放蕩鬼ヂンガイオー

04「あ、ちょっと急に開けるなし!?」

エピソードの総文字数=2,169文字

 ようやく一息つけたのが昼過ぎ。

 燦太郎はエプロンを脱ぎ捨て、駆け足で奥部屋のドアを開いた。

「悪い。俺たちは慣れてんだけど、お前まで同じノリで朝メシ抜きにしちまったな」
「ハートで夢見るラブリーなキャラ! ラブキャラ見参……あ、ちょっと急に開けるなし!?」

 室内、壁いっぱいに映画館のようなでかいアニメ映像が映し出されていた。

 床にヂグソーが一つだけ置かれて点灯している。あれがプロジェクターのような役割を果たしているのだろうか。

 上映されているのは毎週日曜の朝に放送している女児向け変身魔女っ子アニメ『あたしはラブキャラ』。の、変身シーンの真っ最中。

 ヂンガイが、画面と全く同様の変身ポーズをとって片足立ちで固まっていた。

 頬がひくついている。

「お菓子だけでひもじかっただろ」
「見なかったことにするなしっっっ! 余計に恥ずかしいのだっっっ!」

 怒りながら、空になったバウムクーヘンの包装袋を押し付けてくる。

「あとこれ! ……お、お菓子は別に、古代人から食べ物なんてまともに恵んでもらえたことなかったし。悪くなかったのだ。ごちそうさま」

 ぶつくさ言いながらも股間の辺りに手を伸ばしてプロジェクターヂグソーを片付けるヂンガイ。

 え、どこにしまってんの?

「あの。ヂンガイさん、その水着、どういう構造になっているんですか」
「これは水着じゃないのだー。戦闘スーツなのだー」
「それはもういいから。で、今のヂグソーどこにしまったんだよ」
「……ここ、おまたのところにあるポケット、水抜きなのだ」
「やっぱ水着なんじゃねえかッ! 水抜きって水着の構造だろ!」
「水中での運動性も考慮されてるだけなのだ! なんでそんな格好悪い呼び方するのだ!」

 涙目のヂンガイには構わず、かついできた売り物のメイド服を顔に押し付ける。着ろ、というニュアンスを込めて。

「……なにこれ」
「昼飯食いに出かけるぞ。水着だか戦闘スーツだか知らんけど、とにかく往来でそれ一丁はまずいんだ。俺らの貸してもいいんだけど、ろくな服ないからそれのほうがマシだろってじいちゃんが。アキバだしなんとかなるだろ」

 ヂンガイは目を輝かせてメイド服を引っつかみ、閉じたり開いたりして吟味した。

「いいの? キャラリちゃんの服みたいでかわいいのだ」
「あ、そんな感じなんだ」
「衣装まで献上されちゃって、なんだか悪いのだぁ」
「は、は、は。いい子だから合鍵も忘れるんじゃないぞう」

 微妙に腹が立ったが、抵抗されるよりはマシである。
 燦太郎は手早く着替えを手伝い始めた。戦闘服は脱ぎたがらないので、上からかぶせるだけである。

「ちょっと待つのだ。外出ならヂグソー集めて全部装備しなおすから」
「このお馬鹿ッ!」

 燦太郎の容赦ないビンタがヂンガイの頬をしたたかに打ち据えた。

「普通に痛いッ!?」
「ランチくらいでフル装備するな! ちょっと考えればわかるだろうッ!」
「ご、ごめんなのだ。まだこの時代の常識があんまりなくて……」
「ったく。最初から装備して出撃なんてあり得ない。別々に出撃して現地で合体するから格好いいんだろうに」
「……」

 ヂンガイが無機質なロボのような目でこちらを見ているが気にしないことにしておく。

「そう心配すんな。昨日の今日でまたヂゲン獣が現れるとは思えないけど、いちおう対策として秘密兵器用意したから。秘密兵器」

 生き生きとリュックサックを叩く燦太郎。
 対するヂンガイは特に興味の無い様子である。

「ふう、今日はつかれたのだ。仕事はもう、こりごりなのだ」
「はえーな。……お客さんの反応見た感じだと、おまえ、けっこう人気ありそうだったぞ」

 喜ぶかと思って伝えたのだが、ヂンガイはメイド服の袖に手を突っ込みながら顔をしかめた。

「そんなことないのだ。確かに表面上は好意的なポーズをとってたけど、あれは罠だし。油断を誘っておいて、後ろからガブッ! なのだ」
「完全に疑心暗鬼になってんな。……お前が威嚇してた雁さんだって、娘さんのことさえ絡まなきゃ優しいひとだぞ」
「ああ! あの大男! 最初見たとき、ヂゲン獣かと思ったのだ! 娘の復讐のために刃物を振るうとかなんとか、古代人にふさわしい物騒なことをほざいていたのだ」
「まあ、雁さんにバレるのはなるべくさけてーな」
「やつはあたしの正体を疑っていたのだ。ただでさえ人間は信用できないけど、ガンはとくに要注意なのだ」
「おまえ、人々を守るのが仕事のくせに人間嫌いって構造的欠陥だぞ」

 などとやっていたら、ドアがノックされた。
 開けると天甚が五千円札と風呂敷包みを持って笑っている。

「おめいら、今日は寿司食ってきていいかんな。これ、さっきのお返しに梅酒。ついでに渡しといてくれや」

 燦太郎は色めき立ち、手を叩いて五千円札を拝んだ。

「マジか! おいヂンガイ! やったな、今日は寿司だ! ……え、あ、でもさっきの今でもう再会か!? しかし寿司は捨てがたいしな……ううむ、バレなきゃいいけど」

 ころころと表情を変えて一人で煩悶する燦太郎。
 ヂンガイは、ワンピースの上にエプロンをかけながら首をかしげていた。

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