勇者の武器屋

第二四話 生き残るための本当の戦い

エピソードの総文字数=2,219文字

勇者と僧侶の強さにはただただ舌を巻くばかりだが……でも冷静に考えてくれ。どれほど強くたって、実のところ社会的には大した意味はないのもまた事実なんだ。こんな時代だから遠方まで出歩いたり、ダンジョン深くに潜ったりしやすいということはあるが、それと生活にはあまり関係ないからな。
まぁそうだよな。遠方の珍しい植物を持ち帰ったところで高値が付くはずもないし、大半のダンジョンは、もう冒険者たちに荒らされ尽くしてるわけで……。
勇者みたいな無敵の戦闘員だって、社会生活を営めば軽くすっ転ぶことが『ドリームアームズ』の成り行きでも明らかだったろ? とにかく今は商売なんだ。生き残るための本当の戦いに、今の俺たちは取り組んでいるんだ。
それでも、やっぱり持ち前の戦闘技術が完全に無意味だとも思いたくはないところです。せっかくお父さんが人生を掛けてここまで教え込んでくれたものが無駄になるなんて、どこか認めたくない気持ちもあります。本当は平和で争いがない世界のほうがいいんでしょうが……。
安心しろ、どうせ真の平和なんて永遠に訪れやしないから。魔王が、無法地帯だった魔界をまとめて人間界に侵攻してきたから、今だけ人間は団結しているだけだ。仮に魔王を駆逐して一瞬平和になったって、どうせな、すぐに戦争になる。昔からそういうもんだったろ?
教皇庁としても、国々が争っていてくれたほうがいいのよね。国家権力が衰えてくれれば、その分だけ神の影響力が大きくなるのよ。仮にもし魔王が現れてなかったら、工作員の私は、国々を争わせるための情報工作の担当官になっていたでしょう。
そういう裏事情を聞かされると、もう人間界に守るだけの価値があるとは思えんのだが……。
だーかーら。
人間界を守るとか、そういうことは端っから別にどうでもいいわけ。愚民は愚民らしく、いつまでも争い合って、どうぞ好きなように勝手に生きればいいじゃない。私にとって究極的に重要なことは、出世、名誉、地位、そしてマネーよ。魔王を倒せば私は晴れて大司教、そしていずれは女性初の教皇へ……なーんて道があったんだけど、誰のせいでこんなことに……。
ゴメンなさい、やっぱり私のせいなんです……。でも私が得意なことっていうのは、結局戦闘のことばかりになっちゃうので、この状況を打ち破るためにも、自分の得意分野を活かせる道がないかなって思うんです。
そんなにこだわりがあるのなら、その得意分野を突き詰めてもらえるか? もともと新規事業の構想で、武器防具の扱い方講座を開催する事業を考えていたろ? 御用商人の指定を得たことで既存事業はいくらか安定してきたし、いよいよ本格的に新規事業に乗り出していく頃合いだろうからな。
わかりました、喜んで!
武器防具の扱い方ならお任せください!
頑張ります!
アタシもまた勇者と組んで動くか? 講座を開くっつったって、肝心のプログラムを考えなくちゃならんし、講座の宣伝も必要で、客を集めたり管理したりするのも大変だろう。
いや、魔法使いには王国政府とのパイプを強化したり、店の安定に取り組んだりする仕事をこれからも担当してもらいたいと思ってるんだ。要は既存事業の地盤強化だよ。みんなで新規事業に取り組んだら、誰も既存の事業を担う人間がいなくなっちまうだろう。それじゃ本末転倒だ。
アタシは別にそれでも構わんけど……要領が悪い勇者には、新規事業の起ち上げなんてとても務まらない仕事に思えるんだがな。
勇者のサポートは、今回は僧侶に担ってもらおうと思う。
え? 私はブランド起ち上げの仕事があるんだけど?
一人だけ何も進んでないじゃないか。新ブランドの構想を色々考えてもらうのは自由だが、新規事業の一環として、勇者のほうも手伝ってやってくれってことだ。
ふーん、ナンバーゼロのこの私が、アンタごとき弱兵に命じられるなんて、なんだか釈然としないわね。腹立ってきたし。
いやいや、お前らが俺に経営全般を見ろと命じてきたんじゃないか。だったら僧侶が俺の代わりにマネージメントを担当するか?
ダメなのよ私は面倒を引き受けるのは。やっぱりアンタがやりなさい。
結局それかい。俺は『ドリームアームズ』の店員として販売をやりつつ、帳簿を付けたりと日常業務に勤しむことにしよう。あとは各工房が投げ売りする商品を大量買い付けしたり、倉庫の増強などにも取り組んで、裏方を今後もサポートしていくつもりだ。
①既存事業の強化
・全般的な『ドリームアームズ』の強化 → 魔法使い・戦士
・各工房が投げ売りする商品を抱えるための倉庫の増強 →戦士

②新規事業への挑戦
・実用性よりも価値のほうを優先した高級ブランドの創設 → 僧侶
・武器防具の扱い方講座を開催し、潜在顧客を獲得(学校) →勇者・僧侶
改めて整理すると、新しい担当業務はこんな感じだな。
アタシの仕事……全体的な強化ってずいぶん曖昧な指示になったものだな。
要するに、アンタが全部しろってことでしょ。
魔法使い一人に押しつけるつもりはない。俺と一緒に、手分けして工房を回って仕入交渉したり、店頭で商品を売ったり、在庫管理を効率化したり……やることは山ほどある。そういった仕事をするには、繊細な作業ができない勇者には向いていないし、ましてや高慢な僧侶には難しい。結局、消去法で俺と魔法使いしかいないということさ。
消去法というのは気にくわないが、話自体には反論ねーよ。こんなメンツで、よく商売やる気になったよなぁ。

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