさま、放蕩鬼はAQで扱われる正真正銘の兵器なんです。それに、なにも身柄を預けろといっているわけではありません。こちらの指示通りに行動して欲しいというお話なんです」

 くまりは手を伸ばして買い物かごを受け取り、荷物係を率先して引き受けた。
 格好こそ婦警さんみたいだが、慣れてくると普通の女子にしか見えなかった。

 正直、AQなどという組織をいきなり信じろといわれても無理がある。

 肝心のヂンガイも我関せずという顔をしていたし、最初は疑ってかかっていたのだが、くまりからある提案があったのだ。

 昨日の件は、AQが穏便に処理をした。ヂンガイのことはコスプレ少女ということで編集させているので確かめて欲しい、と。

 燦太郎たちは作業中の天甚の部屋に押しかけ、慌ててテレビを確認した。

 ちょうど放送の真っ最中だった。
 ヂンガイが喋る映像がスタジオへと切り替わり、アナウンサーの男性が締めくくった言葉が忘れられない。

『――はい。ということでして、秋葉原に続々と生まれる新機軸のショップたちでした』

 画面下のテロップに書かれている文字は『コスプレ店員起用の波、飲食業以外にも波及か?』である。ヂンガイの正体を突き止めようだとか、オレベースが隠し事をしているだとか、そういう物騒な気配は微塵も感じられなかった。

 ぽかんとしている天甚に事情を説明したところ、とりあえず信じるしかないだろうという結論になった。何でもすぐに信じる祖父である。

 となれば、このままテレビとにらめっこしていても仕方ないだろうということで、出発しかけていた近所のスーパーにあらためて全員で買い物に来たのである。
 ヂンガイも同行しているが、くまりの登場からずっと機嫌が悪く、全く口を開こうとしていない。

「米国のAQがLAEを利用したタイムマシンの研究をしているんです。全く成功していないんですけどね。ラグランジュ点ワームホールといって、まあ詳しく説明すると日が暮れるんですけれど。とにかくその、結果を出したことのない研究チームの元に未来からメッセージが届いたそうなんです」

 くまりは声のトーンを落とした。

「未来のAQが運用している兵器、放蕩鬼が、どこかの時代に漂流した。発見したAQには帰還への協力を願いたいと」

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